番外1990 託された命を
コルゴティオ族の名前に、追跡者のヴィタールという名前も決まり、それを聞いた飛べない鳥人族は改めて歌と踊りでお祝いをしてくれた。
「生まれ故郷にちなんだわけですな。良い名ですなあ」
「皆、星空の世界の物を由来とした名というわけですね。素敵なものです」
『ありがとう。嬉しく思う』
と、ポルケー達の祝福の言葉に明滅しながら応じるコルゴティオ族である。
『後は――安心して他種族と接する事の出来る身体だな』
『出来上がりを楽しみにしたい』
コルゴティオ族が言う。これに関しては、他種族との会話に際して火花を散らしてしまうからだな。
火花の電流、電圧を調整してくれているとはいえ、接触したらスタンガンのようになるのは変わらない。
かといって風魔法等を覚えて音でコミュニケーションを取るのも、魔力が生命線でもあるコルゴティオ族にとっては元素魔法よりも魔力の運用効率がよろしくない。だから常日頃からそれで会話をすると負担になってしまう、というわけだ。
それに……ルーンガルドの者達にとっては魔力波長の感知ができないとコルゴティオ族の感情の動きも分かりにくいしな。接している時間が長ければ明滅の仕方等である程度分かるかなとは思うのだが、それでも機微が伝わりやすいとは言えまい。
そんなわけでコミュニケーションを取りやすいように、物理的な器を作ろうという話になったわけだな。
『ふふふ。任せて下さい。どんな造形にするのであれ、パペティア族としても腕が鳴るというものです』
水晶板の向こうでパペティア族のカーラが楽しそうな笑みを見せる。
そうだな。コルゴティオ族の在り方は、パペティア族やマクスウェル達に近いものがある。パペティア族にとっては得意分野というか。工房も感情表現や感覚再現の技術を積んできたので、まあ、中々良い器を用意することができるのではないだろうか。
それに……コルゴティオ族にとっては、行動するに当たって魔力の節約にもなる。
器に魔石を組み込んでそれによって環境魔力を取り込む予定だからな。魔物種族と同じように環境から活動のための魔力を取り込みやすくなる、というわけだ。
元素魔法も用いるので、それらを格納するスペースも設ける、と。器に隕石も組み込んでやれば、元素魔法で空を飛ぶのも容易になるだろう。
後は工房やカーラの保有する表情技術、造形技術を投入していくことで、感情表現と連動させてコミュニケーションをしやすくする、というところか。
器も言ってしまえばスレイブユニットと同じだからな。まあ、スレイブユニットは基本的には本体が別にあって遠隔操作だから、実際に内部に入って動かす形式になる予定のコルゴティオ族の器とは少し違ってくるが。
まあ、コルゴティオ族の希望を聞きつつ、どんな器が良いか考えていこう。頭身にしても背丈を高くするとか、逆に小さくして可愛い感じにするとか、色々あるからな。個人的な好みを反映すればいいから統一する必要もないだろう。ある程度感情表現が分かりやすくなるのなら、地底王国ドルトエルムの民のように器物系の姿も有りだと思う。
その辺の事を聞いてみると、迎えてもらったことが嬉しかったので俺達と似た姿が良い、とのことだ。人に近い姿での造形ということで、カーラは更に張り切っていたりする。
「ふふ。良い器になると良いですね。私達としても楽しみにしています」
オーレリア女王が言うと、ティエーラも微笑んで静かに頷く。小さな精霊達もそれに合わせるようにうんうんと頷いていた。
月の民や精霊達もコルゴティオ族を歓迎しているというわけだ。ちなみに、コルゴティオ族は顕現していない精霊達の感知もできるようで。
思念体であるが故に、似た部分のある精霊達の感知もできるようだ。嬉しそうに手を振る小さな精霊達と、それに手を振るのを真似るように火花を瞬かせて答えるコルゴティオ族であった。
