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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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322 誓いと祝福と

 沿道に詰めかけた領民達の歓声に見送られながら、やがて俺達を乗せた馬車は神殿へと到着する。
 エリオット達の乗る馬車の周囲に色とりどりの花びらと泡と煌めきとを躍らせて、最後に上空へと舞い上げ……僅かな時間を置いて花びらだけが吹雪のように降ってきた。
 と同時に、イルムヒルト達の奏でていた旋律も終わる。

 小ぢんまりとした神殿では柔和そうな神官長と巫女頭がその光景に目を丸くしていたが、やがて楽しそうに相好を崩す。出迎えのために神殿の前の広場に並んでいた数人の神官と巫女達も同様だ。ケンネルを始めとした男爵領の家臣達と、父さん達招待客も神殿の中からこちらを見て、笑みを浮かべて拍手していた。カミラの父親、ドナートも穏やかな表情だ。
 馬車から降りて、エリオットとカミラは巫女の先導で神殿の奥へと進み、俺達は招待客の列に加わる。

「まず……この祝福されるべき日を無事に迎えられたことのお慶びを申し上げます。そして、おかえりなさいませ。よくぞお戻り下さいました、エリオット様」

 エリオットとカミラを迎えた神官長が祝福の言葉を述べる。

「ありがとうございます。私もこうしてレディ=アシュレイやカミラと共に故郷へ帰って来ることができて、嬉しく思います。これほど多くの方々からお祝いの気持ちをいただけたことを嬉しく思います。ご臨席の方々に、改めて深くお礼と感謝を申し上げます」
「まるで夢を見ているようです。このような日を迎えられたこと、沢山の方々に温かな祝福をいただけたこと、感謝の言葉を重ねても足りません」
「カミラ様のエリオット様へのお気持ちを、シュアス様が見ていて下さったのでしょう。本当におめでたいことです」

 巫女頭の言葉に、カミラは静かに一礼する。エリオットが帰って来なくても、ずっと待っていたのだから、この領民達の祝福ぶりも頷ける。

「しかも今日は、シルヴァトリアから高位精霊のテフラ様まで祝福のために足を運んで下さったとのこと。まるでお伽噺か戯曲のようで世にも稀なことですが、シュアス様の祝福と合わせて、きっとお2人を守って下さることでしょう」

 神殿にもテフラが祝福に来るという話は通してある。巫女頭の言葉に、テフラへと視線が集まると、テフラは楽しそうな笑みを浮かべて応じた。

「うむ。我が盟友テオドールの親しき者が結婚すると聞いてな。この地を満たしている温かな気は良いな。実に良い」

 高位精霊という肩書きからは想像もできないフランクさというか。上機嫌なテフラに神官長と巫女頭の表情から緊張が取れて、破顔した。しかも女神シュアス本人も来ていたりするという。当人であるクラウディアは穏やかな笑みを浮かべて静かに座っているだけだが。

「それではお二方、シュアス様の前へ」

 シュアス像の前までエリオットとカミラが出ると、巫女達が祈るような仕草を見せる。2人の前途を祝福して欲しいと女神シュアスに祈りを捧げているわけだ。女神の祝福の輝きがエリオットとカミラを包む。

「エリオット様、女神シュアス様と精霊テフラ様の前で愛の誓いを」
「私、エリオット=ロディアス=シルンはカミラ=エルグリムを妻とし、生涯愛することを女神シュアスと精霊テフラに誓います」
「カミラ様、女神シュアス様と精霊テフラ様の前で愛の誓いを」
「私、カミラ=エルグリムはエリオット=ロディアス=シルンを夫とし、生涯愛することを女神シュアスと精霊テフラに誓います」

 2人の言葉に、神官長と巫女頭は満足そうに頷く。誓いの言葉が終わる度に、2人を包む祝福の輝きが力強いものになっていく。

「互いに誓いの指輪を」

 エリオットはカミラに。カミラはエリオットに。それぞれの手を取り指輪を嵌める。揃いのミスリル銀の指輪だ。台座には鮮やかな青い宝石がはまっているが……サファイアだろうか?

「では、誓いの口付けを」

 エリオットはヴェールを上げて、涙に潤んだ目をしているカミラと見つめ合う。
 そして――2人の顔がゆっくり近づいていき、目を閉じて静かに口付けを交わした。祝福の輝きは最高潮に達して、口付けと同時に弾けるように広がって神殿全体に降り注ぐ。2人の身に付けている指輪も、今ので何か魔法的な力が宿ったのか、光の反射ではないぼんやりとした淡い光を宿している。

 参列者からの歓声と割れんばかりの拍手が起こる。ケンネルはハンカチで目元を押さえているし、アシュレイも拍手しながら目を潤ませていた。
 笑みを浮かべた神官長は拍手が収まるのを待ってから厳かに言う。

「今、この時を以って女神と精霊に祝福された、新しい夫婦がここに誕生しました。今一度皆様の温かい拍手を!」

 再び大きな拍手が起こる。そして結婚式は参列者からの祝辞に移っていく。まずは領主であるアシュレイからだ。
 アシュレイは皆の前に出てスカートの裾を摘まんで一礼すると、堂々と顔を上げて微笑み、祝辞を述べた。

