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360 南方出発に向けて

「おお、テオドール。戻ったか!」


 通信機で宝珠を手に入れたことを各人に通達して迷宮を脱出。そのまま王城へ向かうと、待たされることもなくすぐに戦装束のメルヴィン王がやってきた。臨時の発令所として迎賓館を使っているのだ。


「はい。宝珠と書物はここに」


 メルヴィン王に宝珠と儀式の手順を記した書物を渡す。


「うむ。大儀であった。ミルドレッド。これを保管場所へ」

「はっ」


 メルヴィン王は宝珠をミルドレッドに渡し、書物を自分で預かる。宝珠を受け取ったミルドレッドは一礼すると宝珠を保管するために近衛の騎士達と共にその場から離れていった。


「どうやら魔人達は現れなかったようです」


 今回は魔人を撃退していないために、みんなも一緒に王城まで来ている。別行動したところで魔人と遭遇するというのもぞっとしないし。


「やはり、戦力を温存しているということかな」

「かも知れません」


 頷くとメルヴィン王は苦笑した。


「うむ。確かに魔人の動向は気になるが、そなたらに怪我がなくて何よりである」

「ありがとうございます」


 一礼して答えるとメルヴィン王は労いの意味を込めてか、迎賓館の貴賓室でしばらく休んでいくように言ってきた。俺としても特に異存はないので、勧められるままみんなと共にメルヴィン王に続く。

 貴賓室に通され、テーブルの向かいに座って茶を淹れてもらう。茶に口をつけて一息ついたところでメルヴィン王が口を開いた。


「さて。話の続きであるが。まだ判断を下すには早いゆえ、しばらく様子を見るために当分の間巡回は増やしておくように通達してある」

「はい。今まで魔人達は襲撃の時期を封印の解放と正確に合わせてきましたが、今回姿を見せなかったからといって、諦めたというわけではないと思います」

「うむ……。向こうの考え方が変わったと見るべきであろうな。契機となったのは黒骸を倒したあたりからか。これは力押しを止めたということであろう」


 ガルディニスか。確かに奴は魔人の中でも一目置かれるような存在だったようだし……。あいつを倒したことで魔人達も少数精鋭であっても逐次投入では埒が明かないと考え方を変えたわけだ。実際、デュオベリス教団まで呼び込んでおいて失敗したわけだしな。

 いっそ力押しであったほうがこちらとしても対応はしやすかったのだが……まあ、それは仕方が無い。向こうも腹を括って甘い考えを捨てたというのなら、こちらも今まで以上に気合を入れるしかない。

 そのためにはまだまだ力を蓄えるだけでなく、来たるべきその日のために準備を万端整える必要があるだろう。


「ふむ。儂から忠告をするような必要は無さそうじゃな」


 俺の表情を見たイグナシウスが笑い、メルヴィン王も笑って頷く。


「うむ。それから……南方に赴くとのことで、余も例の聖地なる場所についての情報を集めておったのだが」

「はい」


 メルヴィン王の言葉に頷く。この言い回しからすると何かしらの情報を得たということか。近々向かう予定の場所であるだけに、みんなも興味深そうにメルヴィン王の言葉に耳を傾ける。


「どうにも、中々変わった場所であるらしい。年々近くの砂漠は広がっておるというのに、その土地だけはどういうわけか昔から変わらず森が残ったままだと」

「また……不思議な場所ですね」


 ……BFOでは聞いたことがないな。未実装エリアにある場所だったか、それとも。


「森自体も不思議な場所らしくてな。奥へ進もうとすると森に慣れた者でも迷わされ、いつの間にか外に出てしまうだとか」

「砂漠に侵食されない……。奥へ向かうと追い出される森。何か結界が張ってあるのかも知れないわね」


 クラウディアが思案するような様子を見せながら呟く。


「確かに……。いかにも、森の奥に何かありそうな感じですね」

「うむ。余としては、以前耳にしたエルフの里を思い出すような話ではあるが」

「エルフの集落がある森に入ろうとした者が、精霊に惑わされていつの間にか森の外に出されてしまう、というものでしたか」

「うむ。魔人に関係があるとなればエルフ絡みではなく、何かしらの封印や結界ではないかと思うがな。場所が森となると、やはり冒険者ギルド長のアウリアに助言を求めるのが良いのかも知れん。或いはシリウス号であればその必要もないのかも知れんが、念のためにということでな」

