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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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320 シルン男爵領へ

「うむ……。美しい船よな」

 一先ずの完成ということで飛行船のお披露目である。メルヴィン王は造船所の広場へとやってくると、シリウス号を見上げて目を細めた。
 シリウス号の見学にやって来たのはメルヴィン王だけでなくジョサイア王子にステファニア姫、アドリアーナ姫もだ。護衛の騎士達もいる。アルフレッドは……何故だか変装したままで、俺達と一緒に案内する側に回っているが、それで良いのだろうか。

「これは素晴らしいね……。船の外殻自体が特異な素材だと言う話だが」
「ええ。衝撃を吸収し、魔力に変換してしまうのよ」
「ほう」

 楽しそうに笑みを浮かべるステファニア姫の言葉に目を丸くしたジョサイア王子が、軽くシリウス号の船体をノックする。そこから微弱な光の波紋が船体に沿って広がって消える。途中で消えてしまうのは――衝撃が弱すぎて、伝播していく間に減衰してしまっているわけだ。

「これは面白いな。見た目も綺麗だし」
「シルヴァトリアから齎された技術です」
「……なるほど。流石は魔法大国」
「恐れ入ります。賢者の学連の研鑽の賜物です。ですが、これだけの規模の外殻を作るのは大使殿のお力あってこそでしょう」

 アドリアーナ姫が微笑む。

「ありがとうございます」

 タラップを使って甲板へと登る。船首から甲板の縁に沿って船尾へ向かって金色の塗料でラインが走っていて……仕上がりは随分と壮麗な印象だ。甲板は暗めの色調の木材で、全体としては割と落ち着いた雰囲気ではある。

 艦橋に付いている扉から船内へと入れる。扉があるから外殻が分割されているように見えるが……バネ状の部品が通行の邪魔にならない場所から生えていて内側で壁と接続されているので、結局は扉全体で1つの部品という構造になっている。
 扉を攻撃してもダメージはバネを伝って全体に吸収されてしまうので、結局防御力は他の場所と変わらないというわけだ。
 通路を進み、階段を登って艦橋へ。下へ向かえば船内へも降りられるようになっている。

「船内とは思えない程、広々としておるのだな」
「艦橋はそうかも知れません。帆がいらない分、空間が広く使えましたから。下はもう少し狭くなっています」

 操船席に座って水晶球に手を翳して船を起動させる。水晶板に外の景色が映し出された。
 艦橋正面の壁面をU字に沿って巡らされた水晶板にも外の風景がパノラマ状に映し出された。艦橋内にいるのなら、甲板にいるのとそう変わらない風景を見られるというわけだ。

「ほう……。これは……」
「この場にいながらにして周囲の状況を見られるというわけか」
「はい。それでは浮上させますので、操船席が見える位置におかけください。船が揺れた際に身体が投げ出されずに済むように、椅子自体に帯がついております」
「至れり尽くせりね」

 ステファニア姫がシートベルトで身体を椅子に固定する。
 お披露目ということでメルヴィン王達を乗せて、少しタームウィルズ周辺を飛ぶという話になっている。パーティーメンバーやアルフレッド、ジークムント老達は一段低くなった場所の円卓を囲んで腰かけて寛いでいる様子だ。
 俺の背後にある伝声用の席に王族の面々が座って、全員がシートベルトをしたところで垂直上昇する。このあたりは飛行実験の通りである。

「操船は全てこの水晶球を通して行います。艦橋直下の魔石部屋に繋がっていて、魔石に刻まれた術式に従い魔道具が船を動かすという仕組みです。船を推進させるための、各所に仕込まれた魔道具についての理解がないと操船はできませんが、どこに何があるのか、どういう働きをしているのかを覚えれば、操船自体は難しくはないと思います」

 説明しながらシリウス号を海側に向かって前進させる。シリウス号が動くのに従って景色も流れる。俺は景久の記憶からこういったゲーム的なというか、間接的な視野にも慣れているが――みんなにとっては新鮮なのではないだろうか。

「少し沿岸部を飛んで見ましょう」

 そう言って船を進めていく。様子を窺うと、例外なく、みんなして食い入るように水晶板を眺めていた。グレイス、アシュレイ、イルムヒルトは嬉しそうに微笑みを浮かべ、マルレーンはセラフィナと一緒に目を輝かせている。シャルロッテも同様だ。
 クラウディアとローズマリーは興味深そうに真剣な眼差しである。シーラは一見すると普段とあまり変わらないが――尻尾がぴんと立っていて、感情が出ていたりする。

