番外1996 異星区画と客入りと
命紡庭園の一般公開は招待客への公開を経てからという形になる。
招待客については、やはりというかドリスコル公爵がかなり盛り上がっている様子だったな。
「ほうほう……! この生き物は……! おっと、あっちにもいるな!」
「父上、あちらにも変わった生き物が」
「おお、本当だな……!」
といった様子で、オスカーに言われてテンションを上げながらあちこち走り回ったりしていたドリスコル公爵である。そんな公爵の様子に、ヴァネッサや夫人、レスリーや執事のクラークといった公爵家の面々も表情を緩めていた。
ドリスコル公爵の性格を公爵家の面々も受け入れているというか、家族仲が良さそうで結構なことだ。
他にも命紡庭園にやってきた知り合いの面々ではアウリアも楽しそうにしていたな。区画内を走り回って生き物を見て回っていた。シャルロッテもだが、この辺の顔触れは良いリアクションをしてくれる。
さて。そうした招待客の盛り上がりもだが、別の星からやってきた変わった生物が多数いるという触れ込みで周知や宣伝をしていたからか、一般公開の日程に合わせて多数の人々がタームウィルズやフォレスタニアを訪れていた。
今回は宣伝ということで看板やポスターを設置したからな。これはシグリッタがイメージとなる絵を描いてくれている。
星空をバックに格好いい生き物代表ということで銀の獣。可愛い生き物代表ということでプロペラ式の飛行生物。変わった生き物代表ということでとぼけた顔をした生物がそれぞれ描かれているわけだ。
まあ、他にも多種多様な生物がいるということで、色々期待感を煽ってくれる、良い絵に仕上げてくれたのではないかと思う。遥か彼方の星の記憶と共に、というキャッチコピーも入っており、新区画のコンセプトにも少し触れているな。区画内での解説等を聞けばキャッチコピーの意味するところも理解してもらえるだろう。
一般公開の前から掲示された看板やポスターだが、期待感を高める効果や集客力は結構あったようで。タームウィルズもフォレスタニアも掲示されたそれらの前は、結構人で賑わっていた。
冒険者ギルドも宣伝に協力してくれて、依頼が貼り出される部分にポスターが掲示されているが、受付嬢が時折質問を受けたりもしているな。
「遥か彼方のって、あれなんだい? 街中でも見かけるけど」
「隕石の飛来に合わせて齎された生き物の記憶から、フォレスタニアから接続される新区画に別の星の生物を再現した、という話らしいですよ」
「へえ。じゃあそれを一般公開するってことか」
「そうですね。戦うための区画ではないから、安全に見る事ができるのだとか。入場料はかかりますが、結構お安くしてくれているようです」
「ちょっと面白そうではあるかな」
「後で行ってみるか」
とまあ、ギルドでは冒険者と受付嬢とか、そんな感じのやり取りをしている光景もちらほら見受けられた。
街の人通りも公開日が近付くにつれて増えていったが、今回は観光客や商人達だけでなく、学者も各国から訪問しているな。他国の面々にも聞いてみたが、生物学や考古学といった分野に携わる面々が多いようで。ペレスフォード学舎の講師陣にも挨拶をしにいって、一般公開に合わせての新区画見学ツアーを考えているようだと、そんな風にロゼッタが教えてくれた。
そうして公開日がやってくる。
俺達も庭園に様子を見に行ってみるが……まあ、ゲート前には長蛇の列ができているな。ゲオルグやフォレストバード達が整理と誘導に当たってくれて、混乱もないようだ。
列の先頭に並んでいるのは、学者達一行だ。相当気合を入れて見学にモチベーションを焚高めていたのが分かるな。
「では、これから新区画を解放しまーす」
予定時刻になったところでフォレストバードのルシアンが声を上げる。列から歓声があがり、そうしてゲートが開放された。
「おお。ついにか……!」
「行きましょう皆さん……!」
学者一行が嬉しそうにゲートの中へと入っていく。足早ではあるが押したり走ったりしないようにと事前にアナウンスしていたということもあって、大きな混乱もなく列は進んで行った。
学者一行は命紡庭園に入って、その光景を見ると快哉を上げていた。
「これが別の星の風景……」
天文学者もいるようで、別の惑星の風景にまず感動している様子であった。ちなみにこの区画は外の時間と連動しており、夜になると遠景に星空も表示されるのだが……その星々もヴィタールの記憶や知識を基に彼らの母星から見る事のできた空を再現している。
星空の様子が全く異なるのでその辺も楽しんでもらえるだろう。天文学者の研究次第では、ヴィタールの元々住んでいた星の位置や座標が特定できたりする――かも知れないな。
ちなみに夜間だと配置される生物やその挙動も少し変わる。夜間だけ発光したり開花したり活動的になったりする生物もいるし、夜は眠っていたりする生物もいるわけだ。
昼行性はともかく夜行性の生態を完全再現してしまうと普段は見られない生き物も出てくるから、その辺は少し緩くしているが。
まあ、防犯上の問題もあるから、夜間は入場をツアー制や予約制にする方向で進めていこう。宿泊先やそこまでの送迎、護衛がセットなら安心だからな。
学者達や冒険者、観光客、商人と色々な人種が見に来てくれているな。楽しみにしてくれていたようでどんどん人が入っていく。
まず庭園内部に向かうか展示室を見に行くかはそれぞれ違うようではあるが、実物をまず見てみたいということなのか、どちらかというと庭園内部に進んで行く者が多いな。
庭園内部の光景に次々歓声が沸き起こる。風景や環境に配置されている生物群に感動の声が上がっているようだ。特にテンションが高いのは学者達だが、やはり既存の生態系から外れた動物群なので色々と興味深い光景なのではないだろうか。
警備役の銀の獣を始めとした戦闘能力の高い生き物も、各所に座っていたり巡回していたりするが彼らも注目を集めていた。
やはり身体が大きくて機能美と造形美があるから目を惹く。銀の獣以外にも戦いや警備に向いている生き物はいて。彼らも警備役として区画内に配置している。
見た目は四足歩行だがシルエットは馬に近い生き物だ。
ヴェール器官を持つ――いわばペガサスのような異星生物だ。彼らもまたヴェール器官を攻撃や防御、捕縛といった戦闘に使えるタイプで、ゆったりとした足取りで庭園内を警備や巡回してくれているな。
見た目通りに運搬能力や移動速度も高く、更には嗅覚にも優れているので迷子や怪我人が出た時、避難が必要な場面でも頼りになるはずだ。
この異星馬についてはヴェール器官の生えている箇所が後頭部から幅広なものが一本伸びているタイプで……まあそのままヴェールのような形だ。
長くたなびくヴェールを揺らしながら歩く異星生物は中々に優雅で格好が良いな。
地上を歩いている個体もいるが、空を飛べるということもあり、ヴェール器官を光らせながら空中に波紋を残して闊歩している個体もいて、この辺は異星生物ならではという光景だな。
可愛い生き物と合わせて子供達にもそうした警備の異星生物も人気があるようで。空を歩く異星馬の後ろを走って追いかけて、楽しそうな声をあげている。
「案内所も盛況で何よりですね」
「そうだね。食堂や売店は、もう少ししたら戻ってきた人達で賑わうかなと思っていたけれど、今の時点でももうお客が入っているし」
エレナの言葉に頷く。こちらは商機や商売のヒントになるか見に来ている商人達が多いようだ。色々真剣な表情だが、それはそれとして区画内で見られるものを楽しんでもくれているようで何よりである。
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