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番外1982 捕食者の影

 思念体達は、ルーンガルドに受け入れられた事に感動している様子で、周囲に魔力を放射していた。強く温かな波長で……余程感情が動かされたのだと思う。


『この星で……共に生きていっても良いのか?』

「はい。基本的にはそれぞれの国の定める法律を守ってくれれば問題はないかと。そこを守ってもらえるならば、僕もあなた方を守るために動けます」


 勿論、他の国と共存し得る国の、という前提が付く。法律や国といった概念も説明すると理解してもらえたようだ。


『問題ない。我々の中にも守るべき決まりというのはある』

『法を守ると約束しよう』

『同じく。我らにとって、決まり事や交わした約束というのは重いものだ』

『同じく、約束する』


 と、瞬いて答える思念体達。

 仲間を傷つけない、緊急事態においてはリーダーの判断に従う等のルールがあるそうで、逃亡の中で団結していった事が窺えるな。それだけに、決めたルールも重いものなのだろう。


 考えてみればルーンガルドの精霊達は宇宙を彷徨してきて、ルーンガルドを形成したティエーラの影響下で生まれた者達だしな。その精霊達がティエーラと同種や子という事になるのなら、宇宙からやってきた思念体達は、ティエーラとは別の方向に発展した種族という可能性もあり得るか。


 だとすると、約束や契約というのは重いものというのも頷けるが。いずれにせよ嘘を吐けない中での約束ごとだ。思念体達の種族的な性格や特性を考えても安全そうな様子なので、断りを入れ結界を解いて隕石をシリウス号の甲板に移す。


 未知の素材でできた隕石だが――これらは彼らの生まれ故郷には無数に漂っていたものということだ。小惑星帯のような、岩石が漂う宙域で生じた種族ということだろうか。


 ともかく、彼らはこの隕石に宿ることができて、それに乗って宇宙を長い時間かけて移動してきたというわけだ。

 だからまあ、この隕石については彼らが活用すべきだろう。


 見た目は鈍色の金属光沢を持つ……不思議な鉱物といった印象だな。

 彼らが最も扱い慣れている素材とも言えるし、俺らにとっての手や触覚が周囲に散る火花のようなものだ。それ自体は良いのだが、交流する時に普通の生き物は少し危ないような気もする。