――そうして、魔力の異常がないことなどを観測と精霊達の反応を見て最終確認し、俺達は島での滞在を終えてコルゴティオ族も連れて島を出発したのであった。
まずはグロウフォニカの王都へ向かってデメトリオ王達を送っていき、そこからヴェルドガル王国へ帰るわけだ。オーレリア女王も浮遊城と共に移動するので快速船、シリウス号、浮遊城が共に凱旋することになるから結構派手なことになりそうではあるが。
ヴェルドガルに到着したら、改めて飛べない鳥人族の面々を転送魔法陣でフォレスタニアに招待する予定だ。それはそれとして、鳥人族達は俺達の出発を浜辺までやってきて踊りで見送ってくれたが。
ティールも甲板から大きくフリッパーを振ったり、コルゴティオ族も少し寂しそうに明滅していたり……みんな名残を惜しんでいる様子であった。
まあ、ヴェルドガルに到着したらまたすぐに会えるがこうやって温かく見送ってくれるとな。
島の作物の手入れ等もあるので、あまりみんなで長期間は留守にできないということだ。だからヴェルドガルに到着してから改めて転送魔法陣で迎えに行くといった感じだ。1日、2日ぐらいなら留守にしている間、ティアーズやゴーレム達が見る分には問題ないので。
コルゴティオ族と鳥人族の歓迎の宴も控えているが……ヴィタールの記憶結晶もかなり優先度の高い案件だ。生物や魔物の情報記録が収められているものなので、手に入れたからとおいそれと悪用できるような品ではないが、それでも錬金術等を駆使すれば不可能ではない……と思う。
しっかり守れる場所に安置しなければな。ヴィタールとの約束を考えるならば……迷宮内にヴィタールの星の生物群を再現する区画を用意するのも良いのかも知れない。少し代謝等をルーンガルドの環境に合わせるべく調整する必要があるかも知れない。
そんな話を、艦橋でみんなにも伝える。
「――というわけで、迷宮内部にそんな感じの区画を作ろうと思うんだけれど」
「良いと思います。新たな可能性を迎えられるのは喜ばしいことです」
「きっと、ヴィタールも喜ぶのではないかしらね」
ティエーラとクラウディアはそんな風に言って賛成してくれた。
「ヴィタールやその分体は、戦いに向いた生き物や魔物の部位を用いていたようではありますが」
「平和な生き物や綺麗な花みたいなものも見てみたいですね」
「ん。興味ある」
グレイスとエレナがそう言うとシーラが応じ、マルレーンやイルムヒルトもうんうんと頷く。
「私と戦ったあの銀の獣もまた見てみたいとは思うわ」
「確かに、綺麗な生き物でしたね」
オーレリア女王の言葉に、アシュレイが思い返しながら頷いていた。
「強い魔物は区画の守護者――というか警備役にするのが良いかも知れませんね。基本的には戦闘ではなく見学ができるような区画にして、そんな風に案内する、と」
俺もオーレリア女王の意見を首肯する。資源調達や戦闘訓練を目的するというよりは……そうだな。保護区という方が正しい、だろうか。
普通の迷宮区画と同じようにしてしまうと、魔物や環境として配置した植物ばかりしか見られなくなってしまうし。俺としてもできるだけ色々な生き物を見てみたいというのはある。同一区画内に複数のドームを作って、内部の環境を更に分ける……うん。そんな感じのコンセプトで区画を作ってみるか。
迷宮が生成した生き物なら、本来肉食動物や魔物でも攻撃してこないという設定にもできるしな。
「ふっふ。戦闘等のことを心配しなくて良いというのであれば、出来上がったら見に行ってみたいものだな」
「そうですね。別の星の生き物なので上手く構築できるかは分かりませんが、出来上がったら是非」
と、デメトリオ王にそう言って笑う。そんな調子で新区画の話をしながらも、俺達は帰路を進んで行ったのであった。