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306 南方の聖地

「明日の顔合わせだけど……訓示の場所が変更になったんだってさ」


 造船所を作ってから家に帰ってきて……夕食まではまだ少し時間があったので、居間で寛ぎながらメルヴィン王からの通達をみんなにも話して聞かせる。


「王城で行うと言っていた、対魔人部隊の顔合わせのことですか?」

「そう。メルヴィン王によると、作った施設をすぐに見せてやることで、士気を上げる狙いがあるとか」

「造船所で顔合わせ……。部隊の訓練施設でもあるし、丁度良いのかも知れないわね。部隊に、期待していると伝える意味合いもあると思うわ」


 ローズマリーが言う。


「多分ね。作りかけでも見学ぐらいはさせるつもりだったのかも知れない。ほとんど完成したから、そこに集まるように変更したんだと思うよ」


 魔法建築の許可を出したのはその辺の理由もありそうだ。


「エリオット兄様は忙しくなりそうですね」

「そうだな。どっちも大変そうだ」


 アシュレイが苦笑する。午前中は顔合わせと部隊員への挨拶。午後から新居探しの約束と、なかなか濃い予定が詰まっているらしい。

 明日の顔合わせについては俺からも挨拶をすることになっているが……。まあ、どうにかなるだろう。顔合わせについての話はこれぐらいでいいだろうか。


「ああ、それからクラウディア。満月の迷宮についてなんだけど」

「満月の迷宮……」

「そう。そろそろあの場所の攻略についても考えていきたいって思ってる」


 満月の迷宮攻略の話を告げると、クラウディアは静かに目を閉じた。


「……そうね。いつかは行くことになるとは思っていたけれど」

「やはり、危険な場所なのですか?」


 グレイスの問いに俺は頷く。


「炎熱城砦よりも危険度が高いと思うよ。対策も考えたいから、今すぐにという話でもないけどね。飛行船の魔石が必要になるのも外装を作ってからだし」


 満月の迷宮は……本来なら月に一度しか入ることができないという点などから攻略が進まず、石碑も少ない。

 地形や罠といったギミックではなく、魔物による正統派の力押しが多いように感じられる。

 ただ……奥に進もうとしない限りは魔物の攻撃もそこまで熾烈でもない。迷い込んだだけであるなら、脱出のみを考えて行動すれば生還すること自体はそこまで難しくないだろう。


「連れていくのは構わないわ。けれど行く前に幾つか、話しておくべきことがあるの」


 クラウディアは真っ直ぐに俺を見てくる。頷いて、こちらもクラウディアを正面から見やる。


「まず……あの迷宮は他の場所とは違うわ。何と言えば良いのかしら。迷宮はほぼ全域で魔物が出るようになってしまって……そこに誤算はあったけれど、目的を果たしているのかどうかで言うのなら、現在も機能しているとは言えるわ」

「食料や資源の確保と、探索者の強化か」

「ええ。けれど満月の迷宮に関しては目的が違うの。迷宮の村に続く道、月光神殿に続く道。そして更にその奥。月光神殿は場所を利用して後から作ったものだから少し違うけれど、管理者である私にとっては踏み入ってほしくない場所へ至る道よ」


 なるほど……。満月の迷宮の性質そのものが、他の場所と趣を異にしているのか。

 満月の迷宮の目的は、迎撃と排除。だから、奥へと踏み込まずに大人しく帰るのならば攻撃の手を緩める。

 クラウディアの望みを汲んでいるところは……あるのかな。踏み込んでほしくないが無闇に命を奪うこともしたくないと。


「迷宮村に関しての道は、既に立ち入りを許しているから気にする必要はないけれどね。どちらにしても扉は私が封印しているし、満月の迷宮から降りることは、普通はできないわ」

「……というわけで、明日からの訓練に少し満月の迷宮を想定した内容を取り込んでいこうかと思う」

「満月の迷宮は……テオドールでも、危険?」


 シーラが尋ねてくる。


「んー。色々厄介な魔物がいるみたいだから、油断していると危ないかもね」


 と答えておく。今まで対策をしっかりやってきたから順調に進んでこられたところはあるし、だからこそそれで油断してしまうなんてこともある。みんなにも気を引き締めておいてもらいたいところだ。

