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317 花嫁衣装

 エリオットとカミラの結婚式ということで、ケンネルに通信機で日取りや出席者の内訳などの連絡事項を伝え、シルン男爵領側でもケンネルに宴席の準備を進めてもらう。


「通信機の文面を見ると爺やは随分張り切っている様子でしたよ。エリオット兄様の結婚式が嬉しいのだと思います」

「だろうね。シルン男爵領で。しかもあの2人がとなれば」


 ケンネルにとっては夢に見た光景かも知れない。一度はエリオットが亡くなったと思われていただけに喜びはひとしおだろう。


 俺達も結婚式の日取りに間に合うように飛行船の建造を進めている。

 状態固定の術式も効率化ができているので、作業しながらパーティーメンバーや討魔騎士団の訓練を並行して手伝ったりも問題なくできているし……建造は順調だ。


 エリオットはエリオットで討魔騎士団の訓練の監督をしたり招待状を出したりと、なかなか忙しそうだ。そのことを口にしたら「テオドールさんほどではありませんよ。私も頑張らなければいけません」と苦笑していた。俺としては魔法を用いての仕事が多いので、傍から見るほど忙しい思いはしていないのだが。

 そんなこんなで今日の仕事も終わり、夕方になって遊戯室で寛いでいるとセシリアが来客を知らせに来た。


「旦那様、お客様が参りました。ミリアム様と、デイジー様と仰る方です」

「ああ、分かった。エリオットさんとカミラさんに用事だと思う。応接室に通してほしい」

「畏まりました」


 セシリアは一礼すると戻っていく。


「花嫁衣装の件でしょうか」

「恐らく。お2人とも一緒に応接室に来ていただけますか?」

「はい」


 エリオットとカミラと一緒に連れ立ち、応接室へと向かう。

 デイジーは迷宮商会店主であるミリアムの知り合いで、タームウィルズで仕立て屋を営んでいる人物だ。カミラの花嫁衣装を注文した先が仕立て屋のデイジーというわけである。

 デイジーには以前、俺達も何度かコートやドレスを仕立ててもらっている。従ってエリオットが俺達にタームウィルズでどこか良い店が無いかと聞いた場合、自動的にデイジーの店となってしまうわけだ。


 応接室に向かうと、セシリアが応接室の外で待っていた。ノックして、俺達が来たことを部屋の中のミリアム、デイジーに知らせ、応接室へと入室する。


「こんばんは、皆さん」

「こんばんは、ミリアムさん、デイジーさん」

「こんばんは。頼まれていた品が出来上がりましたので、仕上がりを見ていただきたく、お持ちしました」


 互いに挨拶をかわし、デイジーが笑みを浮かべて一礼する。


「私はデイジーのところへ顔を見せに行ったら、頼まれていたドレスが仕上がったということですので、道中の護衛役を買って出たのです。暗くなっていましたし、届ける品も大切なものですからね」

