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303 巫女と聖獣

 夕食後に遊戯室へと場所を移してのんびりと過ごす。ゲームをしたりのんびりと話をしたり、それぞれに過ごす時間だ。シーラやイルムヒルト達は落ち着いたイメージの曲を奏でている。また知らない曲なので、新曲の練習というところかも知れない。

 ジークムント老とヴァレンティナは、アウリアとダーツに興じながら母さんの思い出話に花を咲かせたりしている。


「ふうむ。リサは立ち居振る舞いなどからシルヴァトリアの貴族と予想していたが……当たらずといえども遠からずと言ったところじゃったかのう」

「その認識で構わんぞ。ここの冒険者ギルドは娘に良くしてくれたようで、感謝しておるよ」

「何の。助けられたのはギルドのほうでな」


 といった具合だ。こう、しんみりするような話かと思えばアウリアが片手に綿菓子を持っていたりするので色々と台無しではあるのだが。

 シャルロッテはどうかと言えば――


「何と申しますか……。タームウィルズに来て早々珍しい物をたくさん見ましたが、先生の家にはお城の次ぐらいに驚かされています」


 という感想を漏らしていた。色々な魔道具を試したりした結果ということらしい。

 迷宮村の住人達に遊戯室の品々と、シャルロッテの想定外であるらしい。ビリヤード台にしてもカードにしても、魔法で作っているのが分かるのだろう。

 一通り触れたり見て回ってから真剣な面持ちでビリヤード台やカード、炭酸飲料のサーバーなどを眺めていたのだが……先程遊戯室のすぐ外にリンドブルムがやってくると少し様子が違ってきた。

 その尻尾を滑り台のようにして戯れているカーバンクル達が気になっているようで、若干そわそわし始めているのが目に取れる。

 何というか……真面目であろうと努めているが子供らしいところもあるようで。俺の目の前だからか遠慮しているのかも知れない。


 カーバンクル達の長、フォルトックと視線が合うと、心得ていると言うように頷いた。


「ふむ。そこな人間のお嬢さんは儂らに興味があるのかの?」

「え、え? わ、私は」


 いきなりフォルトックに話しかけられてシャルロッテは戸惑っている様子である。


「いや、分かっておるよ。儂らはどうやら、外では随分と珍しいそうでな。魔術師であるなら興味を持つのも分からんでもない。……そう、学術的好奇心というのじゃろう? 普通ならば我等も人間と触れ合うことはせぬのじゃが……テオドールの親戚ということで、特別に我らを間近で見ても構わんぞ」


 その言葉にシャルロッテは目を丸くした。驚きと期待の混ざったような表情である。

 フォルトックはああ言っているが……カーバンクル達は知性が高く、感情が読めるので近付いても大丈夫な人間、そうでない人間を見分けられる。外は危ないと分かっているので、屋敷の外、或いは外から目につく場所には行くつもりが無いらしいが、俺達には割と気軽に接してくる。時々誰かの肩に乗っかっていたりするし。

 そういう意味で言うと、シャルロッテはカーバンクル達にとって「大丈夫な人間だ」と判断されたということだろう。


 まあ……シャルロッテの場合は真面目なので、迷宮村の経緯を聞いたからには遠慮してしまうところがある。だから口実が無いとカーバンクル達と距離を置いてしまうと思うが、カーバンクル達が気になってしまう心の動きまでは止められない。その感情を見て取ったフォルトックが方便でシャルロッテに理由を作ったような形である。


「そ、そうだわ。うん。学術的に大事なこと。確かにそうよ」


 シャルロッテは自分に言い聞かせるように頷くと、カーバンクル達の近くに行く。すぐに小さなカーバンクル達が窓枠に飛び乗り、シャルロッテに近付いておじぎをするように頭を一度縦に振った。シャルロッテも律儀にスカートの裾を摘まんで一礼する。


「不思議……宝石のような」

「これは儂らにとってはもう1つの目のようなものでな。まあ、そこにさえ注意してくれれば触れても問題はない」


 フォルトックの言葉を受けてシャルロッテはカーバンクルにおずおずと手を伸ばす。と、カーバンクルは遠慮せずにシャルロッテの腕を駆け上り、その肩にちょこんと座った。

 シャルロッテは予想もしていなかったらしく、くすぐったそうに笑って身を捩ると、その周囲に更にカーバンクル達が集まって……とまあ、カーバンクル達は友好的で遊び好きなわけである。シャルロッテの感情の動きが面白いのかも知れない。肩に座ったカーバンクルは、シャルロッテの縦ロールが気になっているようだが。


