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329 血族の行方

 キノコ尽くしの昼食を済ませて少し寛いでから、ハロルドとシンシアを連れてシリウス号の中を案内する。2人の興味はやはり伝声管に水晶板等々、色々と装置の多い艦橋になるのだろうが、まずは船室や通路内から案内していく。


「こちらテオドール。只今、右舷前方の通路です。聞こえますかステファニア殿下」

「ええ。聞こえるわ、テオドール。こちらは艦橋よ。調子はどうかしら」

「なかなか快調です」


 各所の伝声管を使って艦橋にいるステファニア姫とアドリアーナ姫と会話をかわす。俺がハロルド達の案内役なので2人には艦橋に残ってもらって伝声管で応答してもらう役割をしてもらったのだ。大体予想通りというか、2人とも喜んで引き受けてくれた。イルムヒルト達の演奏や歌声も聞こえてくる。


「面白いです!」


 妹のシンシアは伝声管での会話に目を輝かせている。


「すごい……。お屋敷が空に浮いているみたいなものですね」


 と、ハロルドも内装や船室を覗いて目を丸くしていた。

 船を一周して艦橋に戻ってくる。


「少しこのまま湖の周りを一周してみようか」

「いいわね。景色も素敵だし」


 水晶球に手を翳して水晶板に外の景色を映し出すと、兄妹は目を丸くしていた。

 シリウス号を浮上させて、ゆったりとした速度で湖の周りを旋回する。流れていく景色を見て兄妹も喜んでくれているようだ。このままゆっくりと回りながらのんびりさせてもらおう。


「そういえば……このあたりの森は魔物とかは大丈夫なのかな?」


 飛行も安定しているのでお茶を淹れてもらって木のカップを傾けながら操船していると、アルフレッドが尋ねてくる。


「このあたりには滅多に出ることもないかな。父さんの直轄地っていうのもあるから、伯爵家の騎士達がきちんと巡回してる」


 シルン男爵領の近くの森は確かに魔物が出やすい場所だが、それ故にというところか。あちらから魔物が流れてくることを想定して森林警備隊を森に常時置いていたり、伯爵領側から見回りをさせたりといった具合だ。


「そうなのか。いや、2人は墓守だし、森に入って仕事をするから魔物に遭遇した時に魔道具で逃げられると良いかなって思ってね」

「ああ。それは確かに。母さんの家の周辺にも魔物用の結界はあるけど、念のために持ってると安心ではあるね。レビテーションの魔道具はあるのかな?」

「2人の分ぐらいは予備を持ってきているよ。シリウス号に誰か乗せるかもって想定してたから。足りなくなったら作れるしね」

「なるほどね」


 アルフレッドは仕事道具持参、と。

 それはともかくとして、予備があるのなら2人に渡してしまってもいいだろう。




 というわけで湖を何周かしてきてからまたシリウス号を停泊させて、ハロルドとシンシアにレビテーションの魔道具を渡して、使い方もレクチャーしておく。

 アルフレッドの持ってきたレビテーションの魔道具は、ベルトに魔石が仕込んであるもののようだ。


「森での仕事の時にこれをつけておいてくれるかな」

「これは……何ですか?」

「物を浮かせたりする魔法が使えるようになるんだ。魔術師はレビテーションを色々便利に使ってるけど……まあ、緊急時にも飛んで逃げることができるから」


 口で説明するより実例を見せるのが早いだろう。レビテーションを用いて跳躍する。

 湖のほとりからかなりの距離を飛んで、枝に掴まって樹上まで飛び移った。そのまま木から木へ、樹上を移動する。少々の慣れが必要だが、走って逃げるよりは格段に速いし高さを稼いで移動することで敵から距離を取れるわけだ。


「懐かしいわ。私もレビテーションを使えるようになった時に、跳躍して逃げられるようにって教えられたものだけれど」


 ステファニア姫がそれを見て笑みを浮かべ、ローズマリーも小さく頷いたようだった。

 基本と言えば基本だな。ローズマリーも前に俺と戦った時、回避にレビテーションを使っていたが……ヴェルドガル王家ではレビテーションの使い方についてそう指導しているわけだ。


「こ、高価なものなのでは?」

「僕達が作ったものだし、元手はそんなにかかってないよ」

「とりあえず、贈り物っていうよりは母さんの墓守を安全に続けてもらうための仕事道具を支給したって考えてくれればいいかな」

「仕事道具……」


 ハロルドは魔道具を手にして呟く。ハロルドの腰に吊るしている山刀と一緒だな。2人は仕事をきっちりしてくれるし、玩具にしたり見せびらかしたりはしないだろう。


「実際非常時じゃなくても使えるしね。倒木にレビテーションを使ってどかしたり」

「魔力はその分使うことになるけどね」


 そのあたりは使っていくうちに匙加減も分かるし慣れていくだろう。


「分かりました。そういうことでしたら、ありがたく使わせてもらいます」

「だ、大事にしますね」


 兄妹の返答に笑みを浮かべて頷く。2人は早速魔道具を使って練習を始める様子だ。なら、俺ももう少し使い方を説明しておこう。


「最初は何もない場所で跳躍、着地までを練習してもらって、感覚に慣れたら跳躍して木の枝に掴まる訓練をするといいよ。それができたら枝から枝へかな。魔力が少なくなってくると独特の怠さがあるからすぐにわかる。そうなったらその日は使用を控えること」