「そうでしたか。ありがとうございます」


 ミリアムの言葉に、エリオットが礼を言う。ミリアムがデイジーのところに訪問したから、出来上がったドレスをすぐに持っていこうという話になったのかも知れない。


「早速仕上がりを見ていただけますか?」

「では、私は一旦外しましょう」


 エリオットが立ち上がる。新郎は結婚式当日までに花嫁衣裳を見ると縁起が悪い、という言い伝えのようなものがあるのだ。


「では、よろしくお願いします」


 エリオットが一旦部屋から退出する。

 カミラの言葉を受けて、デイジーは包みから純白のドレスを大事そうに取り出す。絹糸の光沢。細かなフリルやら刺繍やら……デイジーの細やかな仕事ぶりが窺える。

 カミラは目を丸くして、そっとそれを受け取ると手の甲を軽く滑らせて、目を細める。


「……とても細かな刺繍。すごいわ」

「お気に召していただけましたか?」

「ええ、とても」

「是非、袖をお通しになってみてください」

「いいのですか?」


 カミラは嬉しそうに微笑む。試着してみないと分からないところもあるだろうしな。


「席を外したほうが良さそうですね。僕も遊戯室に行っていますので」

「着替えが終わるまで、私も退室することにします」

「では、準備が整いましたらカミラ様とそちらへ伺います」


 ということで、一先ず応接室を出て、時間を潰させてもらうことにしよう。


「カミラ様のドレスが仕上がったのですか?」


 遊戯室へ戻るとアシュレイが尋ねてきた。


「うん。今着替えてもらっている」

「着替え終わったら見せてくれると思うけど……ええと、そうだな。エリオット卿は――」

「では、私は一旦客室へ行かせていただければと思うのですが。遊戯室のような広くて明るい場所で女性陣の皆様に見ていただいた方が良いでしょう」


 と、エリオットが苦笑し、セシリアに客室へと案内されていった。


「エリオット兄様、少し残念そうですね」

「ん。そうだな」


 苦笑するアシュレイに答える。


「食べ物や飲み物の類は遠ざけておいたほうが良いですね。汚してしまったら大変です」

「お手伝いします、グレイス様」


 グレイスの言葉にみんなで手分けしてティーカップやポットなどを入口から遠ざけ、遊戯室の奥へと運ぶ。花嫁衣装を身に纏ったカミラのお目見えということで、女性陣はなかなか楽しそうにしている。


「花嫁衣装か。迷宮村でも結婚となるとアルケニー達が仕立ててね。結婚式は村を挙げてお祭りをしたりするのよ」

「それは……ちょっと見てみたいな」


 その際、迷宮村の住人が感情抑制の魔道具を外し、クラウディアが迷宮の動きを抑えるという流れになるのだろう。

 迷宮村の住人達もその日のために歌や踊り、楽器の腕を磨いているのだろう。シリルもそうだが、村の住人達が芸達者なのはそのあたりに理由があるのだろう。


「最近は感情を抑制しなくてもいいから、結婚式の日取りにも融通が利くのだけれどね。いずれ、外でお祭りをしてみたいわね」


 クラウディアが穏やかに笑う。なるほど。クラウディアの魔力消費も考えて村全体で結婚式の日取りを決めたりと調整をしたりしているのかも知れないな。

 そんなことを話していると、長い裾をミリアムとデイジーが支える形で花嫁衣装に着替えたカミラが遊戯室にやって来た。純白のドレスとヴェールを纏ったカミラに、みんなの視線が集まる。


「どう……でしょうか?」


 カミラは少し遠慮がちに尋ねてくる。


「お綺麗です、カミラ様」

「ありがとうございます、アシュレイ様」

「どこか手直しする部分などがありましたら、承ります」

「ありがとうございます。着心地も良いようです」


 女性陣の反応は良い。マルレーンは目をきらきらさせているし、ローズマリーも羽扇で口元を隠しながら、興味深そうに眺めて頷いていた。


 エリオットを長く待たせても悪いし、汚れても困るのでと、みんなで一通りカミラのウェディングドレスを眺めた後で、カミラはまた着替えるために応接室へと戻っていった。


「とっても素敵な仕上がりでしたとエリオット兄様に伝えなければいけませんね」

「そうね。あまり具体的なことは言わない方が楽しみが増えて良いのではないかしら?」

「はい」


 クラウディアが答えると、アシュレイが嬉しそうな表情で頷く。

 というわけで、結婚式に向けての準備がまた1つ進んだようである。ウェディングドレスか。俺も……みんなと結婚する時にはしっかりとしたものを用意しなければな。

 まあ、それはそれとして……シルン男爵領に向かうなら時期的にもそろそろ、という案件がある。


「イビルウィードと一緒に育てているカボチャも、時期的にはそろそろだと思うから結果が良ければシルン男爵領にも導入してもらうことを考えてもいいかもね」

「ああ。そうですね。結婚式の前までにはというところでしょうか」

「裏のカボチャ、随分と大きくなっていましたね」


 そう。一抱えほどもあるお化けカボチャになっていたのだ。イビルウィード達にも変わりはない。

 秋口になるとイビルウィードは種を抱えるので若干凶暴になると聞いたことがあるが、遊戯室の日当たりの良い窓際に鉢植えで置かれたハーベスタは、セラフィナとバロールが隣に座っていても実に大人しいものである。


「確かに……そろそろ収穫の時期かもしれませんね」

「カボチャのパイ、結構楽しみにしてる」


 と、シーラ。そう。カボチャが実ったらミハエラがパイを作ってくれるという話になっていたはずだ。


「あの大きさのカボチャだと、料理するのが大変かも知れないわね」

「みんなで手分けして料理しましょうか」


 イルムヒルトの言葉に、グレイスが苦笑する。

 イビルウィードと一緒に植えることで生育が捗ることには予想がついていたが、通常よりも相当巨大になっているということで……残る問題は味だな。

 大味にならなければ良いなというところなのだが。どうなっていることやら。

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