 望むのであれば彼らが地上で活動しやすく、安全に交流できるような器を作るのに使うのが良いのではないかという気もする。


 まあ、隕石の扱いについては彼らに後で提案してみるとして。今は追跡者に関する話をしていこう。


 どんな遭遇のし方をしたのか。どんな姿をしていて、どういう性質を持っているのか。交戦はしたのか。戦闘能力は。弱点のようなものはあるのか。

 知っていること、気付いたこと。何でも良いので教えて欲しいと伝えると、彼らも静かに瞬き、教えてくれる。


『あれは彗星と共に外からやってきた』

『そう。最初は小さかった』


 最初の経緯を知る生存者もいる、と。


『最初に見た姿は――輪郭は半透明で不定形だった』

『内部に小さな黒い球体。紫色の光が走っていた。解析しようとした仲間が、不用意に近付いた結果、取り込まれてしまった』


 仲間は苦悶の悲鳴を上げていたという。彼らにとっては、初めての外敵だったわけだ。


『あれは捕食と同時に姿を変え……助けようとした我らを妨げた。変形したのか、元の姿に戻ったのか、それとも決まった形など最初からないのか。それは分からない』

『だから、本当はどんな姿をしているのか。そして本質的な部分での性質は不明。力の増大と共に分体を作り出したが、無力化した相手を捕食していたのは常に本体だ』

『故に、あれは一個体だと推測される』


 思念体達が教えてくれる。

 一個体、か。無限増殖するような性質の悪さがないのは幸運と言える。宇宙人のような文明を有する存在というよりは、宇宙生物といった印象ではあるが。


 抗いはしたが突然の遭遇に彼らは後手に回り、仲間達の犠牲が増えたために一族を連れて生まれ故郷を脱出する決意をしたそうだ。


 彼らの暮らしていた岩石塊――つまりこの飛来してきた隕石に宿り、操作することでその場から離れたわけだ。

 しかし、それもまた追ってきた。隕石を操作する力は思念体達の模倣か。最初はいくつもの隕石に乗って逃げていたらしいが追いつかれたものから食われていった。

 逃亡生活の中で抗うための方法を模索し、宇宙を進む中で元素を入手して利用法を模索して、研鑽もされていったが生来の捕食者との戦力差を埋めるには至らなかった。


『途中で、我らは二手に分かれて逃げたのだ。敵が単身である以上、どちらかが逃げ延びられれば望みは繋がると。そして、奴は我らを追ってきた』

「それは――」


 辛い役回りを引き受けた形だな。

 相手を倒すために小惑星に立ち寄り、元素を回収。逃げながら研究を続けて新たな戦い方を研究して望みを繋ぐ。

 だが、一つ一つ隕石は制圧されていき……残ったのが彼らというわけだ。

 しかし、魔力と元素を求めて星に降りたというのは、隕石が残り一つとなっても抵抗を諦めていないという事でもある。


『貴方は我らを守り交渉してくれるといったが……戦いになるならば、共に戦わせて欲しい』

『そうだ。あれは我らにとっての敵。引き連れてきてしまった上に、戦いまで委ねる等……今まで命を賭して望みを繋いできた仲間達に申し訳がない』


 思念体達が強く発光しながら言った。強い感情は魔力の波長に現れるのか、凛とした魔力で戦意や決意めいたものが感じられる。


「……分かりました。準備する時間はあまりありませんが、分体の方はお願いします。捕食能力を持つ本体には、最大戦力をぶつけるのが正解かと思いますので」

『む……。心苦しくはあるが、承知した』


 俺達が追跡者の捕食対象になるかはわからないが、少なくとも思念体達は捕食者本体に近付くのは危険だろう。取り込まれると魔力が増すという話からして、逆に相手に力を与えてしまう結果になりかねない。

 隠形の符などで感知をできなくしておいた上で、交渉が決裂した場合に現れてもらって共に戦うという形が良いのではないだろうか。


 時間が十分にあるなら捕食対策を施した器を用意して鎧とするところではあるけれどな。今から対策装備を身に着けるとなっても準備する時間も習熟する時間も足りない。彼ら自身が研鑽してきた方法で協力してもらおう。


 戦いの様子やどんな攻撃手段を用いたのか。どんな攻撃が有効だったか。逆に効果が無かったものは。そう言った部分も調べておく。


 しかしまあ、宇宙空間を旅する生き物だ。少なくとも低温、真空に対しては耐性があるだろう。変身するという話からして、物理的な斬撃、衝撃にも強そうに思える。思念体達が電気を散らしていることからも、電撃の効果もあまりなさそうだ。


 高熱にどこまで耐えるかは……分からないな。

 宇宙空間で太陽光が直接当たると100度以上になるなんて話は聞いたこともあるが、それも熱源である恒星の規模や距離によって大きく変わるだろうし。


 となると、攻撃方法も色々限定されてくるか。純粋な魔力による攻撃や呪法は通用するとは思う。光の術式による浄化と闇の術式による呪詛も……恐らくは一定の効果もあるだろうが、これは相手の在り方に依存する。邪に属する存在に対しては聖なる力や浄化の力は効果が高い。逆もまた然りで、聖なる存在や清浄な存在に呪詛はかなり効く。


 正邪と関係のない捕食目的の生物は……まあ中庸だな。


 実体のある身体自体は持っているようだから水魔法系統の術……強酸、強アルカリに毒だとか、地魔法の石化等々は……どうだろうか。試してみるまで分からないものが多い。中々対処に悩む部分が多いな。酸素のある環境に適応していないなら酸素が猛毒扱いで手っ取り早いのだが。


 まあ……思念体達からの話も聞いて効果の有無を切り分けていこう。最初から分かっていた方が無駄な攻撃をしなくて済む。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >今は追跡者に関する話をしていこう。 思念体達(目の前の個体は何故、捕食者の話を聞く度に笑顔になるのだろう?)
[良い点] 獣・ゼットンフィールドやん、怖っ
[一言] >酸素のある環境に適応していないなら酸素が猛毒扱いで手っ取り早いのだが 某刑務所内みたいに高濃度酸素を……(いや、あれは神父の時間加速もあっての事ですが)
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