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354 秋の宴

 シルン男爵領での温室作りも終わり、ミシェルにノーブルリーフ達を預けた後、男爵家で少し寛いでからタームウィルズへと転移魔法で戻ってきた。

 父さん達はガートナー伯爵家の別邸へ。俺達は家に戻り、諸々の準備を整える。


 俺としては誕生日とは言っても身内でのんびり過ごせればそれでいいのではないかとも思うが……家主でもあるし異界大使という立場上からも、宴席を開かないというわけにもいかないようだ。そうでなくてもみんなも祝う気満々なようだしな。

 まあ……祝いの席にすると言うなら普段世話になっている人を呼んで、歓待するような席にしたいと思う。


 そういう意味では招待している相手も知っている者ばかりだし、気楽と言えば気楽だ。ということで、いつも通りの日常を送りながら宴席の準備も進めていき――あっという間に誕生日当日を迎えることになった。


「この机はどこに運べばいい?」


 レビテーションの魔道具を用いてシーラが大きなテーブルを運んできた。レビテーションがあると1人で重い物も楽に運べるので色々と捗るところだ。


「ええと。このへんかな」


 中庭の一角にシーラと共に、テーブルを配置。清潔そうな白いテーブルクロスをかけて、ナイフやフォークなどを席に並べる。

 パーティーメンバーや使用人のみんなと一緒に宴席の準備を整えていくと、食欲をそそる香りも厨房から漂ってきていて、何とも良い雰囲気になってきた。


 料理については迷宮産の食材を買い付けたり調達しに行ったりした。具体的には魔光水脈に降りて魚介類の調達だ。ウニやシャコ、サザエにフカヒレなどを狩りに行っている。魔光水脈は食材の宝庫なのでいい感じに狩りも捗った。


 後は火精温泉の水を汲んで来て料理に用いたり、お化けカボチャの料理や、無花果のジャムなどを仕込んだりといった具合だ。

 元手としてはそれほど掛かっていないが、他では調達しにくいものを総動員している。グレイスやセシリア、ミハエラ達も数日前から料理を仕込んだりと、中々気合が入っているようである。


 俺は俺で、中庭の一角に即席でステージを設けたりしている。イルムヒルト達が楽士役を買って出てくれて、演奏をしてくれるというので……それならばとステージを用意したわけだ。中庭に面した客室を開放して、上階からでも見えるようにしてある。勿論、客室側にも料理や酒を用意する予定だ。


 リンドブルムも今日は王城から飛んできているが、皆が忙しそうと分かると邪魔にならないようにステージ横に大人しく鎮座しながらカーバンクル達と尻尾で遊ぶことに決めたようである。

 カーバンクル達は客が集まってきたら客室に移動してイルムヒルト達の演奏を楽しんだりのんびりさせてもらうそうなので、今リンドブルムが遊んでくれているのは丁度良いのかも知れない。まあ、リンドブルムには後で鶏肉でも差し入れてやろう。


 そんなこんなで細々とした準備を進め、昼が近くなった頃に招待客もぼちぼちと現れ始める頃合いになった。玄関ホールに移動し、招待客を出迎えるために待機していると――最初に現れたのは冒険者ギルドと神殿の面々であった。


「おお。テオドール。今日はおめでとう!」

「こんにちは、テオドール様。お誕生日おめでとうございます」


 馬車から降りてきたアウリアと、巫女頭のペネロープが笑みを浮かべて一礼してきた。


「こんにちは、アウリアさん、ペネロープさんよく来てくださいました」

「はい。マルレーン様、こんにちは」


 ペネロープは穏やかな表情で、マルレーンにも挨拶をしている。マルレーンは嬉しそうにペネロープのところへ向かった。

 それから2人と一緒にやってきた他の面々とも挨拶を交わす。一緒に来たのは受付嬢のヘザーに副ギルド長オズワルド。ユスティア、ドミニクと護衛役のフォレストバード達。テフラも一緒なのはなんだろうな。アウリアと親しげに会話してるが……温泉街で親しくなったのかも知れない。さすがは精霊と親和性の高いエルフというか。


 挨拶もそこそこに玄関ホールから使用人に、宴席の会場へと案内してもらう。続いてやってきたのは工房組だ。


「ああ、アル。いらっしゃい」

「こんにちは、テオ君。誕生日おめでとう」


 アルフレッドと一緒に来たのはその婚約者オフィーリア、鍛冶師のビオラにタルコットとシンディー、それに迷宮商会の店主ミリアム。ロゼッタの姿もある。ジルボルト侯爵家令嬢ロミーナと護衛役のエルマー、ドノヴァン、ライオネルも一緒だった。

