番外2008 お披露目とお祝いと
「セレスティンはやっぱり、水の魔力資質が強いようですね」
「予想していたことではあるね。なるべく負担にならないように、軽く制限を掛けるための魔道具も――母さんが用意を進めてくれていた」
フォレスタニア城の上層――私室にて。アシュレイの言葉に俺がそう答えると、母さんも静かに頷く。
「一先ずは赤ちゃんに装着させやすい形で作ってみたわ。指輪とか、そういうのはもう少し成長してからかしらね」
水の魔力資質過剰を原因とする体調不良に関してはダンピーラのそれとは違い、幼少期からでも影響を及ぼすからな。オリヴィアよりも早めに対策をしておく必要がある。循環錬気で補強しつつ様子を見てきたが、どうもアシュレイと同じ体質のようだ。
どちらにせよ新生児の循環錬気を続けているからセレスティンの体調と成長は安定しているが、対策しないと循環錬気が必須になってしまうからな。
そこで母さんが念のためにということで誕生前から準備を進めてくれていたわけだな。シルン伯爵家が水の魔力資質の強い家系というのは分かっていたし、そうなると循環錬気が継承できるできないはさて置いて対策は合った方が安心できる。
そんなわけで母さんが作ってきたのは新生児用の肌着と前掛けだな。どちらも刻印魔法での刺繍が施してあり、特性を弱めてリミッターをかける術式が施してある。平べったい魔石が布の内側に縫い付けてあり、誤飲を防止すると共に刻印術式を維持するための魔力源にもなっている、というわけだ。
性質上汚れやすいものでもあるから、母さんは複数枚用意してくれたようだ。まあ、これがあれば当面は大丈夫だろう。成長してきたら改めて指輪や腕輪等、装飾品型の魔道具を用意すればいい。
「ありがとうございます……! 可愛らしい見た目ですし、これならセレスティンも安心ですね」
「ふふ。そう言ってもらえると作った甲斐があるわね」
アシュレイから礼を言われて微笑む母さんである。
それに刺繍で魔除けや破邪の効果を持たせたカトレア用の前掛けや肌着もみんなが用意してくれた。
「こっちは封印術ではないですからね。私達もお手伝いできました」
グレイスの言葉にイルムヒルトやマルレーンも頷く。
「ええ……。ありがとう。嬉しいわね」
クラウディアも穏やかな表情でそう応じていた。
カトレアについては特に魔力資質等による体質的な問題もなく、順調に成長中といったところだ。月の民の王族の系譜ということで魔力の高さについては折り紙付きだな。
月の民の重鎮達によると、オーレリア女王の幼い頃にも匹敵するというから……まあ、実際月の王族並みということになるのか。先々が楽しみではあるが、それだけに魔法等の扱いに関してはしっかりと教育したいところである。
そうしてアシュレイとクラウディアは、セレスティンやカトレアに前掛けと肌着を合わせて、どんな印象になるか等を確かめていく。
「二人に――よく似合いそうだね」
「ある程度予測していたところはあるわね」
母さんが言うとグレイス達も頷く。アシュレイやクラウディアの印象から子供達の髪の色等も予測し、似合いそうな色や意匠を考えていたとのことである。
そういった調子で子供達は、順調に成長中だ。
公表も終わりお祝いムードも一旦落ち着いてきた頃合いで、ロゼッタやルシールは外出しても大丈夫だろうと太鼓判を押してくれた。アシュレイ達も十分に復調してきたということもあり、シルン伯爵領やエリオットの領地、月、シルヴァトリアやハルバロニスといったところへも顔を出すこととなった。
シルン伯爵領に関しては――セレスティンがシルン伯爵家の家督を継ぐことが確定しているようなものだからな。相当な歓迎ぶりだったことは言うまでもない。
領地を視察も兼ねて巡るとあちこちから祝福の声がかけられた。アシュレイと共に礼を言って手を振ると、領民達も表情を綻ばせて応じる。
「おお……あの空飛ぶ揺り籠で眠っていらっしゃるのがセレスティン様……」
「アシュレイ様や兄君によく似ていていらっしゃいますね」
と、そんな声も聞こえてくる。フロートポッドも幌を上げてセレスティンが視界に入りやすくしているな。
水田での稲作を始めてくれた領民達。それにミシェルやその祖父のフリッツ。オルトナとノーブルリーフ達も総出で挨拶や祝福をしてくれて……まあ、賑やかなものだ。
「領民の皆さんにこうして祝福してもらえるのは、嬉しいな、と。すべきことをした上で尚、領主として好意的に思って貰えているということですから」
アシュレイはそんな領民達の反応に胸のあたりに手をやって、感じ入っている様子だった。
そう。そうだな……。領主というのは受けのいい事だけをしていれば、それで良い領主という事にはならない。
しかし理不尽を強いたり税が重いだなんてことはない。少なくともシルン伯爵領においてはノーブルリーフ農法や稲作が結果を出していて領民も潤っているし、魔力溜まりによる被害もよく抑えられている。順調に領民の人口も増えているというデータも上がっているので、安定しているわけだ。領民達もそれらを好意的に受け止めてくれている、ということだろう。
そうやって歓迎してくれるのはシルン伯爵領だけではなく――シルヴァトリアや、ハルバロニスや月の都でも同じで、アシュレイとクラウディアの無事、セレスティンとカトレアの誕生と順調な成長を盛大に祝ってくれた。
どこも沿道に人が出ていて、俺達が姿を見せると歓声を以って迎えてくれる。
「尊き姫君やその御子が地上で幸せになられたということならば、これほどめでたい事はありますまい」
「いやはや全く。カトレア姫ですか。将来が楽しみですなあ」
そんな風に話をしている月の民達だ。お祝いということで、俺達の来訪を歓迎するように、煌めく光の粒を空中に漂わせたりと、色々月の民が演出してくれて。都自体中々華やかで幻想的な雰囲気に包まれていた。
「本当……幸せを祈ってもらえるというのは嬉しいことね」
クラウディアがそう言うとアシュレイも微笑んで頷き、みんなも表情を綻ばせていた。
子供達もあちこち巡ることができて、楽しそうにしていたな。歓迎と祝福の声に嬉しそうに大きく手を振ったりお辞儀をしたりと、微笑ましい様子を俺達としても堪能させてもらった。
弟と妹がお祝いしてもらっていて嬉しい、とのことだ。うむ。
そんな調子でセレスティンとカトレアにとっての関係各所を巡ってお祝いをしてもらい、お披露目も行ったのであった。
続くエレナとマルレーンの予定日については冬ということもあり……秋を挟んでということになるが……まあ、その間に挟まる秋冬の予定や執務の事など、一つ一つ確実にやっていきたいと思う。
そうして――日常が戻ってくる。
アシュレイ達年少組やセレスティン、カトレアの体調を見つつ、執務や仕事も一つ一つしっかりとこなしていくというわけだ。
但し……日常が戻ってきたと言っても、俺達は、という話であって……街中はまだまだお祝いムードが続いている。オリヴィア達の誕生から少し間があったし、まだエレナとマルレーンの子が誕生を控えているからな。
後々の盛り上がりも期待してか、観光客や商人達が数多く訪れているし、誕生にあやかっての品々を露店や店先で販売していたりして。月神殿にも安産祈願に訪れたり、病院に健診に来たりする夫婦も多いという印象だ。付随して劇場等々も客入りが増えていて結構なことである。
子供達の事が経済的にも領内やタームウィルズを潤してくれるというのは喜ばしいことだな。