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305 飛行船建造へ向けて

 地形の切り出しが終わったので、ただの岩の塊になっていたヒュージゴーレムを再起動させ、広場部分の石畳や施設を囲う塀や門を作る。更にタームウィルズの外壁へ続く壁の建材として再形成していく。

 壁の建材――巨石をヒュージゴーレムに積ませ、構造強化し崩れないよう補強。ヒュージゴーレムから普通のゴーレムに分解、石畳にして敷き詰める。


「おい……。ゴーレムってあんな速度でばらけさせて再構成できるものなのか?」

「馬鹿言うな。化物だありゃ。ヒュージゴーレムを制御しながら……末端部を通常のゴーレムに分解してる。で、そのゴーレムを一体ずつまた分解して、再構成……そのまま石畳に。手の空いたゴーレムに作業を分担させて――有り得ん」


 周辺の警備に当たっている騎士や魔術師隊の面々もギャラリーになってしまっているところがある。こちらの作業を見てそんな言葉を漏らしていた。港から漁師の視線も感じるが……気にしないで作業を進める。一体のヒュージゴーレムの分解と建材の再配置が終わったら次のヒュージゴーレムを動かし……と、次々進めていく。


 広場や外壁が終われば建物だ。広場に残った聳え立つ岩の内部をくり抜いて、エントランスホール、工房、食堂、休憩室、仮眠室に倉庫、それに風呂やトイレ等々。


「ここの柱はあった方が良いかな?」

「うん。部屋が広いから、ここの支えは外さないほうがいいよ」

「じゃあ、補強しておこう」


 部屋の役割を考えながら空間を作り、セラフィナと相談しながら柱を立てたり構造を補強したり。最上階は管制塔のような役目を果たせるようにと、縦に伸ばした。

 現状では装飾や内装が入っていないので無骨な印象を受けるところはあるが……対魔人部隊の訓練施設も兼ねていることを考えると、これはこれで悪くないのかも知れない。

 床と屋根はもう少し弄ってやる必要があるかな。暑さ寒さの対策を考えて木魔法などで建材を差し替えてやる必要も出てくるが……これは後でゆっくりとやれば良いか。

 次だ。港側に面した海部分。縁には広場から数段低い高さに通路を作る。満潮でも水を被らない高さだ。


「このあたりの海は漁場になったりしますか?」


 そこまで終わったところで、呆けたような表情で作業を見ていた漁師に海中部分について尋ねてみる。騎士団に声をかけて協力してくれるという漁師を連れてきてもらったのだ。何人かに意見を聞いて、実際に海中を見てみればおおよそのところは分かるだろう。


「……え――。あ、ああ、いや。そのあたりは深みがあるだけでな。あまりいい漁場とは言えんな。もう少し沖へ出んと」

「うむ。崖から石が落ちてくることもあるからな。下は危ないから近付く者もおらんかった。無くなってすっきりしたところもある」

「そうですか。岩礁があるなら別の方法も考えようかと思っていたのですが……このままで良さそうですね」


 岩礁は魚が集まるので良い漁場になると聞いたことがある。あまり海中には手を付けたくないし、その必要があるのなら敷地内にプールを作ることも考えていたが……どうやら問題無さそうに思える。


 一応、自分の目で海中を見ておくか。泡のシールドを纏い、魔法の明かりを灯して海中へ飛び込む。海の中から海底の地形を確認していく。不安定そうな場所を補強していく。

 ふむ……。漁師達の言った通りのようではあるな。


 縁から桟橋を伸ばしてやって、そこに誘導灯を取り付けるという形で、夜間の離発着も可能になるだろう。

 海から上がってみると、浮かんでこない俺がどうなっているのかと海面を覗き込んでいた漁師達と視線が合う。呆気に取られている漁師に再度話しかける。


「では、この施設ができたことで釣果や船の運航に何か不具合が出るようなら報告してください。ある程度は対応できるかと思いますので」

「わ、わかりました」


 漁師は引き攣った笑みで答える。

 そんな調子で作業を進め、途中に休憩や騎士団からの昼食の差し入れなどを挟みながらも、夕日があたりを赤く染める頃には概ねの工程が終わった。余った資材はブロック状にして積んでおく。何かの時に再利用もできるだろう。