 窓の外にいたリンドブルムが首を巡らせてシャルロッテを見やる。少しだけシャルロッテは間近に見る飛竜に気圧された様子だが、リンドブルムが静かに目蓋を閉じたりして害意のないことを示すと、それがシャルロッテにも伝わったらしい。静かに鼻先を撫でられると、リンドブルムは気怠そうに頭を巡らせて先程と同じように丸くなる。尻尾だけでカーバンクルと遊んでいたりするけれど。

 その脇を背中にカーバンクルを乗せたラヴィーネが横切ったりと、なかなか賑やかなことだ。


「ここは――素晴らしい環境ですね……」


 掌や肩にカーバンクル達を乗せて、しみじみとシャルロッテが呟く。ふむ。シャルロッテはどうやら動物好きであるらしい。

 そこにアシュレイやマルレーンも混ざって中々微笑ましい光景になっている。それをグレイスやクラウディア、ローズマリーが微笑ましげに眺めているという状況だ。まあ……ローズマリーは羽扇で口元を隠しているのだが。


「シャルロッテ嬢も馴染んでいけそうで何よりですね」


 それを見ていたエリオットが目を細めた。


「環境が変わると、慣れるまでは大変ですからね」

「ええ。私もシルヴァトリアでは右も左も分からなかったので苦労しました」


 エリオットの場合は記憶喪失に怪我というのも加わってくるのでまた事情も違うというか、その苦労も相当なものだったと思われるが。


「それを言うなら、エリオットさんもでしょう。新部隊の創立もあって大変なのでは?」

「そうですね。部隊員への顔見せなども予定されていますが……まあ、私は慣れていますので」


 そう言って笑う。さすがに死線を潜ってきただけあって鍛えられている印象だ。

 まあ……次にヴィネスドーラに行く時は、シャルロッテやエリオットにも同行してもらうのがいいのかも知れない。エリオットに関してはシルン男爵領に向かう際もだが。


「そういえば、メルヴィン陛下が仰っていましたよ。飛行船についてはどこか街の端に発着場を作るべきかも知れないと」

「ああ……。それはアルフレッドからですが、通信機で相談を受けましたよ。飛行船に関しては一度に運べる人員や物資が竜籠とは全然違うからでしょう」

「……なるほど。ある程度飛行船が広まってからのことをメルヴィン陛下は考えていらっしゃるようだ」

「だと思います。ヴィネスドーラの王城の一件についても報告してありますから」


 先々の話まで視野に入れると、飛行船でそのまま王城に乗りつけられるようにしてしまうのは色々と不都合がある。具体的には飛行船の中に兵士や兵器を満載して王城に乗り付け、クーデターを起こすという危惧が出てくるわけだ。

 出てくるというか、ザディアスが実際にやらかしたわけだし……将来同じようなことをしようとする者が出ないとも限らない。

 だから王城の周辺は飛行禁止区域と位置付け、飛行船の専用の発着場を用意してやる必要があるわけだ。


「発着場の候補としては西区を考えています。海に面していて見渡しが良いですからね。元々港があるので物資を運び込んだりするのにも都合が良いはずです」

「海と――空の港というわけですか」

「そうなりますね」


 文字通りの空港、という感じだな。空港か。飛行船をどういう形で離発着や停泊させるかという問題があるが……。まず、垂直に離発着できるのだから滑走路はいらないので、さほど広い土地も必要あるまい。


 簡単なところでは……飛行船のベースが船であることを利用して、そのまま海に浮かべておくという形はどうだろうか。停泊させている間は魔道具で浮遊させなくていいのだから魔力の節約になるはずだ。防水や防錆などの処置が必要だが、それほど難しいことでもあるまい。

 後は夜間の離発着のために誘導灯が必要になってくるだろうか? これは魔道具で補えるかな。管制塔は……飛行船の頭数が増えてくれば必要になるんだろうなという気はする。


 とはいえ空港に関しては飛行船が出来上がって、ある程度普及してからを想定した話なのでまだ猶予のある話ではあるが――。


「飛行船を建造する場所も必要ですよね。やはり港の近くは広いので、そのあたりを活用していくのが合理的かも知れません」


 飛行船の建造に関しては流石に工房の中庭では手狭だし人目に付く。かと言って現在資材を用意している騎士の塔前の広場は、騎士や兵士達が普段訓練する場所であるため、あまり長いこと占有しておくわけにもいかない。

 やはり港の近くに専用の場所を用意して、新しい施設を作ってやるのが良いのかも知れないな。土魔法で模型を弄って、ある程度形を纏めておくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 急に出てきた縦ロールにびっくり。 巫女に縦ロール!? 初対面で全く言及しなかったことに驚かざるを得ない。 [一言] なお、批判ではありません。
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