 ペレスフォード学舎に通っている面々でもあるな。それでロゼッタやロミーナともタイミングを合わせたのかも知れない。


「大使様、今日はお招きいただき、誠にありがとうございます。謹んでお祝い申し上げますわ」


 そう言ってオフィーリアはスカートの裾を摘まんで挨拶をする。


「はい、オフィーリア様、こちらこそわざわざ足をお運びいただき、ありがとうございます」


 一礼して言葉を返す。


「こんにちは、皆さん」

「ああ、アシュレイ様」


 アシュレイが挨拶をするとオフィーリアやロミーナが親しげに挨拶を返す。学舎の友人同士だからな、彼女達は。そんな彼女達を穏やかに見守るロゼッタという構図だ。

 続いて父さん達。裏では繋がりがあるのを隠すためか、家紋の入った馬車は使わなかったようだ。


「今日はおめでとう、テオ」

「テオドール、おめでとう」

「ありがとうございます」


 ダリルは集まっている面子を聞いているのか、少し乾いた笑顔で俺に言う。


「……冒険者ギルド長に副長、神殿の巫女頭様に騎士団長がお2人……。王族の方々もお出でになられると聞いているんだけど……」

「うん。そうだな」

「挨拶回り、するんだよね……」

「まあ……無難に済ませるのが正解じゃないか?」

「うん……。避けては通れないしな……頑張るよ」


 父さんと一緒に回るんだろうし……多分大丈夫だろう。領主になったらそういった面々とも顔を合わせる機会も増えるし、最初に高いハードルを越えておけば後々楽になる……ような気がする。


「ではテオ。また後でな」

「はい、父さん」


 ダリルの様子に苦笑する父さんである。家の奥へとアルケニーのクレアに案内されていった。


 続いて西区の人々。孤児院のサンドラ院長に、ブレッド少年他数名。孤児院の面々は劇場の従業員として世話になっている顔触れである。

 昼に訪れてきたのは数名だが、夜になったら孤児院の皆も呼んで、泊まっていってもらう予定だ。

 更に盗賊ギルドの前ギルド長の娘ドロシーも訪れてきた。こちらはシーラの繋がりでの客だが、ドロシーの保護者で盗賊ギルド幹部であるイザベラは立場上遠慮した感じのようだ。


「こんにちは、ドロシーさん」

「はい。テオドール様、ご無沙汰しております。今日はおめでとうございます。イザベラさんからも、この度はおめでとうございますと伝言を預かっています」

「分かりました。ありがとうございますとお伝え願えますか?」

「はい、勿論です」


 ドロシーとも挨拶を交わしたところで、シーラがやってくる。


「ドロシー」

「シーラ、こんにちは」

「ん。こっち」


 と、ドロシーはシーラが案内するようで、家の中に入っていった。


 ――最後に、王城の人達。

 ジョサイア王子にステファニア姫、アドリアーナ姫にイグナシウス。それに護衛役も兼ねてエリオットにカミラ。メルセディア、チェスターといった討魔騎士団の面々と騎士団長ミルドレッドとラザロ。


「いやはや。そうそうたる顔触れじゃな。千客万来と言おうか」


 と、ジークムント老が小声で苦笑していた。全くだ。

 ついでだし色々な面々にコルリスのことも周知してしまおうと、コルリスも同行させている。コルリスは直接中庭に行ってもらうとして、まずは王城の人達と挨拶をしてしまおう。


「こんにちは、テオドール」

「はい、ステファニア殿下」

「おめでとう、テオドール殿」

「はい。ありがとうございます」


 と――見覚えのない初老の男も挨拶をしてきた。

 魔術師風の出で立ちだが……魔術師隊の人物だろうか?

 それにしては、雰囲気に覚えがあるというか……。杖を持つ手に着けている指輪が目に入る。……あれは、アルフレッドやローズマリーが着けていたものと同じだ。となると……。


「……もしかして、メルヴィン陛下でいらっしゃいますか?」


 そう小声で尋ねると、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「……うむ。もう見破るとはさすがよな」


 同じように声のトーンを落として、そんなふうに言うメルヴィン王。


「今日はお忍びですか」

「うむ……。普段はこういう席に余が赴くと他の者も寛げぬから遠慮しておるのだがな。去年は代理で済ませてしまったし、今年は行かねばな、と思っていたのだ。他の者には魔術師隊の知り合いとでも説明しておいてくれればよかろう」

「分かりました……。騎士団長はこのことは知っておいでですか?」

「指輪のことを知る者は余の変装と知っておる。勿論ミルドレッドも含めてな。警備上の手間はかけさせん」


 ……なるほど。メルヴィン王には少し驚かされてしまったが、これで招待客も揃った。メルヴィン王については魔術師隊の偉い人なので失礼のないようにと言い含めておけば問題はあるまい。


「では、移動しましょうか」


 みんなにそう告げる。グレイスと視線が合うと、彼女も嬉しそうに頷いた。

 連れ立って中庭に向かうと、もうすっかり準備が整っていた。料理の匂いと明るい音楽が空間を満たしている。

 ステージの両脇は何やらリンドブルムとコルリスが固めていた。2人とも大人しく鎮座している。

 その横ではフローリアがにこにことしながら浮遊するノーブルリーフ達を従えていて……幻想的というべきか何というべきか、やや形容の難しい空間が広がっていた。だがまあ、雰囲気は楽しげだ。さて、宴席を始めるとしよう。

いつも拙作をお読み頂きありがとうございます!


過ぎてみると早いもので、連載開始から数えて今日で丁度1年になりました!

ここまで毎日投稿を続けてこれたのも皆様の応援あってこそです。ありがとうございます!


というわけでもこれからも頑張っていく所存ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。<(_ _)>

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