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342 大土竜、冒険者ギルドへ

 ――翌日。炎熱城砦の一件や、コルリスの採寸など、いくつかの用事があるのでまずは工房へ向かった。アルフレッドと一緒に、ステファニア姫とアドリアーナ姫、そしてコルリスも王城からやってきている。


「おはようございます」

「ええ、おはよう」


 と、朝の挨拶を交わす。


「夕べはゆっくり休めたかしら?」

「ええ。家はやっぱり落ち着きますね」


 笑みを浮かべて答える。


「それじゃあ早速だけど、首回りから測っていこうか」


 巻尺を手にしたアルフレッドとビオラが手分けして、てきぱきとコルリスの首回り、手首、二の腕、腰に足首の太さといった、各所のサイズを測定して紙に書きつけていく。コルリスの体格だと、大体が特注品になってしまう。


「襟巻きはどんな魔道具にする予定?」


 と、作業しているアルフレッドに尋ねてみる。


「モグラは陽の光が苦手って聞いたから、闇魔法で防御してやるのが良いんじゃないかなって思うんだけど」

「なるほど。そうなるとルナワームかアルケニーの糸で織った生地に、装飾として闇魔法の魔石を仕込む形になるのかな」


 闇魔法向きの魔石はヴァレンティナに協力してもらう形になるか。


「そうなるかな。後はシールドやレビテーションの魔道具を用意してやるのが良さそうだ」


 うむ。コルリスの場合は前足をシールドに引っ掛けたり空中に足場を作れれば色々な動きができるだろうからな。瞬発力を活かして動くタイプなので、エアブラストを用いるよりもレビテーションの使い方に熟練してもらうほうが効率が良さそうだ。


「もう一点。迷宮から素材を持ち帰ったり、赤転界石を持ち運ぶのに、背嚢か鞄が必要だと思う」

「分かった。ファイアーラットの毛皮が余ってるから、それで作ろう。裏地にルナワームの糸を使って、エンチャントで強化してやれば丈夫なものが作れる」

 

 コルリスに使ってもらう魔道具や道具の話が纏まったところで、ビオラが壁に立てかけてある包みを指して口を開く。


「そうそう。前に預かっていた大剣の修復も終わっています」

「ああ、ありがとう。色々と大変だったんじゃ?」

「そうですね。あたしも初めて挑戦する製法だったので……。新しく武器を試作してから本番に臨みましたよ」


 ビオラは苦笑すると試作品だという短剣を見せてくれる。ラザロの大剣と同じ、鏡のように輝く滑らかな刀身を持つ代物であった。

 どうやらラザロの剣を修復するにあたり、かなり気合を入れたようだ。


「綺麗な刃物ですね。使いやすそうです」


 ビオラの手にしている短剣を見たグレイスが、笑みを浮かべて感想を述べた。


「ありがとうございます」


 ビオラは短剣を鞘に収める。


「じゃあ、確かに」


 壁の大剣を受け取る。これに関しては騎士団長ミルドレッドと予定を合わせてラザロに返しに行く必要がある。通信機に連絡を入れて日取りを決めることにしよう。


「そうそう。新しい武器も試作品ができてますよ」


 ビオラは続いて机の上の包みを開く。出てきたのは利き腕用の部分鎧、といったところだ。ビオラはそれを自身の右肘に手慣れた様子で装着すると、腕を曲げる。

 金属音が鳴って何かが飛び出したような気配があったが……目に見えての変化はない。何も無い空間にビオラが手をやって軽く爪で叩くような仕草を見せると、そこには何かがあるらしく、硬質な物にぶつかる音がする。


「この部分鎧自体が魔道具ですね。魔石を通して魔力を送ると、肘の部分から不可視の刃が飛び出します。お望みであれば手首や膝、爪先や踵などにも仕込めるかと。シーラさんに向いているかなと思いますが」