 魔道具が意志に反応するので案外感覚的に使えるところがある。降下中にレビテーションを切ってしまってそのまま落下などというのは、意図してそうしない限り起こらない。


「分かりました」

「すごい、こんなに高く跳んでる!」


 説明を済ませるとハロルドとシンシアは早速楽しそうに跳躍を始めるのであった。




 ガートナー伯爵領に転移するにあたり、石碑を作るのに最も向いているのはと考えれば母さんの家の隠し部屋だろう。

 元々結界で覆われている以上俺とグレイス、父さんがいなければ中に立ち入ることもできないし、その中にある隠し部屋となると、セキュリティとしてはこれ以上を望めない。

 クラウディアと共に書斎に向かい、そこから隠し部屋に降りて石碑を設置してもらうことにした。


 クラウディアが手を翳し、緑色の輝きが集まると石碑が作り出された。


「できたわ」

「ん。これで伯爵領にも来られると」


 後はブロデリック侯爵領だな。あそこにはそれなりの規模の神殿があると聞いたから問題はないだろうが。


「ふむ……。パトリシアの書斎か」


 ジークムント老は何かに思い巡らすように母さんの隠し部屋に据え付けられたテーブルに触れながら目を閉じる。


「ここには大鍋が据えられていたのかしら?」

「そうです。母さんの手記もここにあったものですね」

「なるほど……」


 そう言ってヴァレンティナも遠い場所を見るような目をしていた。在りし日の母さんが、ここで調べ物をしたりしているのを想像しているのかも知れない。


 しばらく隠し部屋の中を眺めてからみんなのいる居間へと戻る。

 と――。そこで通信機に連絡が入った。タームウィルズ冒険者ギルドのギルド長、アウリアからだ。


『アウリアじゃ。これで通信できておるのかの? 東国の吸血鬼事件についてギルドにある情報を調べたゆえ、結果を知らせようと思うのじゃが』


 アウリアは各地の冒険者ギルドとの会合に出かけることもあるし、冒険者ギルドもどこにどんな魔物が現れたと、大物であれば記録に残して共有しているものだったりする。

 だからブロデリック侯爵領以東の吸血鬼事件について調べてもらえないかとアウリアに連絡を取ってみたのだ。訪れる前に念のためという部分と、東で何か吸血鬼に関する事件が起こっていればグレイスの両親と関わりがあるかも知れないし。


 シルン男爵領に立ち寄った際、ベリーネに話を通しても良かったのかも知れないが、調べ物には時間がかかってしまうし、その点、対魔人で連携するために通信機を預かっているアウリアならばそういった制限もない。


『ええ、問題なく通信できています』


 そう返答すると、しばらくあってから返事が戻ってきた。


『うむ。では……本題に入るかの。結論から言ってしまえば、東国にはかなり大物の吸血鬼がおったようじゃ。吸血鬼騒ぎが昔から多かったし、何より10数年前の記録に、貴族の家が吸血鬼に関わっていたらしい……というのがあってな』


 ……貴族が吸血鬼ときた。


『詳しく経緯を聞いてもいいですか?』

『ある日、忽然と当主と妻、そして生まれたばかりの娘までもが行方不明になってしまったそうじゃ。役人や家臣達が行方を捜していると、屋敷の地下を発見。運の悪いことに戻ってきた吸血鬼と遭遇して大きな被害を出したらしい。生き残りの話では……貴族の家に掲げられていた何代も昔の当主の肖像画に、瓜二つの吸血鬼だったということでな』

『最初に行方不明になった当主は、吸血鬼だったのですか?』

『分からん。その点はギルドも調べたそうじゃ。日の下に出ているのを見た者もおる。しかし証言では結婚を前後して、病気がちということで外に出た当主を見た者がおらぬそうじゃ。捜索隊を襲った吸血鬼は地下にあった棺桶と共に姿を消して、それ以来、東国での吸血鬼騒ぎの数は目に見えて減っておる』


 その何代も前の当主というのが、真の家の主だろう。貴族家の肩書きがあれば色々と活動もしやすくなる。

 しかしこれは、グレイスの出自に繋がる話じゃないだろうか? 色々と符合する部分が多すぎる。


 吸血鬼事件が減ったというのは……恐らく、素性がバレて吸血鬼のコロニーごと逃げたんだろうな。グレイス達を取り逃がしてしまったからというのもある。どこまで情報が漏れたか分からない。


 しかしそれならば、今更になって東に近付いてどうこうという心配はないか。

 後は……その吸血鬼がどこに逃げたかという話になるが――。


『その後、南方で吸血鬼事件が増加したということはありませんか?』


 と、通信機で尋ねてみた。


『南か。調べてみよう』

『よろしくお願いします。急ぎではありませんので』

『うむ。任された』


 ……何となく、思い付きではあるが。南方に逃げてガルディニスの教団と繋がりを持ったということは考えられる。ヴァージニアも結構な力を持っていた吸血鬼だったようだしな。

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