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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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298 魔法王国の報告

 シルヴァトリア王家の歓待、温泉での話し合いも無事終わったのでエベルバート王はシルヴァトリアに帰ることになっている。
 劇場に招待していたジルボルト侯爵もあまりゆっくりしていられないということで領地に帰ることになっている。

 俺達も続報を聞きたいのでヴィネスドーラに用がある。まずはジルボルト侯爵とベリンダ夫人から送っていく形になるか。ジルボルト侯爵を送っていくのなら儀式場ということで、侯爵一家の3人と諜報部隊が待ち合わせ場所にやってくる。

「――お前達には苦労をかけるな」
「いいえ。侯爵の名誉を汚さぬよう、全力を尽くす所存です」
「ザディアスの持ってきた仕事に比べたら、なんとやり甲斐のあることか」
「違いありませんな」

 そう言ってジルボルト侯爵と、その諜報部隊員であるエルマー、ドノヴァン、ライオネルは笑い合う。
 新設される部隊についてだが、エルマーとドノヴァン、ライオネル、それから数名がタームウィルズに残り、エリオットの指揮下に入るとのことだ。
 こちらとしてはただ招待しただけなのでそのつもりもなかったのだが……エベルバート王によればジルボルト侯爵がタームウィルズに来たのは話を通すのにも丁度良いタイミングだったようである。エルマー達3人については侯爵と俺達に恩を返せると、志願したということだった。

「しかし彼らは諜報部隊の主力では? 大丈夫ですか?」
「確かにそうですが……今は一先ず落ち着いたシルヴァトリア国内の問題よりも、魔人関係を優先する時でしょう。まあ、領地で大人しくしている分には過不足ありませんな」
「……なるほど」

 侯爵のところは騎士団長といい魔術師長といい、人材の層が厚そうだしな。
 ジルボルト侯爵は静かに一礼してからロミーナとも言葉を交わしている。

「お嬢様はタームウィルズに残る私達が、責任を持ってお守りします」
「うむ。頼むぞ」
「ありがとう、エルマー」

 ジルボルト侯爵とロミーナは苦笑する。ロミーナも親元を離れるのは初めてだしな。諜報部隊の3人がこちらに残るというのは不安感が薄れるのではないだろうか。

「では、行きましょうか」

 一通り別れの挨拶を済ませたところでクラウディアに促され、ジルボルト侯爵の領地に飛ぶのであった。



 ジルボルト侯爵とベリンダ夫人を領地に送ってから、続いて王城でエベルバート王と合流してからヴィネスドーラへと飛んだ。光に包まれ、目を開けばそこは既にヴィネスドーラの月神殿――その上空であった。
 俺達が少し高いところからふわりと地面に舞い降りると、突然のエベルバート王の訪問に神官や巫女達が目を丸くしている。

 同行者は俺達のパーティーメンバー。エベルバート王とその護衛の騎士。ジークムント老とヴァレンティナだ。アドリアーナ姫はエベルバート王の名代としてタームウィルズに残ることになっている。

「……長距離転移というのは……実に便利なものじゃな」
「うむ。これが女神の力と意志によるもので幸運であったと言えよう」

 ジークムント老が感想を述べると、それを受けたエベルバート王が苦笑した。
 クラウディアの意志によって行使される魔法で、ヴェルドガル王家も迷宮との契約があるからこそ代替わりしても自制を促されるところがある。
 クラウディアがどれぐらいの時間を迷宮で過ごしているかは分からないが、今日に至るまで平穏を望んできたからこそ信頼されているとも言えよう。

「これは、エベルバート陛下。これは一体……?」
「ふむ。騒がせてしまってすまぬな。これは以前伝えておいた通り、神殿と女神シュアスの力をお借りした新しい魔法なのだ」
「さ、左様でございますか」

 エベルバート王は集まってきた神殿の巫女達に問題がないことを伝える。

「な、なるほど……。夢の啓示はこれを示しているものでしたか」

 巫女頭や神官長は事前にクラウディアからの啓示を受けていたらしい。やや戸惑いながらも納得してくれたようだ。クラウディアと視線が合うと、笑みを浮かべる。

「陛下のご意志と女神シュアスのお導きのままに」

 そう言って巫女頭達は跪いてみせる。月神殿側は問題なさそうだ。そのまま全員でヴィネスドーラの王城へと向かった。
 ジークムント老とヴァレンティナは賢者の学連に資料や資材を受け取りに行くという用事があるのだが、まずは不在の間に状況変化がないかどうかを確かめ、安全確認をしなければならない。