 あたりを見回す。広場に規則正しく石畳が敷き詰められている光景。なかなかに壮観である。

 一仕事終えて仕事の成果を確認していると、飛行船が高度を下げて広場にみんなが降りてきた。


「大儀であった。いやはや。一日かからずに終わらせてしまうとはな」


 飛行船から降りてきたメルヴィン王が周囲を見回しながら言う。


「思ったより捗りました。体力回復の魔法やポーションなども備えがありましたから。休憩の度に呪曲を奏でてもらったりしましたし。けれど、まだ建物内部などの細部が終わっていません」

「ふむ。では内装や家具といった備品はこちらで用意させてもらおう」

「ありがとうございます」


 そう答えるとメルヴィン王は満足げに頷いた。


「良いものを見せてもらったわ。すごい精度ね……石畳も壁も、紙1枚隙間に入りそうにないもの」

「圧巻だったわね。巨大ゴーレムが起き上がる度に地形が削れていくのは」


 と、ステファニア姫とアドリアーナ姫。外壁に触れてその出来を確かめ、楽しそうにしている。


「はぁぁ……先生の本領を見せてもらった気がします」

「全く、我が孫ながらとんでもないものじゃな」

「ふ、ふふ……。常識というのが壊されていくのを感じるのですが」


 魂が抜けたようになっているシャルロッテ。乾いた笑いを浮かべるジークムント老と遠い目をしているヴァレンティナ。


「ここを拠点に訓練していくわけですか。ここを作った魔術師と連携していくということですから、隊員の士気も上がりそうです。頼もしい限りだ」


 エリオットも建物を眺めて目を細めている。


「テオ、お疲れ様でした。セラフィナも長時間大変だったでしょう」

「私は楽しかったよ」

「お怪我が無くて何よりです」

「うん。マジックサークルを展開しっぱなしで少し肩が凝ったけどね」


 グレイスとアシュレイが微笑みを浮かべて労ってくれる。セラフィナはまだ飛び回る元気があるようだ。


「そういうことなら後で肩でも揉みましょうか?」


 クラウディアはそう言って、マルレーンと微笑み合う。そういえば今日はクラウディアとマルレーンが居間だったか。


「ん。それじゃあ、後で頼めるかな」

「ええ、任せておいて」

「……わたくしとしては久しぶりにヒュージゴーレムを見て、本の中を思い出してしまったわね」


 羽扇で口元を隠したローズマリーが視線をめぐらす。笑っているのか驚いているのか、表情を隠していることもあってやや判別しにくい。


「まあ、あの時はゴーレムの造形が違ったけど」

「そうだったわね」


 そう言って小さく笑うとローズマリーは壁を見上げる。


「お疲れ様、テオドール君」

「うん。ありがとう」


 笑みを浮かべるイルムヒルトと、無言でサムズアップするシーラ。とりあえずお礼を言って、シーラにはサムズアップを返しておいた。


「お疲れ様、テオ君。夜間に船が降りられるように誘導用の明かりを付けるっていう話だったっけ?」

「そうなるね。それはまあ、追々で大丈夫かなと思うよ。アルフレッドだって他に仕事を抱えてるわけだし」


 一通りみんなと言葉をかわしたところで、アルフレッドとの会話を皮切りにまた造船所の今後の話にシフトしていく。


「ふむ。では、王城に用意した飛行船用の資材もここに運び込ませるということで良いのかな?」

「そうですね。充分な空間も確保できましたし、壁の内側なら人目にも付きにくいので飛行船の建造にも問題なく着手できるかなと。資材は揃っているのでしょうか?」

「必要となるものは概ね用意してある」


 そう言って、メルヴィン王が頷く。さすがに仕事が早いというか。


「では、骨組と外装には着手できると思います」

「資材の盗難が起こらぬよう、この施設には警備と巡回を付けよう。そなたの思うように飛行船建造を進めて構わぬぞ」

「ありがとうございます」

「警備に関しては、わたくしの人形を常駐させることもできるかと」

「ほう。では兵士達と人形の両方を用いていけばよかろう」


 ローズマリーの簡易人形か。不眠不休で番人をしてくれるから、確かに常駐してくれると心強いところはあるな。

 後は炎熱城砦で魔石集めか。んー……。そろそろと言うか、満月の迷宮にも一度足を運んでおくのも良いかも知れないな。魔石集めの目的ならあの場所ほど効率のいい場所もない。

 クラウディアによると、満月を待たずとも入口の石碑からならば連れていってもらうこともできるようだし。いずれにしても、最深部に到達するために攻略しなければならない場所だ。

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