「エリオット兄様、カミラ義姉様、ご成婚おめでとうございます。こうして晴れの日を無事に迎えられたことを大変喜ばしく思っております。またこの日を迎えるための皆の尽力を誇らしく思います。私からも改めて感謝を申し上げます」

 アシュレイはケンネルに笑みを向ける。ケンネルはありがたきお言葉と、涙声で返した。そこでアシュレイは静かに目を閉じる。1呼吸か2呼吸の間を置いて目を開けると、言った。

「思えば……エリオット兄様もカミラ義姉様も、この日を迎えるまでに大変な苦労をなされたものと思います。しかし苦労を乗り越えたお2人のお話は、多くの領民達に勇気を与え、明日への活力を与えてくれることでしょう。父様も母様もきっとお喜びのことと思います。本当に……おめでとうございます」

 皆から大きな拍手が起こる。うん。準備した家臣達を労ったり、領民達について言及したりと領主の祝辞として良い内容ではないだろうか。苦労という言葉は男爵領や男爵家の色々なものにもかかってくる言葉ではある。

「つきましては……広場で領民達に酒と料理を振る舞うことに決まっておりますので、そのように通達を」
「はっ。畏まりましたアシュレイ様!」

 アシュレイが微笑みを浮かべて言うと、衛兵が明るい表情で敬礼し伝令に走って行った。飲み放題食べ放題というわけではないのだが、それでも男爵家からの謝意ということで祝福ムードを後押しするものだ。飲み足りない者、食べ足りない者は自腹で、ということになっているが、きっと領民達や冒険者の財布の紐も今日は緩むことだろう。終日お祭り騒ぎに違いない。
 続いて、ステファニア姫が前に立ち、優雅に一礼すると祝辞を述べる。

「我が父、メルヴィン陛下の名代として参りました。この度はご成婚、誠におめでとうございます。シルン男爵家にはお慶び申し上げます」

 そうしてステファニア姫はエリオットの今後について言及する。

「エリオット卿は、船の事故にて怪我を負い、記憶を失いながらも、シルヴァトリアに名高き魔法騎士団の中で名を上げ――そうして今こうして、ヴェルドガルに戻ってきました。その武勇と勇気。シルヴァトリアにて築いた人脈とその誠実な人柄を、我が父は大変素晴らしいと仰っておりましたよ」
「勿体なきお言葉」
「これから先、その武勇は討魔騎士団団長としての働きに、そしてその人柄はシルヴァトリアとの友好に大きく寄与するものと、父共々期待しております。行く行くは北方の一角を任せたいとも仰っていました」

 おお……、というどよめきが家臣達から漏れた。これだけの面々の前でメルヴィン王の名代と前置きしたステファニア姫がそれだけのことを明言する。それはメルヴィン王の確約に等しい。祝いの言葉でありながら今後のことについてが言及されるということで……男爵家の家臣があれこれと気を揉む必要も無くなるというわけだ。領地が離れるのでアシュレイと利害が衝突することも少ないしな。
 祝辞はアドリアーナ姫にバトンが渡される。アドリアーナ姫も一礼すると笑みを浮かべて朗々と声を響かせる。

「我が父、エベルバート王の名代として貴国との親善を仰せつかっております、アドリアーナと申します。実に素晴らしい結婚の儀でした。お2人にはお祝い申し上げます。ステファニア殿下のお言葉の通り、シルヴァトリアとしてはエリオット卿のこれからのご活躍に期待をしております。どうか我が国と貴国との友好の架け橋となって下さいまし」

 そしてアドリアーナ姫からの駄目押しである。ヴェルドガル側だけでなくシルヴァトリア側からもということで、話の信憑性、確実性が増すというわけだ。
 逆に言うなら……この裁定に文句をつけるというのはメルヴィン王とエベルバート王の意向に対して文句があるという意味になる。まあ……どこからも異論は出まい。

「私のような若輩者に過分な取り計らい。誠に感謝申し上げます。非才ながら、全力を尽くします」

 エリオットが一礼を返し、大きな拍手が起こる。エリオットはそれが収まるのを待って、口を開く。

「そして――このような素晴らしい式にして下さった、異界大使テオドール卿にも感謝を申し上げたいと思います。テオドール卿なくば今日の私はいないでしょう。メルヴィン陛下とエベルバート陛下。テオドール卿の下さった大恩に報いることができるよう、精進していく所存です」
「ありがとうございます。ご成婚、誠におめでとうございます。これから先もよろしくお付き合いのほど、お願い申し上げます」

 エリオットの言葉は記憶を取り戻したことにもかかってくる言葉だ。あまり多くを語れないが……アシュレイのことと討魔騎士団のことと。2つの意味を込めてそう答える。参列者達からまた大きな拍手と歓声が起こった。
 うん。シルン男爵領については……これで憂いもないだろう。拍手と歓声はいつまでもいつまでも続くのであった。
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