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337 戦いの後の夕暮れ

 しっかりと使い魔の契約が結ばれたところでコルリスを地面に降ろすと、まるで人間が座るように腰を下ろし、先程までの暴れぶりが嘘のように大人しくしている。


「よろしくね。コルリス」

「これは中々……。いい手触りね」


 ステファニア姫が鼻筋を撫でるとコルリスは頷くように頭を縦に振った。アドリアーナ姫が丸い背中を撫でても静かなものだ。

 シャルロッテもおずおずと隣までやってきて、脇腹あたりを撫でている。手触りを気に入ったようだ。


「いやはや。こうして見ると愛嬌がありますのう」


 エドガーがその佇まいに苦笑する。


「何にせよ一件落着といったところでしょうか」

「ですな。これでようやく落ち着いて皆様を歓待できるというものです。ベリルモールの礼も含めて盛大に行わねばなりますまい」

「まだ時間がありますし、鉱山に関しては崩れた箇所を手直ししておきます」

「い、いえ。そこまでお世話になるわけには」

「問題ありません。こちらで立てた作戦の結果ですので」


 誘き寄せる過程で崩れてしまったからな。マルコムは恐縮しているが、作戦立案した身としては後始末もやっておくとしよう。


「ねえ、コルリス。私達が知らない鉱脈の場所や、あなたが食べない鉱物のある場所を知らないかしら?」


 ステファニア姫の言葉を受けてコルリスが頷き、のっそりとした動きで鉱山の内部に向かう。多分、鉱山に迷い込むまでにコルリスが使った穴があるのだろう。その過程で餌場にしている箇所や、口に合わないために放置された鉱物というのもあるはずだ。


「では……カドケウスをコルリスに同行させて、コルリスの知っている鉱脈の場所を教えてもらうことにしましょうか」


 先程作った坑道の見取り図に付け足す形でコルリスの案内してくれる場所を作っていけば……コルリスが使っている穴も坑道として再利用できるだろう。




 坑道の補修を大体終えた頃合いで、コルリスも地底から戻ってくる。みんなと共に連れ立って表に出ると、既に夕暮れが近付いていた。


「レビテーションをかけるぞ」


 一応確認を取るとコルリスが頷く。空中に浮かせ、待機していてくれたシリウス号の甲板に降り立つ。

 一仕事終えて戻ってきた俺達をアルフレッドやジークムント老達が笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさい、セラフィナ」

「ただいまっ!」


 セラフィナもテフラとフローリアのいる場所に飛んでいき、楽しそうにしている。


「おお、戻ったかテオドール」

「はい、ただいま戻りました」

「首尾はどうだったのかの?」

「壊れた箇所は補修してきました。コルリスにもいくつか鉱脈に案内してもらいましたよ」


 俺が言うと、アルフレッドも頷いた。


「ブロデリック侯爵も調査団の報告を受けて、あの鉱山の採掘を再開するそうだよ」

「……採掘した証拠品はコルリスが食べてしまったようだけれどね」


 その言葉に、ステファニア姫が苦笑する。


「いずれにしても当面は安泰かな。農業との両輪でやっていけるようになるまでは鉱脈ももつんじゃないかなって思う」


 しばらく増産が見込めるということで、ブロデリック侯爵領の財政事情も緩和するだろう。


「では、そろそろ船を出すぞ。ゆっくり進むから甲板でも大丈夫じゃろう」


 ジークムント老がそう言って、艦橋へと向かった。

 ややあって、シリウス号がゆったりとした速度で街に向かって進み出した。甲板から見える景色がゆっくりと後方へ流れていく。マルコムは事後処理があるので一足先に城へ戻って通達やら宴席の準備やらを進めているらしい。


「コルリスに合わせて魔道具を作らないといけないかな。あの動きなら空中戦用の装備を作ってやっても良いんじゃないかって思うんだよね」


 アルフレッドはコルリスを見上げて笑う。


「背中に乗って、空を飛んだりできそう」

「そう、ね。大きいからどこかに同行させるのは大変かなって思っていたけど」


 シーラがぽつりと言うと、ステファニア姫が感心したような声を漏らす。


「絵面的に……それはどうなのかしらね? んー……。使い魔に乗って移動するというのなら……普通なのかしら?」


 嬉しそうなステファニア姫と、羽扇を閉じたり開いたりしながら首を傾げるローズマリー。モグラに乗って移動か。実際どうなのだろうか……?