「そうですね。確かに」


 アウリアには、セラフィナの時にも助けてもらっているしな。


「まあ、テオドールさえ問題が無ければ余から冒険者ギルドに話を通しておくとしよう」

「では……よろしくお願いします」


 ということで、その日は話がまとまった。




 明くる日。工房を訪れ、中庭で訓練をしながらあれこれと魔道具の作成を並行して進めていると冒険者ギルドからアウリアがやってきた。


「おお、テオドール」


 アウリアは笑みを浮かべて、門のあたりからこちらに手を振ってくる。昨日の今日でメルヴィン王から話を受けて、早速訪れてきてくれたらしい。


「こんにちは、アウリアさん」

「うむ。まずは昨日の宝珠回収、お主らに怪我が無くて何よりじゃな」

「ありがとうございます」


 アウリアを中庭に迎え入れて、庭に出していたテーブルの向かいに座って話をする。


「どうぞ」


 早速グレイスが茶と焼き菓子を持ってくる。


「おお。すまんのう」


 と、アウリアは礼を言うと早速菓子を口に運んで顔を綻ばせていた。そんなアウリアのリアクションにグレイスも微笑みを浮かべる。


「いや、メルヴィン陛下から通達があったのでのう。どうも怪しげな森に出かけるというではないか」

「そうですね。何やら森の奥に進もうとすると外に出されてしまうとか。それでアウリアさんに話を聞いてみてはということになったのですが」

「うむ。エルフは森の民。森の精霊や妖精達と契約をかわし、森を守ることで森もまたエルフを守る、といった侵入者対策を行うことは、確かにある」

「その場合、精霊達が妨害しているかどうかの判断は付くものなのですか?」


 尋ねると、アウリアは頷いた。


「契約を交わしているとはいえ、精霊達から話を聞くことぐらいはできよう。奥に立ち入らせたくないから迷わせるということならば、相手がエルフであるならば、そのように諭したほうが手っ取り早いじゃろうしな」


 ……ふむ。なるほど。片眼鏡もあるし、精霊達の動きが異常ならば見れば分かるかも知れない。


「魔法的な仕掛けであるならば逆に精霊達は自由じゃ。その場合は助力を請うこともできよう。そなたらさえよければという話ではあるが、儂も同行すれば力になれると思うのじゃが……どうかのう?」


 と、アウリア。問われて、考える。確かにそれは助かる話ではあるのだが。


「それは――ありがたい話ではあるのですが、大丈夫なのですか? ギルドの仕事などは?」

「ま、問題はなかろ。オズワルドやヘザーには小言を言われそうじゃがな。儂が留守でも問題なく仕事は回るようにはなっておるよ。何よりテオドールにはギルドも儂個人も、世話になっておるしな」


 そう言ってアウリアは肩を震わせた。みんなと少し顔を見合わせて、頷き合う。


「では……協力をお願いしてもいいでしょうか?」

「うむ。任された」

「森の探索だけでなく南方の政情不安を考えると、タームウィルズ冒険者ギルドの長が同行するというのは有り難いことかも知れないわね」


 ローズマリーが羽扇を閉じたり開いたりしながら言うと、アシュレイがその言葉に同意する。


「向こうの冒険者ギルドからも協力していただけそうですからね」

「確かに、あちらにも多少の伝手はある。他所の支部長程度では大した権限もないが、儂にできることはしよう」


 確かに強権を振るえるというわけではないのだろうが、それでも冒険者ギルドからの信用という点で考えれば、足がかりを作ったり情報を得たりと、多方面において助けになるだろう。森の探索だけに限った話ではない。南方に訪れる前に心強い助っ人ができたと言えよう。まあ……幸せそうに焼き菓子を頬張る姿からはそんなふうには見えないのだけれど……。


「それじゃあ、吸血鬼対策の装備を1人分増やさないといけないね」


 アウリアの同行が決定したところで、アルフレッドが軽く身体を解すように肩や腰を回しながら言った。そう。吸血鬼対策装備を作成している最中なのである。


「ではアウリア様。採寸をするのでこちらに来ていただけますか?」

「おお。何やら楽しくなってきたのう」


 と、アウリアは巻尺を持ったビオラに連れられて、隣の部屋へと採寸に向かうのであった。

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