番外2003 平穏な日々の中で
ヘルフリート王子とカティア、ダリルとネシャートに関しては、夫婦仲も良好なようだ。まあ、ヘルフリート王子とカティアは元々仲が良くて、色々な問題を乗り越えてでも結婚したいと思っていたようだし、ダリルとネシャートも……初めて出会った時からお互いの印象が良好で、お互い尊敬し合うような関係だった。
なので、傍から見ている印象では心配はいらなさそうだ。こちらとしても、困ったことがあるなら相談して欲しいとも伝えてある。
特に子供に関することはな。まあ、カティアはネレイド族の面々がバックアップに回っているし、ネシャートも、エルハーム姫やガートナー伯爵家が色々と手配をしているので不足はないだろうと思うけれど。
病院も色々と技術、知識が蓄積されていて出産に関連しての安全性も大分増しているしな。
ヴェルドガルにとって、大きな変化もあった。といっても平和的なものだが。
ジョサイア王とフラヴィア王妃の間に子供が生まれたのだ。フラヴィア王妃と第一子の懐妊に関する情報が解禁された時は、タームウィルズは勿論、国中の領地を挙げてのお祝いムードになったものだ。
「とても嬉しいのだが――人前ではあまり派手に喜べないというのが王の辛いところだな」
ジョサイア王はそれでも幸せそうに笑いながらそんな風に俺達に伝えてくれたものだ。フラヴィア王妃はと言えば、王城でルシールに健康診断を受けながらも安静にしていたが、グレイス達がミレーネ夫人やグラディス夫人と共に面会に行くと、温かく歓迎してくれたそうだ。
「色々話をしてきたわ。どうやって過ごすのが良いのかとか、苦労した点だとか」
「心強いと仰っていましたね。フラヴィア殿下に安心して頂けたなら良かったのですが」
「ジョサイア陛下経由での循環錬気についても頼まれているからね。同じように過ごすことになるって考えたら、色々参考になったんじゃないかな」
ステファニアやグレイスの言葉にそんな風に応じて。
それから俺自身も定期的に王城に通ってジョサイア王を通しての循環錬気でフラヴィア王妃の体調を整えたりさせてもらった。
血析鏡も活用してルシールが体調管理をし、循環錬気を行うことで母子共に健康な経過を辿れるように補強し……無事に第一子が生まれたというわけだ。
男子だったので王太子、ということになる。そうやって少し様子を見て容態が安定し、無事に生まれて育っているという情報も解禁されると、またもヴェルドガルもお祭り騒ぎになっていた。
ヴェルドガル第一王子の名はヴィンストン。ヴィンストン=ヴェルドガル王子だ。
髪や瞳の色はフラヴィア王妃に似ている印象だが、メルヴィン公やミレーネ夫人によれば顔立ちはジョサイア王の生まれた頃に似ているとのことで。まあ、将来が楽しみなことである。
子供と言えば他にも……コルリスとアンバー、ラヴィーネとアルファの間にそれぞれ子が生まれていたりするな。
ベリルモールは元々個体数が少ない魔物ではあるから、子供も一人だけといった感じではあるが……まあ何というか、ベリルモールの子供は丸っこくて可愛いと思う。
強い地属性の魔力を持っているのは親譲りではあるか。生まれた時から人に慣れていて大人しくもあるな。
ラヴィーネとアルファの子は、スノーウルフとワーウルフ原種のハーフで、他に類のないやや特殊な子ではある。
強い水――特に冷気の力を宿した狼の子であるが、アルファの状態が特殊なので少し精霊に似た波長の魔力でもあり……成長すると人狼形態に変化可能と思われる。要するに両親の性質を受け継いでいるわけだな。
現時点では――かなり強い魔力を感じるものの人懐っこくて可愛い子犬といった印象だが。俺達にも懐いてくれており、オリヴィア達とも仲がいい。
銀色の体毛に、額のあたりに金色の体毛が丁度三日月のように浮かんでいて。何というか利発そうな顔をしている。
コルリスの子はエラルタ、ラヴィーネの子はスティリア。ベリルモールだから宝石のベリルの一種というか代表でもある……エメラルドからとった名前で、スティリアはつららの意味がある言葉からもじったものだな。
動物組というとティールもだが、こちらは最近番ができたようで、よく一緒にいるマギアペンギンがいて、仲睦まじい様子である。その内卵が産まれて、遠からず雛を紹介されるかも知れない。
まあ、そんなわけで周囲に目を向けても中々賑やかで楽しいものだ。シャルロッテも動物組が増えて非常に嬉しそうにしているしな。
それから……領地のことも触れておこう。
劇場、造船所、仮想空間、庭園に訓練場に病院と色々な設備も作ってきたが、こちらも軌道に乗っていて運営も安定している。
境界劇場も幻影劇場も新規演者の応援や幻影劇作成の公募もしており……まあ、幻影劇作成のためにこちらで専用のツールを構築していたりするな。所謂スタジオで立体映像を構築して記録できるようにしたり、実際の演技や声を録画や収録できるようにしたり……まあ、こうやって外部から映像や音声データを取り込む方法はBFOの干渉を行う際もノウハウとして役に立つからな。
それらも兼ねて進めているというところはある。そんなわけで、二つの劇場では曜日や上映ホールによっては、俺達が演奏や幻影劇の内容に直接関わっていないものもあって。そちらも中々に好評だ。
幻影劇を作っている監督によるとツールが使いやすくて出来が良いと言ってくれているな。
思考入力で実際に使うための幻影を作れるというのもあるので、監督が映像そのものをイメージで作るのが難しければ画家や彫刻家等に任せてもいい。芸術家の世界観でアートワークが統一されるのでそれはそれでビジュアルが面白いし、現実に即した立体映像にする必要もないしな。
そんなわけで芸術、文化、学問の振興も奨励しているため、フォレスタニアも結構芸術畑の人々が集まってきたりしているわけだ。
そんな調子で、身の回り少しずつではあるが前に進んでいて……。色々と振り返ってみるとここ数年で結構変わったものだ。
結婚したり子供が生まれたりというのが多いというのは、平和になっている証拠のようなものだ。大変喜ばしいことだな。
――日常の執務や仕事に加え、干渉の準備を進め段取りを確認して……平和ながらも中々充実した内容で日々は過ぎていった。
そんな日々の中で年少組のみんなの懐妊が分かったのは――マルレーンの誕生日を迎えてから大体1年から1年半の間ぐらい後のことだ。
「ふふ。しっかりみんなを支えていかないとね」
「ん。今度は私達が支える番」
イルムヒルトの言葉にシーラが頷いたりして。
「細かい家事とかは私に任せてね……!」
セラフィナも家妖精の面目躍如とばかりにやる気に燃えている様子であった。年長組の時はアシュレイ達と共に色々とバックアップに回ったからな。グレイス達もその時にしてもらったことを返すということで乗り気であった。
そうしてみると、お互いバックアップできる分、年長組と年少組でタイムラグがあったのは良い事だったのかも知れない。アシュレイ達を待たせる形になってしまったのは申し訳ないとは思うが。
干渉のために必要な魔力はまだ溜まっていなかったということもあり、みんなも子供達の事に集中することができた、と思う。
やはり年長組やカミラ、オフィーリアやフラヴィア王妃達と同様に、ルシールやロゼッタに体調を診てもらい、循環錬気で体調を整えていく形だな。