 コルリスなどは早速甲板の上に身体を投げ出して……どうやら背中に乗って良いと言っているようだ。

 ステファニア姫とアドリアーナ姫はそれを受け、早速コルリスの背中に腰かけて乗り心地を満喫している。楽しんでいるのならまあ、それでいいか。


「後は、タームウィルズに着いてからコルリスをどうするかでしょうか?」


 アシュレイが首を傾げる。


「冒険者達に周知する意味も込めて、ギルドに話を通して迷宮入口から堂々と旧坑道に通ってもらうというのはどうかな」

「それが良いかも知れないわね。それが日常だと慣れてしまえば馴染んでしまうものだものね」


 クラウディアが目を閉じて微笑みを浮かべた。

 冒険者ギルドを通してステファニア姫の使い魔であると周知されてしまえば、ちょっかいを出す馬鹿もいないだろうしな。

 迷宮にベリルモールは出現しないから間違えることはありえないし、使い魔である以上はステファニア姫とも情報を共有しているわけだから、悪さをすれば言い逃れのしようもない。


 幸い、旧坑道はそれほど強い魔物もいないしガーディアンも出ない区画だ。コルリスなら敵はいないだろうし、鉱物を含有する岩石系の魔物もいる。

 案外そちらの魔物もコルリスは主食にできるのではないかと期待しているところもあるが……さて、どうなることやら。

 ブロデリック侯爵領の街並みが見えてくる。外壁を越えると、街の人が歓声を上げてこちらに手を振っているのが見えた。


「調査団の人達が助けられた話も、詳細が伏せられてはいるけど広まっているようだからね」


 アルフレッドが言う。

 なるほど。それでこの反応か。ドワーフ達も酒杯をこちらに掲げて乾杯しているようだ。

 崩落事故があったというのは既に広まっていただろうしな。こちらとしては転移魔法のことだけ伏せてもらえるならそれで良い。

 練兵場にシリウス号を停泊させる。コルリスについてはシリウス号の中で留守番をしてもらう形になるだろうか。シリウス号の甲板にあるハッチを開けて、本来ならば飛竜達を乗せておくスペースに案内してやると、コルリスはその隅っこに身体を落ち着かせた。


「居心地はどうかしら?」


 ステファニア姫が尋ねると、コルリスが首をこくこくと縦に振る。悪くない、ということだろうか。コルリスとしては暗い場所や閉ざされている場所のほうが好みなのかも知れないな。ハッチを閉じる前にマルレーンが笑みを浮かべてコルリスに手を振ると、コルリスも前足を器用に振り返していた。


「それじゃあ行こうか」


 と言ってハッチを閉めて、みんなと一緒にシリウス号から降りる。

 既に出迎えの馬車が来ていたので、それに乗って、領民達の歓声に出迎えられながら城まで移動することとなった。




「いいお湯でした」


 貴賓室に戻ってくると、湯上がりらしいグレイスも少し遅れて戻ってきて、微笑みを浮かべてそう言った。

グレイスだけでなく他のみんなも風呂から上がって、ドレスに着替えてきたようだ。血行が良くなって赤みの差した頬。ドレスに合わせてアップにした髪型と……なかなか眼福である。


「失礼します。宴の準備が整いました」


 と、使用人が声をかけてくる。

 坑道に降りて作業していたのでやや埃っぽくなった。マルコムはそれを見越していたのか、風呂の用意をしていてくれたらしい。土埃などを洗い落として身綺麗になったところで、大体ぴったり宴の席……という流れになるように調整していてくれたらしい。


 使用人に案内されて広い食堂に通されると、そこには既にブロデリック侯爵夫妻が待っていて、テーブルの上に様々な料理が並んでいた。山間部が近いということもあり、山の幸が多いな。

 ローストした肉類などもあるが、これは山で狩猟したものだろうか。迎えるための準備をしていると言っていたからな。


「まず最初に」


 みんなが席に着いたところでマルコムはそう前置きをしてから口を開く。


「ブロデリック侯爵領の領主として、テオドール卿にお礼を申し上げます。領民達の命と鉱山を守っていただき、感謝の言葉もありません」


 そう言ってマルコムとベルティーユは、深々と頭を下げてくる。


「いいえ。大事にならず何よりです」

「冒険者ギルドからは褒賞金が出るそうです。私からも皆様が出発するまでに、何かお礼をと考えております。門外漢であまり詳しくないのですが……倉の中に何点か魔法の品がありましたから、何かお役に立つものがあるのではないかと」


 ……魔法の品か。マルコムの性格からすると美術品の類は必要最低限残せば十分という方針だとは思う。

 その点で言うと魔法の品は確かに高価ではあるのだろうが、どういったものか分からなければ迂闊に処分できない側面もある。それで処分保留のまま後回しになっていたのではないだろうか。

 俺としては、国内で味方をしてくれるうえに人間的にも信頼できる貴族との繋がり……というだけで割と十分ではあるのだが。

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[良い点] 鉱脈探知機を手に入れた!
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