番外1997 星の一族
新区画の客入りは盛況。反応も上々といった感じだ。可愛い系の生き物で無害なものは、何というかあまり性質をいじらなくても人懐っこい性格のものが多く、客のところに自分から遊びにいって撫でられたりしているな。
まあ、シャルロッテにとっては天国の環境だろうか。今日は新区画開放ということで修業の後のご褒美や孤児院の子供達の護衛も兼ねて遊びに来ていて、子供達と一緒にドーム内を見て回ったり、それが終わったら庭園部分で毛玉やプロペラと戯れたりしていた。
「ふわふわしてて可愛い」
「あ。毛の中にちゃんと目とかあるんだね」
「くるくる回して飛んでるー!」
楽しそうに毛玉やプロペラ生物と戯れる子供達を見て、シャルロッテも表情を緩めつつ、腕にプロペラ生物を抱いていたりする。コルリスとアンバーやティールもそこに交じっているな。頭や腹、背中に異星生物を乗せたりして、中々ほのぼのとする光景だ。
孤児院の子達はシャルロッテやサンドラ院長達と共に食堂で食事をしたりもしていたが、そこで出される料理や菓子等もかなり好評だった。
キャラ弁のように盛り付けたプレートや件のプロペラ生物を模した焼き菓子もあって、孤児達は目を輝かせてそれらを食べていた。味の方も中々のものなので楽しんでもらえたら嬉しいな。
「兄ちゃん」
「お、見て回ってきたのか。どうだった?」
「すごい楽しかった!」
「そりゃ何よりだ」
と、孤児院を卒院した面々も既に案内所で働き始めており、後輩達と楽しそうに話をしている。
フォレスタニアには色々施設も作ったりしたが、孤児院や迷宮村、氏族の面々の雇用創出に繋がれば嬉しいことである。
こうした施設や職場が沢山あるというのは……まあ、将来的にはオリヴィア達にも色々選択肢を用意してやれるということでもある。やりたい事と適性が一致することが一番ではあるけれど、領主である以上後継者に関しても考えなければならない話でもある。
他にも警備室などの裏方を確認し、きちんと機能しているかどうかも確かめたりしたが……。
「こっちも大きな問題はなさそうですね」
「はい。映像が必要になる要所要所を抑えてありますし、警備している異星生物達からも情報を貰えますので」
と、グレイスの言葉に応じる迷宮村出身の職員である。区画内に配置されている銀の獣や異星馬と案内所の警備室でリンクさせて報告や映像送信できるように魔道具を持たせたりしているのだ。
さてさて。そんな調子で命紡庭園も無事に一般公開され、滑り出しは上々といった様子であった。運営や食堂や警備室勤務などのノウハウも他の施設や設備で色々蓄積されているというのもあり、事前研修や実際の運用等も効率が良くなっているからな。
命紡庭園が順調ということもあり、工房ではコルゴティオ族の器作りの方に力が注がれていた。
「隕石を個々人に割り当てて、飛行と護身に用いることのできる元素を器の内側に格納する、と……こんな感じかな」
工房で話し合いをしながらマルレーンのランタンで幻影を出しつつ、器の構想を練っていった。
攻撃用の元素を器に格納しない、というのは当人達の案だ。元素魔法の治癒術に関しては空気中の元素から行使できるため、格納せずとも使えるが。
『これならば我らも周囲も安心だな。外から新しく来た者に対する不安というのはどうしてもあるものだ』
『うむ。時間をかけて行動によって信頼関係を構築していこう』
コルゴティオ族としては、だからこそ現時点では帯剣して周囲を不安がらせるような事はしない、という考えなわけだ。自身がヴィタールと遭遇して追われることになったから、外から来る者への不安やリスクを理解しているからこそ、ということなのだろう。
この辺はコルゴティオ族が元々平和的な性格というのもあるし、タームウィルズやフォレスタニアの治安、通信機等による連絡体制など諸々を鑑みて安全だから、という理由もあるだろう。
俺やジョサイア王もコルゴティオ族を受け入れているし、危害を加えられる心配は少ないからだ。
防壁の展開と飛行ができれば普通は危害を加えるというのは難しいしな。
「後は対魔法や対呪法関連の防御用機構を格納する核と器に組み込む感じかな。自動発動する魔道具と刻印術式が良いと思っているけれど」
『心強い話だ』
思念体だからこそ、精神支配だとか呪いや汚染といった部分への対策が必要になるわけだな。魔道具と器そのものの両面から防御手段を構築することで、そうした搦め手に対する脆弱性を潰しておく必要がある。
自動発動型の魔道具と刻印術式なのは……魔力消費量を抑えた上で常時抵抗性を高めておくことができるからだな。
まあ、この辺はきっちりと術式を作っておこう。
後は器の外見であるが……魔法生物組のスレイブユニットのようにコンパクトでデフォルメされた姿にするか、頭身を人に近付けるかのどちらかが良いだろうという話になっている。
『個々で多少の見た目が違っても共通の……そう、意匠のようなものがあればコルゴティオ族だと分かりやすくなるのではないかな』
『うむ。それは良いな。星の象徴のような意匠もあるのだろう?』
星マークか。まあ、そうだな。小惑星帯をモチーフに複数の星や流れ星マークを器なり衣服なり腕章なりに入れるというのは一族を分かりやすく示す効果はありそうだ。
「光輝く星の意匠は、コルゴティオ族の皆さんの本体の姿にも似ていますね」
『おお。それは確かにそうかも知れない』
グレイスが言うとコルゴティオ族の面々が明滅する。そうだな。五芒星にしろもっと細かい放射が出ている意匠にしろ、四方八方に差している光を表しているというのが一般的な星をモチーフした図形だからだ。
そんなわけでコルゴティオ族と相談した結果、輝く星々の意匠となった。彼らの生まれ故郷は小惑星帯であって、マクロな視点で見ればともかく、彼らの主観としては流星としてどこかに流れていたわけではなかったからな。
見た目に関しても、リアルタイプとデフォルメタイプの好きな方を個々人で選択してもらった。大別すると二極化しているが、細かい造形に関してはカーラが気合を入れてくれているな。
「目や鼻、口元、輪郭等の組み合わせを示していただけたら全体として調和のとれたものにしますよ。身体の大きさに合わせて、少し調整するだけで可愛らしい印象にしたりもできますからね」
カーラが微笑み、シグリッタがこくんと頷く。目、鼻、口に分かれた絵をシグリッタが描いてきており、それらをモンタージュ写真のように組み合わせる事ができるようにしたわけだな。それらモンタージュの絵も、シグリッタが記憶している人々の似顔絵からカーラがパーツを抜粋したもの、ということらしい。コルゴティオ族に個別の器を作るという話が持ち上がった時から準備してくれていたものだな。
『ルーンガルドで皆と生きるのならば、個体識別は大事なものだからな』
コルゴティオ族は真剣な様子で一つ一つ絵を組み合わせて顔を選んでいる様子だ。選択肢が多いだけに『この顔だとどんな印象だろうか?』と質問をしたり『造形についてはまだよく分かっていないが我はこれが気に入った』と盛り上がったりしていた。
ゲームのキャラメイクのようで、中々楽しい作業なのかも知れない。きっとカーラが良い塩梅に仕上げてくれる事だろう。
そんな調子で一人一人、コルゴティオ族の器やその見た目を決めていったのであった。