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番外1977 歌声と共に

 やがて諸々の準備も終わり、ログハウスの前の広場に料理が並べられて宴の用意が整う。


「駆けつけてきて下さった皆様への感謝と歓迎の意をお伝えすべく、ささやかながら宴の席を用意いたしました。楽しんで行っていただけたら幸いです」


 ポルケーがそう言って深々と一礼する。みんなが拍手で応じると、ポルケーが顔を上げ、機嫌が良さそうに冠羽を反応させながら後ろに控えている面々に視線を向けた。

 一段高くなった舞台の上には鳥人族達の姿。その鳥人族達の中の一人が少し前に出て、翼状の両手を広げるような仕草を見せたかと思うと、歌声を響かせた。

 澄んだ歌声が広がっていく。代表して最初に歌うあたり、鳥人族の中でも屈指の実力なのだと思う。冠羽が小さいから、鳥人族の歌姫ということになるのかな。


 音域が広く技巧も豊かで……聞き惚れるというか、見事なものだ。

 神秘的な印象の曲調だが、海原に沈む太陽の美しさだとか日々の恵みへの感謝を歌った内容だった。歌姫のソロパートが終わると、鳥人達が一斉に動き出す。


 右に左に動いて踊りながら、コーラスを響かせる。曲調が一気に陽気な内容になった。

 楽器を使っていないのだが、鳥人達はとにかく音域が広く、アカペラなのに複雑な演奏しているかのように聞こえる。歌詞を歌っているパートとバックコーラスのパートに明確に分かれているが、その音域の広さ故だろう。


 それに合わせてくるくると回り、右に左にステップを踏んでは入れ替わり、翼手や冠羽、尾羽を振って楽しそうなダンスを披露してくれる。


 これは見事というか。歌と踊りが生活や文化と密接に繋がっているからこそというか。


 そうして一曲が終わると共にみんなから大きな拍手と歓声が起こり、料理が目の前に運ばれてきた。


「ふふ。ありがとうございます」


 グレイスが微笑んでお礼を言うと、鳥人族達も嬉しそうにステップを踏みながら戻っていく。


 料理の方はどうかと言えば……食材は初めて食べるものが多くて中々興味深い。芋は……ジャガイモに近いだろうか。あまり癖がなくて食べやすいな。キノコは肉厚で香りよりも旨味が強い印象だ。そのお陰でスープの味も良い。


 赤い果実は――見た目がサクランボに似ているかな。大きさや食感もそれに近いが、華やかな香りがあって……甘さは控えめだがすっきりとしている。

 ああ。鳥人族達からの香りもこれだな。

 飛べない鳥人族達は割と良い香りがしていたが、食生活に根付いたものらしい。


「私達は夕陽の実と呼んでいるんですよ」


 鳥人族達が果実の名前を教えてくれる。確かに、丸くて赤い果実は夕陽にも似ているな。

 陽気な曲調の歌と踊り、島固有の食材を楽しませてもらう。魚介類は固有種というわけではないが、新鮮な焼き魚や焼き貝は美味だった。

 鳥人族達は魚介類を食べないが、味付け等々は漂着した王女の考案したレシピをそのまま守り継いでいるのだとか。


「ん。王女様は素晴らしい人」


 その話を聞いたシーラがうんうんと頷いていたりするが。


 鳥人族達の歌もグロウフォニカの王女が漂着してきた時の内容を歌っていたりするな。流れ着いてきて友人になったこと。言葉が通じるようになり、色々なことを教え合ったこと。狼煙で発見されて、王女が島を出ていった時の事。それから続くグロウフォニカ王国との絆のこと。


 そうした内容を歌と踊りで教えてくれた。

 歌の内容から察するに、王女と鳥人族の暮らしは……中々楽しいものだったようだ。お互いを敬っていて、良い関係だったというのは間違いない。


 デメトリオ王から聞いた話では王女が帰ってきてからも友誼が続いたというところまでだが、王女も結婚して子供が生まれてからも島に遊びに来たりしていたらしい。


「ですから、皆さんのお子とお会いできたというのは私達としても嬉しいです。外の方々の小さな子とお会いできるというのは、島で暮らしていると余り機会がないものですので」

