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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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324 魔術師の孫

 エリオットの帰還、カミラとの結婚。そしてその将来。ノーブルリーフといった明るい話題が揃っているところにイルムヒルト達の演奏が重なって、宴席はかなりの盛り上がりを見せた。

「男爵家の将来は安泰ですな」
「いや、全く」

 と、シルン男爵家の家臣達の立場からするとそういうことになるわけだ。
 家臣達は気持ちよく酔っ払って談笑して盛り上がっていたようだが、やがて日暮れになると町中の宿へと引き上げていき、宴席もお開きとなった。アシュレイの屋敷に宿泊するのはシリウス号に乗ってきた面々と、父さん、マルコム、そしてケンネルと酒を酌み交わす約束をしているドナートとなる。

「そう言えば……領地の月神殿に通達して欲しいことがあるのですが――」

 と、人が少なくなったところで父さん、マルコム、ケンネルを交えて月神殿の巫女達の祈りを用いた連絡手段と神殿を利用した転移についての話を通達しておく。

「ふむ。つまり、月神殿の巫女達の祈りが、タームウィルズ側に伝わる、ということか?」

 俺からの説明を聞いた父さんが聞き返してくる。このへんの説明も慣れたもので、月神殿の新しい術式で、月神殿のお偉いさんであるクラウディアが用いることのできる術、という説明になるわけだ。

「そうなります。魔人などが現れた場合も迅速に対応できるというわけです」

 父さんとケンネルには通信機で連絡が取れるのだが。
 盟主復活を目指しているだろう魔人集団にしても、結界を越えるための触媒がどうやら貴重なように見えるし……タームウィルズ以外を攻める余裕も暇も、あまり無いように見えるが、念のためだ。

「うむ。承知した」

 父さんが頷き、ケンネルとマルコムも魔人絡みということで神妙な面持ちで頷いている。後はガートナー伯爵領とブロデリック侯爵領の月神殿にクラウディアを連れて行く必要があるのだが……こちらについては問題はあるまい。
 宴席が終わったところで、今日泊まる部屋に通してもらった。かなり広々とした部屋だ。家具や調度品のセンスも良く――恐らくは先代シルン男爵かケンネルの趣味なのだろう。

「それでは、ゆっくりお過ごしください。浴室の準備が整いましたら使用人が呼びに来ます。何かありましたら遠慮なくお申し付け下さい」
「ありがとうございます。ああ、明日の予定について確認しておきたいのですが」

 と、ケンネルに尋ねる。

「昼になる前にはノーブルリーフの実験に協力したいという者がやってくることになっております」
「わかりました」

 ふむ。シリウス号が速い分、男爵領である程度ゆっくりする時間もありそうだな。

 新婚旅行というのかどうなのかは分からないが、エリオットとカミラは数日シルン男爵領に滞在することになっている。
 人が多くても落ち着かないところもあると思うので、俺達はシルン男爵領に1泊してから、父さんやマルコムを乗せてガートナー伯爵領とブロデリック侯爵領にシリウス号で足を延ばし、それから帰り際にエリオットとカミラを乗せてタームウィルズに帰る、という予定なのだ。

 先程父さんにした話にも絡むことではあるが、クラウディアの転移が可能な場所を増やしておこうという目的もある。ジークムント老とヴァレンティナも母さんの家を訪れたり、墓参りをしたりとガートナー伯爵領に用があったりするし。

 椅子に腰を下ろし、ティーカップを傾ける。

「そういえば……やっぱりシルン男爵領の神殿だと、規模が小さいのかな?」

 そう尋ねると、クラウディアは頷いた。

「そうね。神殿の規模が若干小さいから、転移するには向かないわ」
「そうなると、石碑を作っておくというのが良さそうだな」

 以前アシュレイの屋敷に来た時に地下の隠し部屋を作成したのだが、そこに石碑を作るのが良さそうだ。まあ、石碑には若干デメリットがあるのだが。
 クラウディアは少し思案した後に顔を上げて口を開く。

「そうね。結界魔法と契約魔法の応用で、この地を治める者のみが使えるようにする……ということで良いのではないかしら」
「テフラ様やジルボルト侯爵の領地と同じように、ということでしょうか」
「ええ。石碑を設置する場所を結界で覆い、アシュレイとその同行者以外は通行できないようにするということで、石碑を悪用されるということは防げるでしょう」

 なるほど。アシュレイは将来的に男爵領を治めることになるし、必然的にタームウィルズと男爵領の間を行き来する頻度も増えるからな。クラウディアの転移魔法以外の手段で移動することが可能ならそれに越したことはない。



