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番外1992 記憶に留めるために

 迷宮核で実際に月光神殿に増築した部分に、みんなと共に出かける。アステル達、コルゴティオ族の面々も一緒だ。


「普段は入れない場所なんだ。記憶結晶がどんなところに置かれるかは見てもらっておいた方が良いかなと思ってね」

『気を遣ってもらって嬉しい。礼を言う』


 アステル達も明滅しつつ礼を言ってくる。

 普通の慰霊や鎮魂、墓参りといった目的ならば、フォレスタニアの慰霊の神殿に赴けば良い。鎮魂という点で言うのならば、それでも祈りは死者には届くものだからだ。


 月光神殿の区画内に転移して内部へ入っていくと、樹上からカルディアが姿を見せる。


「紹介するよ。月光神殿の守護者のカルディアだ。カルディア、この人達はコルゴティオ族のみんな」


 と、カルディアとコルゴティオ族を引き合わせる。カルディアはこくんと頷いてコルゴティオ族にもお辞儀をしていた。うむ。


 コルゴティオ族の面々と知り合った経緯、今回月光神殿を訪れた経緯を説明すると、カルディアはふんふんと頷いていた。コルゴティオ族もそれぞれ自己紹介を経て、月光神殿の中へ。

 まずはベリスティオの方へと向かって黙祷を捧げる。元々の目的がベリスティオの器の安置で、そこに増築する形だしな。


 ベリスティオの墓所とも言える場所だが……前に訪問した時と変わらず、清浄な魔力で満ちて静謐な印象である。


『墓所、か。過去を振り返り、故人を悼むというのは分かる』

『我らの同胞に繋がるものもまた、ヴィタールの記憶結晶ではあるな』


 コルゴティオ族は静かに明滅していた。神妙な雰囲気というのか。ヴィタールに関しては色々思う事もあるのだろうが……そうだな。故人との縁というのなら記憶結晶も、またそうなのだろう。コルゴティオ族の仲間達が取り込まれ、その情報が記憶として残っているというのは、事実だろうから。


 ともあれ、コルゴティオ族は弔いや埋葬、追悼についても理解があるので、宗教や死生観という点でも共感を得やすいというのは隣人として安心できる面があるな。


 そうして、神殿内部に増築した部分――通路の途中から枝分かれした方向に進む。そこには透明な水晶の柱の中に埋め込まれた記憶結晶が安置されていた。


 こちらでも改めて黙祷を捧げる。コルゴティオ族も祈りを捧げる。静かにゆっくりと光量を上げて想いを込めている様子であった。




 そうやってみんなでしばらく祈りを捧げたところで、月光神殿を後にした。

 コルゴティオ族のみんなをフォレスタニアに送ったら、俺達は再び迷宮核に戻り、改めて新区画をデザインしていく作業に取り掛かる。


 迷宮核内部の術式の海に身体を置いて、みんなと相談しながら進めていくのは今までと同様だ。


「そうだな……。情報をさらった感じだと、ルーンガルドの自然環境に適応させるのは難しいことじゃないというか……すぐにできると思う。ヴィタールが元々やっていたことだからね」


 ヴィタールは実際にルーンガルドの環境に対応していたからな。

 酸素での代謝を始め、色々な環境に対応するための改造を生命体の情報の中から引き出して施していたようで。それを応用することでどんな環境にも適応できたようだ。


『新しい区画も割とすぐに形にできそうね』

「そうだね。区画の形だけど――こんな風に考えてる」


 クラウディアに答えつつ、外で俺の身体を守ってくれているみんなのところに、立体映像を写して見てもらう。中央に庭園。その四方に様々な環境を再現したドームを建造するといった具合だな。


 森、砂漠、水辺といった環境を持つドームに、それらを生活圏にしている生き物を配置するというわけだ。まあ、森と言ってもあくまでヴィタールのかつて住んでいた星の「森」ではあるが。


