番外2000 そしてみんなと共に
コルゴティオ族はその後――順調に経験を積んでいったという印象だ。
治癒術師、薬師、研究方に事務方と、各々の興味に応じて少し病院での仕事も細分化、専門化していった。魔法技師……特に義肢関係に興味を持つ面々も出てきて、アルバートやタルコットとシンディーに指導を受けながら血析鏡やクリアブラッド、破邪の首飾り、義肢作りといった医療用の魔道具作りも学んでいた。
細かい作業も得意ということで、魔法技師としての適性も高いように思う。感覚的な問題もあるので義肢作りは彼らにとって特に専門的な習熟が必要ということもあり、知識と器用さだけで可能になるというものでもないけれど。それでも工房の職人の層が厚くなるというのは、繁忙期に借りられる手が増えるというのは有難い話だ。
シグリッタから絵画について学んだり、ドミニクやユスティアから音楽について学んだり、フォレスタニアの図書館で物語を楽しんだり……趣味に関しても各々で楽しんでくれているようで結構なことだ。
仕事に趣味にというのは迷宮村の住民、氏族、孤児院の子供達。境界公領やシルン伯爵領の面々も同様で……良いことだな。
俺達はどうかと言えば……みんなと過ごす平和な日々と日常の執務の中で、ちょっとした事件や問題が持ちあがってその解決のために領内や国内外に赴いたりするという……そんな日々だ。
だがまあ、城のみんなも意欲的でしっかりと支援をしてくれるし、国内外の面々も色々な方面で協力してくれる。俺としては有難いことだ。
そうやって――みんなとの平穏と、少し慌ただしくなる日常の中で年月は過ぎていった。
そんな日々で俺達にとっての区切りというか、変化が生じたのは――マルレーンの誕生日だろうか。年少組であったアシュレイ、マルレーン、クラウディア、エレナだが、その中でも一番幼かったのはマルレーンだ。
子供達に関しては、まあ……彼女達の成長を待ってという話になっていたわけだが、年少組としては足並みを合わせたいということでマルレーンの16歳の誕生日を待っていたわけだな。
これでも景久の常識から言うとかなり早い部類ではあると思うのだが……ルーンガルドではまあ、普通の年齢や適齢期という感覚なのだろうか。
年少組のそれぞれについても触れておこう。
まずアシュレイ。彼女はシルン伯爵領の領主として、領内をしっかりと発展させ、水田とノーブルリーフ農法をミシェルやケンネルと共に順調に広げている。
治癒術師としても成長しており、治癒術の出力もさることながら、遠隔範囲による複数種類の症状に対する並行治療等、相当なことができるようになっているな。野戦病院のような場所で役立つ技能で、今のところは幸運なことに出番に恵まれてはいないが、いざという時はこれ以上ない技量と言えるだろう。病院での治療研究にも携わっていて、今後も医療や領地の発展に貢献したいと意気軒高だ。
身体面も封印術によるリミッターと循環錬気で健康である。身長も少し伸びて、顔付きも楚々とした神秘的な美少女といった雰囲気はそのままに、若干大人びた印象になっただろうか礼儀正しい性格も変わってはいない。
誕生日が来たマルレーンはどうか。
彼女も背丈が少し伸びた。言葉こそあまり話さないものの、何時もにこにこしていて明るく爛漫な美少女といった感じだ。その辺りは以前と印象は同じで、性格も大きくは変わっていないのだが、趣味や仕事面では色々と変化が見られる。
元巫女見習いとして月神殿との繋がりがあるのは変わらず。精霊との親和性が高くて顕現していない精霊達と意思疎通が図りやすいというのも変わってはいないが――成長と共に適性と好きなことが高じたのが相まって、それが仕事として昇華されたという感じだな。
マルレーンの場合は俺と出会った頃の思い出を大切にしてくれていて、飛行機や飛行船にも思い入れがあったりするのだ。そこで風の精霊と交信し、航空力学的な最適化を模索してくれたというか。魔法建築において、俺がセラフィナに相談していたのと同じだな。
そういったこともあって、飛行船の性能向上にも一役買ってくれているマルレーンなのである。
クラウディアは――落ち着いた雰囲気はそのままに、肉体年齢の通りに成長した。夜闇に白く輝く月を思わせるような黒い髪と透けるような白い肌。
平時はそうしたところから来る神秘的な印象は変わらないが、年齢を重ねられるという事が嬉しいのか、柔らかく笑う事が増えた、と思う。
クラウディアは長い事……そう。本当に長い事使命を果たしてきたからな。そうした日常や当たり前の事が嬉しいのだろう。
仕事の面では――楽隠居でもクラウディアなら頷けるし支えてやりたいところなのだが、逆に執務にしても迷宮の管理にしても、迷宮村の住民や月神殿とのこと、それに私生活のことでも色々と補佐してくれるのはありがたい。
こうやって親身になって色々してくれるのは、クラウディアの性分だな。
神格については――そんなクラウディアだからこそ、ますます月神殿からの敬愛は深まっているのか、月女神としての力が高まってすらいるように感じられる。
そしてエレナ。彼女は一見たおやかに見えて、内面は当時から暴君であったザナエルクを批難できるほどに芯の通った凛とした美人といった感じだが、成長してもそこは変わらない。やはりガブリエラと姉妹のようによく似ているというのも同じだな。
実の姉妹のように仲が良く、時々水晶板越しに談笑したり、顔を合わせた時は近況を語り合ったりと、親交はそのままといった感じだ。
ベシュメルクとの仲立ち役として、というのも以前と変わらない。
防御呪法や対策となる魔道具の開発。呪法を医療に役立てるための研究等をしていて、その辺の仕事をしている時は楽しそうにしているな。呪法そのものを他者の為や平和のために役立てるというのはエレナにとって良いモチベーションになっているようだ。
年少組はそんな風にして……まだ少女と言っても差支えのない年齢ではあるが、それぞれ立派な大人に成長している。
年長組は――それぞれ見た目の印象はそんなに変わっていないな。加護で全盛期が長続きするというのが分かっているので、全体として見た場合、年少組との年代の印象が揃ってきているという感じがある。
子供達については……順調に成長中だ。まだまだ小さな幼児といった年頃ではあるが、赤ん坊とはもう言わないだろう。大きな病気もなく、健康にすくすくと育ってくれた。
会話もできるし元気も良くて、時々無邪気に甘えてきたり、かと思えばちょっとしたことを自分でできると言ってみたりと、何とも可愛らしいことである。城で働くみんなにも可愛がられて、見ていてとても微笑ましい。
成長という話をするのならば、俺もみんなにはよく言われることではあるかな。
身長がグレイスからも少し見上げられるぐらいになったというのを考えると、結構伸びたのではないだろうか。まだ身長の伸びは止まっていないので、もう少し大きくなるようだ。
身長は伸びたわけだが体格はどうかと言えば……バランスが取れた感じになっている……と思う。この辺は自己評価なので何とも言い難い部分はあるが。
俺の戦い方だと筋肉をつけすぎると動きが阻害されてしまう部分もあるので、このぐらいがベストというのは戦いに身を置く者として言える事ではある。リーチも筋力も増して基本的な打撃力も瞬間的なスピードも増しているから綜合して以前よりも強くなっている、と言えるのではないだろうか。