 明日に仕事を持ち越すよりは今日の内にやってしまおうという話になり、早速石碑を設置することになった。
 アシュレイの部屋から地下の隠し部屋に移動する。隠し部屋の一角に、更に隠し通路を設けて下に続く階段と小部屋を作り、そこに石碑を設置する形を取るわけだ。

「では、始めるわね」

 クラウディアが地下2階の小部屋の中央で手を翳すと、その眼前に緑色の煌めきが集まっていく。一際強い輝きを放ったかと思うと、迷宮で見るのと同じ石碑がそこに鎮座していた。続いてクラウディアの足元からマジックサークルが広がる。

「アシュレイ、血液を。一滴で充分よ」
「はい、クラウディア様」

 アシュレイはナイフを手に取り、指先を僅かに切って小部屋の床に血を垂らした。そこから強い光が部屋の四隅へと走って――結界が生まれた。
 これで俺の家の地下にある石碑とアシュレイの家の地下との間で行き来が可能になる。迷宮内の石碑を用いるにはその場所に辿り着く必要があるというわけで……余人をここに招待しない限り、この石碑を用いて行き来できる者はごくごく限られるという寸法である。これでデメリットについては可能な限り最少に抑えられるだろう。

「アシュレイ。手を」
「はい」

 アシュレイの手を取り、指先の小さな切り傷に治癒魔法を用いる。俺の使える治癒魔法は応急処置程度の効力しかないが、この程度の切り傷なら塞ぐには充分だ。アシュレイの傷口が塞がったのを確認してから尋ねる。

「痛みはない?」
「大丈夫です。ありがとうございます、テオドール様」

 アシュレイは自分の手をもう片方の手で覆い、微笑みを浮かべるのであった。



 ――明くる日。朝食の席で顔を合わせたエリオットとカミラだが……カミラの座る椅子を引いてやったりと、朝から仲睦まじい様子であった。
 2人に関しては元々仲が良かったし、特に問題なさそうだ。夫婦仲が順調であるなら、それで良いのである。

 朝食を済ませて、しばらくのんびりしているとアシュレイの屋敷に来客があった。ノーブルリーフの実験に協力してくれるというシルン男爵領領民である。
 応接室にアシュレイと共にハーベスタを持って向かうと――そこには赤毛に三つ編み、ローブという出で立ちの……農民というよりは魔術師という風体の女性が待っていた。

「初めまして、ミシェルと申します。この度はお声をかけていただき、嬉しく思います」

 ミシェルはやや硬くなっている様子だ。シリウス号も停泊しているし、昨日は魔法で色々演出をしたし、どんな人物が出てくるのかと緊張している部分はあるだろう。

「ようこそいらっしゃいました。当主のアシュレイ=ロディアス=シルンと申します」
「初めまして。テオドール=ガートナーと申します」

 と、自己紹介をする。

「ミシェルは、町で魔法具店を営んでいる人物のお孫さんなのです。その方とは少し違い、近隣の村に畑を持ち、魔法と農法についての研究をしている人物でしてな。各村々の農民達の信頼も勝ち得ているため、適任なのではないかと」

 応接室に通してくれたケンネルが、ミシェルの来歴を説明してくれる。
 なるほど。土魔法を農法に活かそうとしている人物か。確かに適任だ。
 ……それにしても、そのシルン男爵領で魔法具店を営んでいる人物というのに心当たりがあるのだが。

「魔法具店……。ひょっとして、あの白髪のお爺さんでしょうか?」
「祖父をご存じなのですか?」
「ええ。以前タームウィルズに向かう際に、魔法杖はないかと何本か買っていったのですが……」

 と答えると、ミシェルは少し思案した後で目を見開く。

「ああ、思い出しました。確か、祖父が杖術を志す立派な少年が店に来たと。もしかして、その方がテオドール様だったのですか?」
「……どうやら間違いないようですね。あの杖には助けられましたとお伝えください」

 あの店主とは杖術についての話をした記憶がある。今はウロボロスを使っているが、あの店で買った練習用の杖も、耐久力はともかく使い勝手は結構良かったな。店主が杖術を嗜んでいればこそなのだろう。

「祖父も喜んでくれると思います」

 ミシェルは快活な笑みを浮かべる。うん。信用できそうな人物で良かった。祖父と面識があるということでミシェルの硬さも取れたようだし。
 さて、軽く打ち解けたところでノーブルリーフの話を進めるとしよう。
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