番外2005 子供達の想い
生まれたばかりの子供はまだまだ身体が弱く繊細だとか、無事に終わっても大変なのでアシュレイにもすぐに会えるわけではない、というのは子供達には伝えてある。
それでも子供達が起きていたいというのは、弟、妹の誕生に立ち会いたいということなのだろう。というよりも大変だというのを伝えたから応援したい、というのが正しいのか。
みんなと一緒に真面目に祈りを捧げる。真剣な表情で祈りを捧げる子供達は――まだ幼い年齢なのにも関わらず長時間集中していて、中々の魔力を祈りに込めていた。
子供達が一心に祈っているのは微笑ましい姿ではあるが、集中力や魔力はかなりのものだ。俺達もしばらく祈りを捧げ、祈りの力はかなり高まっていた。
それでもやはり、長時間祈りを捧げるというのは中々に大変だ。
子供達が疲れたであろう頃合いに休みを挟み、グレイス達がそれぞれが生まれた時の事を話したりして。子供達は神妙な表情でそれを聞いていた。
「オリヴィアが生まれたのは冬だったね」
「そうね。オリヴィアは初めての子だったから、わたくし達も……落ち着いてはいられなかったわ。傍目にはともかく内心では心配していたものよ」
ローズマリーが言う。そう、だな。俺もあの時は落ち着けずにいた。今も……子供達の前だから不安を表に出すようなことはしていないし、場数を踏んだ分気構えも出来るけれど、アシュレイや子供が心配というのは変わらない。
「ふふ。そうでしたね。でも、みんなで会えるのを楽しみにしているのは毎回一緒なんですよ」
そう言ってグレイスがオリヴィアを抱き上げると、オリヴィアも頷いてグレイスに抱き着く。
「うん。わたしたちも、たのしみ」
「みんなでアシュレイおかあさんたちの、ぶじをいのるの」
エーデルワイスもローズマリーに髪を撫でられながら抱き着き、ヴィオレーネがそう言うと、また子供達は顔を見合わせあい、祈りを捧げる。
そんな子供達の様子に俺達も頷き合い、アシュレイ達の無事を祈っていく。
少し焦れるような時間が過ぎていく。やがて日付が変わって、そこから少し時間も経って。
「――母子共に無事に産まれましたよ……! 元気な男の子です!」
ルシールが笑顔で顔を覗かせた。開かれた扉の向こうから、産声が漏れるように聞こえてくる。
「良かった……! ありがとうございます!」
「何よりです……! シルン伯爵のこと、ありがとうございます……!」
「良かったです、アシュレイ様……!」
「おおお……! なんと素晴らしい……!」
俺やエリオット、カミラにケンネルとみんなでその言葉に反応し、ルシールに礼を言う。ルシールも微笑んで頷いていた。
準備が整うまで少し待ってから、子供の顔を見せてもらう。その間に浄化の魔道具を使って消毒したりしていく。
今日のところはアシュレイと産まれた子供の顔を少し見るだけという形にはなるが、それでもみんな嬉しそうだ。
ルシールに案内されてアシュレイ達のいる部屋へ向かうと、ロゼッタに付き添われる形で寝台の上に横たわったアシュレイと、産湯を済ませておくるみに包まれた子供の姿がそこにあった。髪の色は――やはりアシュレイやエリオットに似ているかな。
「――二人とも……無事で良かった。アシュレイ」
「はい……。テオドール様」
アシュレイは静かに微笑む。少し消耗しているが、母子共に生命反応の輝きは力強いものだ。それを確認してようやく安堵することができた。
ロゼッタにも礼を言うと「私もアシュレイ達が無事で安心できたわ」と表情を綻ばせる。
気を遣って戸口のところから顔を覗かせている子供達を見て、アシュレイも穏やかに目を細める。
それから――俺もアシュレイの子に視線を向ける。
「初めましてだね」
「はい。名前は決まっているのですよね」
「そうだね。男の子ならセレスティンにしようと思っていたんだけれど、どうかな」
青い鉱石……セレスタイトからとったものだな。男の子なら鉱石。女の子なら花からという形で名付けをしているというのは継続している。
「はい。良い名前だと思います。ふふ。初めまして、セレスティン」
アシュレイがセレスティンの名を呼んで、そっとその頬に触れる。先程まで産声を上げていたセレスティンは現在、少し落ち着いている様子であったが、指の背でそっと頬を撫でられて僅かに身じろぎをする。
「初めまして、セレスティン」
「はじめまして、セレスティン……!」
俺もそう言ってそっと触れると、戸口から覗いていた子供達も無邪気な笑顔でセレスティンに声をかけていた。うむ。
そんな子供達と共に少し離れてアシュレイとセレスティンの様子を見に来ているグレイス達、エリオット達もそんな子供達の様子に微笑ましそうに目を細め、アシュレイとセレスティンに無事を喜び、祝福する言葉を伝える。
「あり、がとうございます。こんなに嬉しいことはありません」
アシュレイは感動で涙ぐんでいるケンネルにつられたのか、自身も涙を少し拭いつつ皆に応じていた。
家族仲が良いというのは良いことだ。そうして母子共に無事に出産を終えたのであった。
オリヴィア達にとっては……今まで――妹はいたけれど、弟というのは初めてだからな。しかも歳が離れている。今まで兄弟姉妹がいると言っても同年代だったということもあり、その喜びようもかなりのものだ。
「もうしばらくしてアシュレイ様の体調が安定したら、みんなとも触れ合えるようになりますよ」
「うん。たのしみだな!」
「おせわしたい。おねえちゃんだもの」
エレナが言うと、アイオルトとロメリアがそんな風に言って。そうして盛り上がっている様子だ。
子供についてはまだ予定日が続いているからな。順番的にはクラウディアの予定日が来月。エレナ、マルレーンが冬となっているわけだが……更に弟や妹が増えるということもあり、子供のお世話の仕方、気を付けなければならないことをグレイス達や母さん、ロゼッタやルシール迷宮村の面々に教わったりしている子供達である。
みんなの話を真剣な表情で聞いている子供達は微笑ましいものがあるな。
そうして。ヴェルナーも数日滞在して従妹であるセレスティンを始め、子供達とも交流してからエリオット、カミラと共に領地へと帰っていった。
ヴェルナーはエリオットの面影もあるし、中々利発そうで将来が楽しみな子だな。魔力波長もエリオットに似ていて水の魔術師、治癒術師の才能もありそうだ。水属性が強すぎて体調を崩すようなこともなく、良いバランスを維持して成長しているという印象だな。
ヴェルナーについては誕生してから特性封印の準備もしながら経過観察をしていたが、その必要はなかったということで結論を見ている。
年代が近いということもあり、オリヴィア達――特に男の子同士でアイオルトやデイヴィッド王子とも仲が良いな。
女の子達同士となると、エスナトゥーラの娘であるルクレインや氏族の子、迷宮村の子ともオリヴィア達とよく一緒に遊んでいたりもするが。
自分達より小さな弟や妹が生まれてくるということで、子供達も色々心情に変化があるだろう。そうした環境の変化から予想されうる心境や影響については細かく見ておきたいな。
それに……アシュレイとセレスティンの体調と経過をしっかりと見ていくこと。それから予定日の近付いているクラウディアの体調管理も重要だ。日常の仕事もある。諸々疎かにならないようしっかりしていきたいところだな。




