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番外2010 使命を課さないように

 そんなわけで、ベシュメルク、魔王国共に問題無さそうである。魔界や境界門に関してもジオグランタやパルテニアラによると特に異常はないということだしな。


 そういった話に、魔界側のラストガーディアンであるユイもうんうんと頷いていた。


 さて。そうしてエレナやマルレーンの体調や子供達の様子を見たり、滞在している客と話をしたりして、予定日を迎えるまでの時間は過ぎていった。


 ただ――エレナは予定日になっても体調に変化が起こらずにいた。

 まあ、予定日が前後したりというのはよくある事ということで、みんなそのあたりは冷静に経過を診ていたし、ロゼッタやルシール、滞在している客達もスケジュールに融通が利くようにしていたから、特に問題は起こらずにいたが。


 エレナが産気づいたのは予定日から二日程経過した朝の事だ。


「それでは――行ってきますね」

「うん。みんなと一緒に二人を待っているよ」

「いってらっしゃい、エレナおかあさん」

「みんなでいのるの」


 エレナは俺や子供達の言葉に嬉しそうに笑って頷くとそれから部屋に入っていった。

 ロゼッタとルシールはいつでも対応できるようにと交代で自己の体調を整えつつ待機してくれていた。迅速に動いてくれるので、こちらとしても心強い。


「それじゃあ、みんなで二人の無事を祈りましょうか」


 イルムヒルトが言うと、子供達も「うんっ!」と声を上げる。そうしてみんなで祈りを捧げていく。


「ぼくもエレナさまのぶじをいのる……!」


 と、デイヴィッド王子もオリヴィア達と共に真剣な表情で祈りを捧げていく。そんな姿にみんなも表情を綻ばせ、それから真剣な表情になるとそれに続く。

 メギアストラ女王やパルテニアラの祈りも混ざっているからな。やはり祈りの力の高まりは相当なものだ。


 エレナも、色々と苦労を重ねてきたからな。

 ザナエルクに迎合せず、圧力を跳ね返して姫巫女としての使命に人生を捧げる覚悟を決めた。そんなエレナに対するパルテニアラ達の想いが強いものになるのも納得だ。

 俺も……エレナには笑っていて欲しいと思う。幸せでいて欲しいと思う。そうした想いを祈りに込めて、みんなと共に力をより高めていく。


 落ち着かない時間ではあるが、そうしていればエレナの力になれるはずだから。


 アシュレイの時、クラウディアの時。そして今回と。場数を重ねているので子供達の集中も増している気がする。魔力の込め方も上手くなっていて、結構な時間、相当な集中力を発揮していた。


 休憩や交代を挟みつつ祈りを捧げていたが――昼も過ぎ、夕方頃になって。ルシールが明るい表情で待合室に顔を出す。


「お二方とも、無事です……! 元気な女の子ですよ!」


 そんなルシールの言葉に、みんなが歓声を上げた。遠くから聞こえてくる産声を聞くと安心できるな。


「ああ……。ありがとうございます……!」

「ふふ。おめでとうございます」


 ルシールが俺の言葉に笑って応じて、向こうの準備ができるまでの間を置いてから案内してくれる。


 そうして浄化の魔法を使ってから部屋に入ると、エレナとおくるみに包まれた女の子がそこにいた。寝台の上で横になって、子供を見て優しくその産毛を撫でているエレナである。

 こうやって……顔を見ると本当に安心する。場数を踏んでも嬉しいものは嬉しい。


「ああ、テオドール様」

「うん。二人とも……無事で良かった」


 俺が入室すると、エレナはこちらを見て嬉しそうな表情を見せる。少し疲れているようだが、二人とも生命反応の輝きは力強い。

 女の子は――髪の色の特徴は俺に似ているか。先程まで産声を上げていたが、今はエレナの隣で落ち着いている様子だ。


「ロゼッタさんもありがとうございます」

「今回も無事で嬉しく思っているわ」


 ロゼッタも俺の言葉に微笑んで頷く。


 そうしたところで、エレナと子供に向き直り、エレナの手を取りつつ、子供の頬にもそっと触れていく。軽く循環錬気を行うとエレナが心地よさそうに目を細めた。


「会えて、良かったです」

「うん。そうだね」


 子供の顔を見ながら、その名前を呼ぶ。


「アイリアっていう名前はどうかな」


 やはり花――アイリスからとって少し捩った名前だな。アイリス自体がイリスという女神の名前由来とも言うけれど。

 アイリスの花言葉は希望、吉報、知恵等々……ポジティブな意味合いが多いようだ。まあ、エレナに限らず子供達の名前は母親のイメージから考えている部分もあるかな。


「良いお名前です。ふふ……。これからよろしくお願いしますね、アイリア」

「よろしくね。それから、初めまして、アイリア」


 エレナと共にアイリアに挨拶をする。


 グレイス達も戸口に顔を出して。エレナとアイリアに祝福と挨拶の言葉を送る。


「ふふ。これからよろしくね、アイリア」

「はじめまして、アイリアちゃん!」

「おめでとう、エレナおかあさん……!」


 そんなみんなの言葉にエレナも嬉しそうに微笑んで礼を言う。そうして、アイリアも無事に生まれたのであった。




「ふむ。やはりというか、アイリアには巫女姫としての適性があるな」


 というのは母子共に少し落ち着いてからアイリアのことを確認したパルテニアラの見解だ。

 巫女姫――境界門を封印するための資格、適性のことだ。エレナがその役割を引き継いでいたから、ザナエルクに狙われていたわけだが……。


「直系の女子であれば、やはりそうなりますね」


 エレナは傍らのアイリアを優しく撫でながらも分かっていたというように静かに頷いている。


「うむ。だがまあ、資格は資格。引き継ぐ必要があるかは妾の判断次第ではあるな。今は迷宮によって境界門によって守られていることを考えれば、必ずしも必要なものではあるまい」

「子孫にその資格が引き継がれていく、というのが分かっているのであれば……もしもの時の為の手段が後世に残る、というのはありますか」

「そういう事になるな。子孫に辛い使命を託してしまうのは――妾とて心苦しくはある。できることならば、先々に渡って必要とされないまま進んで行くのが理想ではある」


 パルテニアラは静かに言った。


「そうですね……僕としても呪法を伝える上での教育はしっかりしたいので、もしもの時のための資格がある、というのは頃合いを見て教えたい、とは思います。使命を帯びていなくとも資格はあるというのは、呪法を扱う上で考えてもらう結果には繋がると思いますからね」

「そうさな。過去から学び、いざという時に手段もある。否応なくでなく……選択肢がある、というのは……恵まれていることであろう」


 俺が言うとパルテニアラは真剣な表情で応じる。

 そうだな。否応ない状況だったからその人生を賭したのがエレナであり、クラウディアでもある。

 子孫がそうならないように、しっかりと伝え、学んでいけるように環境作りをしていきたいと、そう思う。




 さて。そうしてアイリアも無事に生まれた。経過については母子共に健康で……エレナの復調も順調に進んでいて、こちらもアシュレイやクラウディア同様に安心できるものだ。

 予定日が控えているのはいよいよマルレーンだけとなり、子供達の日々の成長を見ながらも、マルレーンの予定日に備えて動いていくこととなった。


 エレナの予定日から、それほど間を置かずやってくることになる。子供達の健康や日々の執務と合わせどれも疎かにならないようにしっかりと進めていきたいところだな。

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[良い点] デイヴィッド王子もオリヴィア達や獣と共に真剣な表情で祈りの聖拳突き捧げていく
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