「これは陛下……! お戻りになりましたか!」

 王城に到着するとエベルバート王の側近達が出迎えにやって来る。

「うむ。留守中のことを報告せよ」

 ヴィネスドーラ王城の廊下を歩きながら、エベルバート王と側近が会話を続け、それに耳を傾ける。

「はっ。まず国内についてですが――ザディアス失脚の後に多少の混乱が見られたものの、比較的落ち着いております。諸侯もほとんどが様子見に回ったようですな」
「ふむ。ザディアスに忠義立てて心中しようというものはおらぬか」

 エベルバート王は皮肉げに言って苦笑する。

「ザディアスに近しくしていた者は、自身のところに火の粉が及ばぬようにと恐々としているようですな」
「そういった連中は消極的であれ恭順を示すようであれば、それでよしとすべきであろう。多少言葉で釘を刺し、今後も王国の発展に寄与するようにと伝えるだけで、十分抑止足り得る。しかし、ある程度の警戒を怠らぬように」
「御意のままに」
「利害だけで繋がっている程度の連中なんて、そんなものでしょうが……絞め付け過ぎると牙を剥く可能性があるものね。問題が多少あっても積極的に敵対する気がないのなら放置が今の状況では最善、というところかしら」

 その会話を聞いていたローズマリーが、羽扇で口元を隠しながらそう呟く。
 ふむ。シルヴァトリア国内の貴族にザディアスに多少協力的だった者がいたとしても、今の状況で排除してしまうほうが実害が大きいというところか。何事も事後処理のほうが大変だったりするしな。

 ザディアス自身がやらかしたことの穴埋めや魔人絡みのことも未解決なのだし、釘を刺すと同時に、国にとって必要だと匂わせることで敵対心を減じておこうというわけだ。飴と鞭の使い分けで、現状に余程の不満が無ければ大人しくしているだろう。

 報告を受け、指示を飛ばしながら王城の奥、貴賓室へと通される。すぐに茶が用意された。

「他に、変わったことは?」

 エベルバート王が尋ねると、側近がやや表情を曇らせる。

「……実は、宝物庫より一点。ザディアスの手で持ち出されていた品がありました」
「……それは?」
「古の鍵――と呼ばれるものです」
「鍵、とな?」

 エベルバート王も知らない物なのか、表情を曇らせる。

「目録によればシルヴァトリア建国以前から伝わる品のようです」
「……であろうな。ことシルヴァトリアにおいて古などと呼称するのであればベリオンドーラ由来の品以外あるまい。その用途と目的、及び現在の所在については?」
「用途に関しては王家の管理するべき品だと」
「それは……過去の王がそう記したものか」

 王家に対して「するべき」などと義務として残せるのは王家の祖先だけということか。

「そう推測されます。持ち出した目的については、ザディアスは魔人の秘術を得るための取引だったと。所在については知らないと申しております」
「……何とも……お粗末で無責任なことだ。魔人との取引に用いて鍵の行方は知れず。連中の目的も不明だと申すか」

 エベルバート王は溜息を吐くと額に手をやる。かぶりを振ると顔を上げ、側近に言った。

「……調査と取り調べを継続せよ。件の目録についてはここへ持ってくるように」
「はっ」

 側近は恐縮しながら一礼すると貴賓室を出て行った。

「聞いた通りだ。そなた達の意見を聞きたいのだが、構わぬかな」

 エベルバート王は椅子に腰かけ直すとこちらに向き直る。
 ふむ。鍵……鍵か。

「……鍵、という言葉から素直に考えるなら……何かの扉に使うか、或いは何かの封印を解くために必要なもの、か」
「封印……。古の魔人の封印に関わっている……と見るべきか?」

 それも有り得るが……頷くには些か気になる点がある。

「シルヴァトリアにおいては、魔人に対抗する策や封印については賢者の学連側に集約されているように思うのですが」
「……確かにの。もし古の魔人の封印に関わる物ならば我らの管轄になるものじゃろう」

 ジークムント老が思案を巡らす。

「ザディアスとヴォルハイムに直接話を聞くことはできますか?」
「無理ではないだろうが……少なくともザディアスはそなたが直接行っても、まともに話ができんかも知れんぞ」
「何故でしょう? 未だに激痛で動けないと?」
「いや……。それもあるが、そなたにすっかり牙をへし折られたらしくてな。尋問の度にそなたのことが話の端に上るだけで怯えて、絶対に引き渡したりしないでくれと叫ぶので話が中断されてしまうそうだ」

 エベルバート王は言いにくそうにというか、申し訳なさそうにそんなことを言った。

「そうなんですか……」

 ……うーん。心を折り過ぎたのだろうか。再起の芽を叩き潰したと考えれば悪いことではないような気もするが。
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