 メルヴィン王とアルフレッドは悪戯っぽい笑みを浮かべているし、ジョサイア王子も感心するようにしきりに頷いている。ステファニア姫とアドリアーナ姫は……モニターを見て2人でセオレムが見えるとか、盛り上がっているな。

 水晶球に指示を送ると、水晶板の一枚に望遠機能が働いて、セオレムが拡大される。

「……拡大して見ることができるわけね。凄いわ」

 と、ステファニア姫。
 ジークムント老、ヴァレンティナは目を細め、エリオットも顎に手を当てて感心している様子である。
 みんなの反応は概ね好評。何よりである。

「この、私達の背後にある管のような物は何かしら? 左舷前方通路……と書いてあるけれど」
「伝声管と言います。船の各所に繋がっていて、管に向かって喋ることで直接声でやり取りできるわけですね」
「伝令要らずいうわけだな」
「全てがこの場所に集約されていて……実に機能的だ」

 と、メルヴィン王とジョサイア王子。

「もっと揺れるのかと思ったけれど、静かね」
「真っ直ぐ飛んでいる時はそうですね。急な旋回と上昇下降は、やはり揺れると思います」

 旋回も上昇下降も緩やかにすればあまり揺れはしない。北の沿岸部を少し行ったところで大きく旋回し、街道脇を眼下に眺めながら造船所の直上まで戻ってくる。

「それでは、下降させます」

 また元通りに土台の上に着陸させる。海の上でも構わないが、後でまた音響砲を設置したりと、他にも作業があるのだ。
 船が動きを止める。メルヴィン王は少しの静寂の後に、笑みを浮かべて言った。

「うむ……。余は今後の飛行船の礎になるようなものをとそなたに言ったが、見事期待に応えてくれた。テオドール、アルフレッド、見事なものだ。大儀であった」
「勿体ないお言葉です」

 アルフレッド共々一礼する。
 飛行船についてはまた建造していく予定だ。ヴェルドガルとシルヴァトリアの友好ということで姉妹船を1隻ずつ。更に輸送船など、用途にあったものを設計する予定である。

「エリオット。そちの結婚式にはシリウス号で向かうのであったな。余の名代としてステファニアを遣わす故、男爵家の家臣達を安心させてやるとよい」
「はっ。陛下のご高配、深く感謝致します」
「エリオット卿がシルヴァトリアにて確かにヴェルドガル王国との友好を築いた証として、私も同行させていただきましょう」

 アドリアーナ姫が笑みを浮かべる。
 これで……シルン男爵領への出立の前にやることは全部済ませた、というところだろうか。最低限の食料や水などを積んだら予定通りにシルン男爵領に向かって出発である。



「先日は船室は狭いと言っていたけれど……立派な部屋ね」

 そして、シルン男爵領へと向かう当日。ステファニア姫とアドリアーナ姫を船室に案内すると、2人は室内を見回して笑みを浮かべた。

「貴賓室ですので、できる限りのことはしたつもりです。椅子や机などは全て固定されていますのでその点には注意してください。船内を移動する時は念のためにレビテーションを用いておくと安全かと思います」

 こうした大きな船室が何室かある。収容人数を増やすために2段ベッドの寝台と机、荷物の収容スペースのみの4人部屋という小さな船室もあったりするのだが……姫様2人についてはそこを使ってもらうわけにもいかない。
 まあ、乗組員の数に余裕があるなら大きい部屋も遠慮なく開放するというだけの話だ。今回の旅ではそれなりに同行者も多いが……まあ、大きめの部屋だけでみんな割り振りができるだろう。

 シルン男爵領行きについての顔触れは、まず俺達のパーティーメンバー。結婚式の当人であるエリオットとカミラ。それからステファニア姫、アドリアーナ姫といったVIP、それから姫の護衛役となるメルセディアやエルマーなど、討魔騎士団からの面々もいる。
 討魔騎士団から護衛が選出されたのは、団長であるエリオットの結婚式なので、団員達を代表してという意味合いもあったりする。

 それから処女航海ということで船を手がけたアルフレッド達とジークムント老達工房の面々。結婚式で演奏を行うということでユスティア、ドミニク、シリルも協力を申し出てくれた。