『見る事の出来る生き物も変わり種が多いでしょうし……見応えのあるものになりそうね』


 ローズマリーが立体映像を見て、思案しながらも首肯する。


「そうだね。今ぱっと出せるところでもこんな生き物がいる」


 そう言って立体映像を更に追加する。浮遊する毛玉のような生き物だとか、日がな一日、陽当たりの良い岩の上でぼーっとしているアンコウのような顔をした生き物だとか。


 岩のような硬質の鱗を持つ、恐らく植物のような生物。これは俺に硬質の散弾をぶっ放してきた鳳仙花の種子のようなパーツの元となった部位を持つ生き物だな。

 種子が落下してその衝撃で弾けるか、高所から直接弾けて種を遠くまで飛ばすという生態だ。まあ……ヴィタールがやってきた程の凶悪な威力はないから原種はそこまで危険はない。


『ん。戦った時に見た部位を持っている生き物がいる』

『あ。本当ですね。これは私の呪法生物と戦っていた分体が持っていた部位です』


 シーラの言葉にエレナが頷く。分体達も色々と変化をしながら戦っていたが、その中に実戦の中で活用されていた部位は全てヴィタールの保有していた生き物のパーツだ。原種から改造を施していて威力や強靭さを向上させたり、部位内外、特性等の面でもキメラ化をさせて利便性を向上させたりしていたようではあるが。


 しかし……ヴィタールのキメラ技術は洗練されているな……。

 情報結晶という形でそれらの情報も遺されたわけだが厳重に保管できる形になって良かったというか。解析手段があれば悪用もできるので、やはりこれもしっかりと守らなければならない代物と言えるだろう。


 俺としては魔法生物はともかくとして、迷宮内限定での環境適応以外でキメラを作るつもりはないから、こうした情報があっても持て余すというか……いや、医療や薬学には応用できる、か? その辺、扱いは本当に慎重にしよう。


 ちなみに情報結晶が迷宮核で解析可能なのは、ヴィタールの最後の祈りや願いに俺の力も合わせて結晶化させたものであるからだ。だからまあ、最初から迷宮で管理することを前提としての構築であったりするのだな。


 ともあれ、ヴィタールの保有していた情報から引き出した生き物は、格好いいもの、美しいもの、奇妙な姿をしたものからあまり一般受けしそうにないものまでと様々だ。


 適応している環境も多岐に渡り、複数のドームを作ってその中に配置するには十分なバリエーションがあると言えるだろう。


 そんなわけでそれら生物群が暮らしていた環境を映像として見せた上で、ドーム内の構造や広さなどをみんなと話し合って新区画の案を練っていった。


 まあ、動物園や水族館のような形になりそうではあるかな。ドーム内に作った順路を巡れば一通り見る事ができる、というような形にすればいいのではないだろうか。


 映し出す遠景に関しても、別の惑星の風景なのでそれだけでも見所と言える。


『馴染みのない生き物ばかりだから、どこかで解説があると面白いかも知れないわね』


 というのはローズマリーの意見である。


「確かにね。案内役を配置して、解説をしてもらうとか……或いは中央にそういう解説役を担う施設を置くか……そんな方向で考えてみようか」


 広報センター兼販売所兼展示スペース……といったところだろうか。

 休憩や食事もできれば良いのではないかという案も出たりしていた。

 区画内に配置するのに適さない生き物の模型展示、幻影展示等も可能になるかも知れないな。


 そうやってみんなで話し合って色々な部分を纏め、出来上がった立体模型図をコルゴティオ族や城のみんなにも見てもらって、そこから更に案を練っていき、新区画を実際に構築していくこととなった。

 フォレスタニアから接続される区画となる。外部から見学できるようにしてヴィタールが本当に残したかったもの、守りたかったものを伝えていく、というわけだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 陽当たりの良い岩の上でぼーっとしているコルリスのような顔をした生き物
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