「確かに。ある程度育っていないと外に出る事にも不安がありますからね」


 オリヴィア達を見て楽しそうにしているポルケーと、そんな会話を交わす。


 赤ん坊と呼べる年齢の子供と会うのは初めてということで、鳥人族達も興味津々と言った様子だ。踊ったりして子供達をあやしてくれて。そんな様子に子供達も嬉しそうに笑い、それを見た鳥人族達もまた嬉しそうに冠羽や尾羽を反応させてステップを踏むといった具合だな。


 そんな調子で食事を楽しみながらも鳥人族達の歌や踊りを楽しませてもらう。鳥人族の歌は生活に根差したものや、歴史に関するものが多い。

 嵐が近付いてきた時に見回りに来ていたグロウフォニカの騎士団が島に泊っていった話だとか、グロウフォニカとの絆を積み重ねてきた話等も歌で聴くことが出来て、中々に興味深い。


「その時は彼らが嵐の到来をいち早く察知し、泊っていくようにと薦めたという記録が残っているな。騎士達を守ってくれたとも言えるだろう」


 デメトリオ王が教えてくれる。なるほど。船員とて、そういう天候を予想したりというのは専門分野だとは思うのだが、鳥人族はそういう部分は得意分野だったりするのかも知れないな。


 そうして、鳥人族達の歌に拍手を送り、それらが一段落したところで俺達からも文化交流のために歌や演奏の準備をしてきたと伝える。


「文化交流と、返礼も兼ねて歌や演奏を楽しんで頂けたら嬉しく思います。楽器や楽譜も贈り物として持ってきました」

「おお……! それは何とも素晴らしい事です……!」


 踊りながら応じるポルケーと鳥人族達である。そんなわけでイルムヒルト、ドミニクとユスティアが舞台上に向かい、歌と演奏を披露する。


 イルムヒルト達は普段の劇場の公演で披露している内容を鳥人族達に聴かせていく。イルムヒルト達の技量や歌声の美しさに、これまでの反応の中でも最大の盛り上がりを見せているように思う。


 リズムを覚えるように身体を揺らして熱心に聴き入る鳥人族達である。そうしてイルムヒルト達の演奏が終わると、鳥人達は大きな拍手喝采とステップを以って応じていた。喝采の方が旋律になっていたりして、それだけでも割と聴き応えがあるような気がするな。


 演奏もそうだが、その後に渡した楽譜や楽器もかなり喜んでもらえた。

 早速楽器に触れたり、楽譜に目を通している鳥人族達である。グロウフォニカの面々との交流があるから、楽譜を読むこともできるようで。

 歌を口ずさんだり、演奏に当たる部分を歌声で再現して見せたりと、本当に音楽が好きな面々というのが分かる。


 そうしてクラウディアやマルレーンのリュート演奏に合わせてみんなで一緒に歌を歌ったりと、交流の時間を過ごさせてもらったのであった。




 そうやって鳥人族達と交流の時間をとりつつ、隕石飛来の状況を確認したり、転送魔法陣を敷設したりといった準備を進めていく。


 避難中の食事の問題が万全なものになるよう、こちらの持ってきた食材を食べてもらって経過観察をするといった協力もしてもらったが……まあ、草食性が強い事以外は大きな問題もないようだ。

 アレルギー反応や予期しない中毒症状等が起こらないよう、他の鳥人族やハーピーが好む豆や穀物、野菜、果実を食材として持ってきたけれど、これに関しては正解だったようで。クリアブラッドも使わずに対応できたのは何よりだ。


 一先ずは避難訓練を進めつつ、島に滞在して隕石の飛来を待つ形になるな。きっちりと隕石の飛来から鳥人族達を守れるよう、気合を入れて臨むとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤い果実は見た目がざくろに似ているかな。大きさや食感もそれに近いが、華やかな香りがあって……甘さはくどく汁がプシャーとなり地獄絵図している
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