「結婚式か。楽しみだな。我はあれは好きだぞ」

 そして、テフラの姿。自分の山に帰っていたテフラもタームウィルズに姿を現し、エリオットの結婚式のことを知ると祝福しに行きたいということで急遽同行することになった。月女神と高位精霊の祝福を受ける結婚式。……うん。霊験あらたかというかなんというか。

 まあ、顔触れの特殊さはともかくとして、結構な大所帯だ。
 人数も多いので混乱が起きないよう船内の設備と構造などを伝えておかなければならない。厨房やトイレなど、各種設備を案内していく。

「船の航行中は、甲板に出られるのかしら?」
「船首に魔道具を仕込んで、風を操作して防壁を張っていますから……航行中でも甲板には出られるようにはなっています。ですが急旋回などを考えると、低速飛行時以外は出ないほうがいいでしょうね。時間に余裕がありそうなら、後で速度を落として航行する時間を作りますが」
「それは嬉しいわね」
「飛行船からの眺めは格別だものね」

 ステファニア姫とアドリアーナ姫は顔を見合わせて笑う。楽しそうで何よりだ。



 説明を終えて……ようやくシルン男爵領へ向かって出発である。シルン男爵領に向かっての安定飛行に変わったところで、ジークムント老に操船を代わってもらう。
 ジークムント老やヴァレンティナも試験飛行ということで船を何度か動かしているので問題なく操船できる。
 アシュレイ、クラウディア、マルレーン、ローズマリー。エリオットやエルマーといった魔法知識や素養のある面々も操船可能だ。まあ、最大船速で航行しないならばという但し書きは付くけれど。

 ともあれジークムント老の操船技術は確かなので、俺は艦橋前部にある円卓側に移動して寛がせてもらおう。
 それぞれの椅子には肘掛のところに円筒状のドリンクホルダーが付いており、木のカップをそこに入れておけるというわけだ。艦橋には炭酸飲料のサーバーも備えてあったりするが……今はお茶が注いである。

「いよいよですね」
「そうだな。ここのところ忙しかったけれど、到着までのんびりできるかもね」

 微笑みを向けてくるグレイスに、こちらも笑みを返す。

「エリオット兄様の結婚式……。良いものにしたいですね」

 アシュレイは頭の中で段取りを整えているのか、手にマジックサークルを浮かべたり消したりしている。

「ケンネルさんとも打ち合わせしているし、きっとうまく行くさ」

 アシュレイを安心させるように言うと、アシュレイは穏やかな表情で頷く。
 俺達も飛行船と魔法を使って少しばかり結婚式の演出をする予定だ。まあ……劇場でノウハウを培ったし問題はあるまい。

「シルン男爵領の領民達には衝撃的だと思うけれどね」

 ローズマリーは羽扇で口元を覆い、楽しそうに肩を震わせた。シーラもうんうんと頷き、イルムヒルトが苦笑する。マルレーンは、にこにことしているな。

 マルレーンは離陸時に揺れて植木鉢が割れないようにとハーベスタを抱えていたのだが……椅子の背もたれにエクレールやバロールがとまっていたりして、やけに賑やかなことになっていた。
 セラフィナは――水晶板モニターが気になるのか操船席を後ろから覗き込んでいるようだ。

 クラウディアはと言えばローズマリーの言葉に苦笑していたのだが、ふと何かに気付いたらしく艦橋の一角を指差した。

「あれは……例のガーディアンよね?」
「……うん。時々出てくるみたいだね」

 ラヴィーネの座る専用席の近くに、何時の間にか金色の狼の姿があった。実体があるのかないのか。輪郭が靄のようになっていてはっきりしないが……間違いなく狼のシルエットである。
 ……普通に船内をうろついているが、それどころか船外にも出られるようで。討魔騎士団のライオネルが、造船所の広場を歩いているのを見たと言っていた。どの程度離れられるのかは分からないが。
 害意はないようで、威嚇されたとか攻撃を受けたという話は聞かない。ラヴィーネとも微妙な距離感を取っているが威嚇しあったりということはないようだ。

「精霊ね。確かにテオドールの見立て通りだと思うわ」

 金色狼はクラウディアと視線が合うと静かに頭を垂れる。迷宮の主として敬うということだろうか。こちらに協力してくれるなら頼もしいことは間違いないが。
 まあ金色狼はさておき……まずはエリオットとカミラの結婚式に集中しよう。俺も頑張って盛り上げないとな。
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