 ……インビジブルリッパーの腕を利用した暗器の類だな。近距離での格闘で相手の不意を突いたり間合いを狂わせたり、使い道は色々あるだろう。


「ん。かっこいい」


 シーラが感想を述べると、ビオラがしてやったりというような笑みを浮かべる。


「そう言ってもらえると嬉しいです。使い道を間違えると少し物騒な装備ですけどね」

「暗殺に使えてしまうものね。冒険者ギルドに売らなかったようだけど、正解だと思うわ」


 ローズマリーが苦笑する。


「ん。誤解を受けないよう気を付ける」


 公の場所には着けていかないだとか、そんなところか。契約魔法で個人認証的な処理をしておくのも良いかも知れない。


「後はこの素材を使って矢を作ってみるというのはどうかしら? 使い捨てにするには素材が貴重なので勿体ない気もするけれど」


 というアイデアを出したのはクラウディアだ。


「……不可視の矢か。どうだろう?」

「何本か隠し玉として用意しておくのも良いかも知れないわ」


 イルムヒルトが笑みを浮かべた。


「それでは、試作してみます」

「テオ君は、この後は冒険者ギルドへ?」

「ああ、その予定。アドリアーナ殿下もご一緒なさいますか?」


 アドリアーナ姫に尋ねる。

 アドリアーナ姫も「滞在中に一度は迷宮に降りて月の魔法王国の力を肌で感じておくように」と言われているらしい。

 その場合、騎士団から護衛を付けるかどうかという話になるのだろうが……まあ、多分アドリアーナ姫はステファニア姫と一緒のほうが何かと気楽だろうとも思う。


「足手まといにはならないかしら?」


 と、アドリアーナ姫は答えるが……実際、アドリアーナ姫も魔法の腕も結構なものらしい。今回は比較的浅い階層の探索となるので、しっかりと護衛をすれば問題はあるまい。


「比較的浅い階層ですから、大丈夫でしょう」


 パーティーメンバーに加えてステファニア姫、アドリアーナ姫、コルリスという面々が同行するので、こちらの戦力も十分だしな。




 ……工房であれこれと打ち合わせをしてから、コルリスを連れて冒険者ギルドへと向かった。

 コルリスの装備品はまだ揃ってはいないが、ベリルモールの情報は冒険者の間では口コミでも広がるので周知は早ければ早いほど良い。

 俺達は馬車に乗って移動。コルリスがその後ろについてくるという形で街を行く。


「おお……? なんだありゃ」

「ああ。ギルドから通達があっただろ?」

「モグラの魔物……ベリ……なんとかって奴?」

「ベリルモールだったかな」

「そう、それだ。いや、本当にでかいんだな」


 広場に近付くと冒険者達の会話も聞こえてくる。

 コルリスの姿はやはり人目を引いているようで。否が応にも目立ってしまうが、そこはかえって都合が良いと考えるべきだろう。

 冒険者達には既にギルドから通達が行っているので、案外混乱は少ないようだ。


 やがて冒険者ギルド前の広場に到着。ステファニア姫、アドリアーナ姫と連れ立って馬車から降り立ち、コルリスを連れてギルドの中へと進む。

 ギルドの中にいた職員や冒険者、一般客は最初、コルリスを見て目を丸くしていた。一般客はかなり驚いていた様子だが、職員はすぐ俺達に気付いたようだ。居住まいを正して立ち上がり、挨拶をしてくる。


「これはステファニア殿下、アドリアーナ殿下。大使様もご機嫌麗しゅうございます」


 と、受付嬢のヘザー。話を通してあったから対応もスムーズだ。


「ええ。今日はよろしくお願いするわね」


 ステファニア姫の言葉に、ヘザーが頷く。


「はい。少々お待ちくださいませ」


 と、ヘザーは奥へと走っていく。程無くしてギルド長のアウリアと副ギルド長のオズワルドが出てきて、それぞれ挨拶をかわす。


「これがベリルモール……ステファニア殿下の使い魔ですか」


 挨拶を済ませたところでオズワルドがベリルモールを見やり、目を細める。


「ええ。コルリスと名付けたわ。コルリス、挨拶を」


 ステファニア姫が言うと、コルリスが立ち上がってお辞儀をする。


「うむ。よろしくお願いするぞ。コルリスよ」


 アウリアが手を差し出す。コルリスもそっと爪の先を差し出し、アウリアと握手をするようなやり取りをしてみせた。その光景にギルド職員や冒険者達が苦笑する。


 さて。ギルドに連れてきたのは顔見せという部分もあるが、まずはコルリスにもギルドに慣れてもらい、システムを学習してもらうという目的もある。

 コルリス自身もアウリア立ち会いの下で冒険者登録をしてしまうことで、冒険者ギルドの庇護下にあることを皆の前で明確にする狙いがある。

 ヘザーは楽しそうにコルリスの冒険者登録に必要な書類などを纏めていく。


「あれが分かるかしら? ここでは、迷宮の魔物から剥ぎ取った素材をああやって換金できるの」


 冒険者登録の手続きが終わったところで、ステファニア姫がコルリスに話しかける。その視線の先では冒険者が素材を換金している。

 実際に冒険者達が魔物の素材を換金する場面を見てもらうわけだ。冒険者が窓口で素材を売って金を受け取るまでを見せたところで、今度はステファニア姫自身が窓口に立って、金を払って鉱石を買ってみせた。


「素材と引き換えに貨幣を得て、貨幣と鉱石を交換できるということね。迷宮で取ってきたものを、ここで頼めばその量と質に応じた鉱石に換えられる……と理解してくれてもいいわ」


 といった調子でコルリスに丁寧に説明する。

 冒険者達は同業者だ。縄張り争いをする敵ではなく、味方であることをまず理解しなくてはいけない。

 だから、互いに危害を加えてはならないこと。迷宮内で困っている冒険者を見かけたら助け合うこと。但し自分の身を守る場合はその限りではないこと等々……冒険者達の見守る中で、ステファニア姫は懇切丁寧にコルリスに伝えていく。コルリスもステファニア姫の言いたいことに理解が及ぶと、こくこくと頷いていた。


「……何だか、迷宮に降りたばかりの頃を思い出します」


 その光景を見ていたアシュレイが笑みを浮かべ、マルレーンも頷く。


「ん。そうだな」


 その他、転界石の使い方。赤転界石の使い方、迷宮の構造変化についての話や、満月の際は絶対に迷宮に入ってはならないこと等々、普通の冒険者に必要な事項、一通りのことを伝えてからステファニア姫がこちらを見る。


「こんなところかしら?」

「抜けは無いとは思います。後は実地で1つずつ確認というところでしょうか」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 言語習得を飛び越えて貨幣経済すら把握してしまった野生上がりのモグラ。 INT高すぎである。 元侯爵より賢い?笑
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