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番外1995 命を紡ぐために

 庭園を眺めながら小ドーム一つ一つを見ていく。ドーム入口側から入り、出口側に抜けて歩いていけば、それがそのまま順路となっている。一度の訪問で全部見るならば外周をぐるっと時計回りに回っていくことになるわけだな。

 勿論、特定の小ドームが目当てならば、順路以外の道を普通に歩いていけばそちらの方が近い。


 庭園内の風景、生き物、植物は物珍しいものが多いので、歩いていても結構楽しいな。区画内のデザインや配置をした側ではあるが、実際に生き物が動いているところを見るとまた違ってくるというか。


 そうして……まずは森エリアの小ドームに到着する。ゲートを潜ると、そこは異星植物の森だった。まあ……普通の森とは当然様相も違う、奇妙な植物群が生い茂っているな。


 葉の部分が水色だったりして、ちょっとルーンガルドにはない色彩だ。形も奇妙なものが多い。


「ん。歩く植物」

「一家でしょうか」


 シーラが腕組みをしながらうんうんと頷きながらいうと、グレイスもそれを見て微笑む。ドームの奥へと続く道を、根を足代わりに歩行するニンニクのようなフォルムの異星植物が、列を成して横切っていくのが見えた。サイズは大きいものでバスケットボールぐらい、小さい方はソフトボールぐらいだ。

 頭の上に黄色い花らしき構造体も備えており、それを揺らして歩いていく様は中々ユーモラスだな。


 植物も色々だが動物も結構多い。見た目は違うが生態部分だけを見るならば猿や鳥など、ルーンガルドにもいる生き物に似ている部分もある。顔、色、フォルムといった細部は変わってくるが、収斂進化の結果といった感じで似通った部分が見られるというのは興味深いな。


 飛行型の生き物については翼ではなくヴェール状器官を持つ動物も多い。

 但し、銀の獣のように斬撃にまで用いることができるかというと話は変わってきて、普通はあくまで翼の役割を担う器官だ。魔力を集中させやすい部位というのは間違いないようではあるが。


 そうして森エリア、平原や水辺、荒れ地や砂漠。高所と寒冷地エリアと、みんなで順々に小ドームを見ていく。各エリアに配置された生物の解説についても各所に解説板を設置しているので、ある程度は把握してもらえるはずだ。また、高さを変えて見学できるように、小ドーム内にも歩道橋を設置したルートを設けていたりするな。


 樹上生活する動物、飛行する生物を見学するにはそっちの方が見やすかったりもするし。


 同様に、水辺エリアは透明なチューブ状の地下通路が作られており、周囲の水槽を眺めながら水中の様子を観察できるという、水族館のような構造になっているわけだ。


 巨大な顎と甲殻を有する水生生物も遊泳していて、迫力満点だな。魚群のような小型の生き物もいる。ヴィタールの繰り出してきた生体弾に印象が似ているのは、この辺が元になっているからだろう。


 荒地では岩を身体に纏って擬態する生き物もいる。ヤドカリのように岩を着てじっとしているその生物の上に、ぼーっと表情で張り付いている生き物が重なっていたりして中々微笑ましいというか笑いが来てしまうような光景もあった。


 分体が再現した特徴を持つ生き物。動きが面白いものに、可愛らしいもの。凛々しくて格好の良いもの。そうした生物群を眺めながら小ドーム内を順々に見ていった。


「見せ方も良いわね。歩道橋や地下道で高さが違うと印象も変わったりして」

「見所が多いので、繰り返し来る人も多そうです」

「それぞれの地域内でも高所や地下道もあるし何周かできるようになっているのは良いわね」


 ドームを回って見終わったところで、みんなで感想を述べあう。コルゴティオ族も静かに明滅していた。


『ルーンガルドのように、賑やかな星だったのだな』

『景色や生き物の美しさについては――我々の造詣は深くないが……ああした生き物達を守りたい、惜しいと思う気持ちは分かる』

『そうだな。天敵ではあったが、最初の想いを知ることができて良かった』

『ああ……。我らも前に進むことができるだろう』


 コルゴティオ族も庭園やドーム内の風景を見て、静かに明滅する。理由や動機を知ることで……前に進めることもある、か。理解できるかどうかというのは、大事なことだ。


『この区画は何という名前にするのだろうか?』

「こっちで決めてしまってもいいのですか?」

『ああ。ヴィタールの心に触れ、この場所を作ったのもテオドール殿だからな』


 アステルの言葉に、コルゴティオ族も同意を示す。そう、か。では……。


「命紡庭園……というのはどうでしょうか」


 生命を紡ぐ庭園ということで。繋いだ命や縁がより集まり、糸のようにルーンガルドと共に続いていって欲しいと……そんな想いを込めた区画名だ。


 そうした説明をするとコルゴティオ族も明滅しながら応じる。


『良い名だな。より合わせる、か』


 そうやって――区画内や施設を色々と見て回り、問題がないことを確認して俺達はフォレスタニアへと戻った。庭園とフォレスタニアとを繋ぐゲートも、正常に機能しているな。


 改造ティアーズ達もいるから現状でも施設稼働は可能だが……まあ、職員を募集したりして庭園が普通に動かせるようにしていこう。孤児院や城のみんなの、更なる雇用創出にも繋がるしな。


 その間に新区画について周知をし、プレオープンという事で各国の面々に中を見てもらったり、オープニングに合わせて一般客に来てもらえるように準備をしていく、といった流れになるかな。合わせて、コルゴティオ族の器もしっかりと作っていきたいところだ。




 それから、フォレスタニア城やタームウィルズの関係者を命紡庭園に案内して感想を聞いたり、案内センターで働く職員を募集したりといった準備を進めていった。


 シャルロッテも命紡庭園の生物と触れ合って楽しそうにしたりと、中々充実している様子だ。


 迷宮村、氏族、孤児院の新たな卒院生からも希望があって、人員の確保については問題ない。区画内の案内ができるように、解説を読み込んで勉強をしたり案内所のレストランや売店で提供する料理を考えて、異星生物を模した菓子や料理などを作ったりもしたから、これはこれで新区画の売りとして中々楽しいものなのではないだろうか


 コルゴティオ族については――器が出来たら病院で働くことを希望しているな。ルーンガルドの環境下では元素魔法は治癒術として使いやすいものになっているから、種族全員に治癒術の才能があるようなものだ。そんな面々が治療方法について色々学んでくれている上にモチベーションも高いというのは有難い。


 適性という点で言うなら、彼らの記憶力は非常に高いしな。文字をすぐに記憶して、今は辞典や医学、薬学、治癒術に関する本の内容を学んでいるという状態だ。


 実体のない思念体であるコルゴティオ族が本のページをめくるのは難しいから、ティアーズがページをめくってそれを読むという状態だな。見た目はほのぼのとしている光景だが、辞典の内容をきちんと記憶して、一言一句違わずに再現できるというのは相当な記憶能力、と言えるだろう。


 当人達は『だからと言ってその活用が上手くできるか、応用が利く発想力があるかどうかというのは別の話だが』と謙遜していたが、治療に携わる医療スタッフとしてかなり頼りになるというのは間違いない。

 医学書の内容。病状から予想される病名。昔の学説と最新の学説。その治療法の選択肢とそれぞれの利点欠点。患者の細かい症状に関する聞き取り内容等々……記憶力との正確性が力になる部分は多いはずだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ん。歩く岩」 「餌でしょうか」 せやでby獣
[一言] >異星生物を模した菓子や料理などを作ったりもした 緊急クエスト「ギルド長と公爵を連行せよ」が発令されました
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