 マルレーンとセラフィナが神妙な面持ちで頷いている。うん。それでいい。


「出現する魔物についてはいくつかの文献に多少の記述が見られるけど……ここはクラウディア様にお聞きするのが一番なのかしら」


 うん。俺もある程度は知っているが、あまり見てきたように話すわけにはいかないところもあるしな。クラウディアと相談しながら対策を詰めていくのが確実だ。


「構造自体は案外単純よ。問題は魔物ね。単純な力押しの魔物は……まあ押し勝てるとして。まず危険なのが石化能力を持つ魔物かしら」

「石化能力――バジリスクやコカトリスだな」


 その言葉に、クラウディアが頷く。


「ええ。両方ともいるわ」


 そう……。満月の迷宮にはバジリスクとコカトリス、2種類の石化能力を持つ魔物がいる。これが油断するわけにはいかない理由だ。

 バジリスクは邪眼。コカトリスは吐息及び、嘴による直接攻撃。それぞれ石化の方法が違うので、対策も異なってくる。


「石化を治すような魔法というのはあるのかしら?」


 イルムヒルトが首を傾げると、アシュレイが頷いた。


「使えます。シルヴァトリアから預かった文献にありました」

「解除だけなら俺もできる。ただ……循環錬気だと時間がかかるから、戦闘中は無理だと思ってくれていい」

「テオとアシュレイ様さえ無事なら石化からの回復もできるわけですね」

「もし1人でも石化を受けたら即座に転移魔法での撤退を考える必要があるわね」


 対応を誤っても保険としての手段が幾つか残されているというのは有り難い。パーティーメンバーを見回しても、それぞれの魔物に対策を取る方法もある。こちらの強みを押し付けることで最大限安全に立ち回れるようにしよう。




 そして明くる日。対魔人部隊の顔合わせ、及び挨拶に訓示ということで新しく作られた造船所に人が集められた。

 飛行船が施設の上に停泊しており、メルヴィン王にジョサイア王子、ステファニア姫、アドリアーナ姫も甲板から顔を見せる形だ。王族が直接顔を見せて訓示を行うというのは確かにこの上ない士気高揚になるだろう。飛行船を停泊させているのもその一環だな。


「ご無沙汰しております、ジョサイア殿下」

「ああ。久しぶりだね、テオドール君」


 ジョサイア王子に挨拶をすると相好を崩す。


「昨日の夜に到着したのだがね。タームウィルズに戻ってきたら、また地形が変わっていて驚いたよ。まさか一日でこれを作るとは……」


 そう言って造船所を見回し、ジョサイア王子は感心したように頷いている。


「南方に足を運んでいらっしゃったと聞きましたが」

「ああ。ドリスコル公爵とデボニス大公の関係を改善しようと調整役をしている。デボニス大公は公爵家と和解の意志はあると仰ったが……ドリスコル公爵はやや困った方でね。大公との関係改善より、どうも君に接近したがっているらしい」

「僕にですか」

「無論、父の直臣であるために僕には何も答えられないと返してきたがね」


 ジョサイア王子は苦笑して頷いた。笑ってはいるが、若干疲れているようにも思えるな。

 ヴェルドガル王国が対魔人の方向で動いている今、国内で足を引っ張る者が出ないようにと調整をしている最中ということらしい。


「やや俗っぽいのだよ。あの御仁は」


 ジョサイア王子と話をしているとメルヴィン王もそこに加わる。


「余にも書状を送ってきた。テオドールを是非とも紹介してほしいとな。要するに、あやかりたいと思っておるのだろう」

「全くあの方は……」


 ジョサイア王子が首を横に振る。俺としては苦笑するしかないというか。


「まあ、公爵のことは余達の問題ゆえ、そなたがあまり気にかける必要はない。極力テオドールの邪魔にならないようにと考えておる」

「それよりも、南方でデュオベリス教団のその後についても調べてきたのだが、興味深い話を耳にしてね」


 ジョサイア王子は公爵の話から一転、真剣な表情を浮かべて言う。


「デュオベリス教団ですか。あの連中の残党が、また何かしているのでしょうか?」


 ガルディニスの率いていた連中か。そういえば、教祖であるガルディニスを失って、その後の話も気になるところではあるが。


「ああいや。あの連中は中心人物を失って、かなり弱体化しているそうなので心配はない。元々、ヴェルドガル国内で活動していなかっただけに直接の関係はなかったしね。そうではなく……どうやら教団が聖地と位置付ける場所があるらしいのだ」

「教団の聖地……」


 それはまた……。あの教団は末端はともかくとして教祖が最古参の魔人であるガルディニスであっただけに、何も関係が無いとは思えないところがあるな。

 魔人の情報も集めているところではあるが……ジョサイア王子の情報を踏まえたうえで、場合によっては南方にも一度足を運ぶべきなのかも知れない。

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