番外1975 鳥人族の協力は
「――僕達が住んでいる地上から離れ、上空へと上がっていくと、そこは月や大小様々な星々が浮かぶ虚無の海と呼ばれる場所になります」
同行してきたみんなや鳥人族が見守る中、マルレーンのランタンを借りて集会所の広間に手、幻影を映し出していく。
ルーンガルド――鳥人族の住まう島々を映し出し、そこから上空へと幻影や縮尺を広げていきながらの説明だ。
「おお。流石は境界公。天文にも通じておられるのですな」
ハウゼルがその幻影や説明にうんうんと頷く。まあ、景久の知識も多分にあるのだが。
「無数の星々があるのですが……その内の小さな欠片のようなものが、時折飛来してくることがある、というわけですね。殆どの星の欠片――隕石は地上に到達する前に燃え尽きてしまうのですが、稀にある程度の大きさを持つものは、燃え尽きる前に地上に到達することがある、というわけです」
というわけで、月の天文官の観測に引っかかった、大小二つの隕石のモデルを宇宙空間に映し出す。ハウゼルに視線を向けると頷いて俺からの説明を引き継いでくれた。
「我々が探知した隕石は二つ。ほぼ同じ軌道で飛んできておりますが、二つとも大きさからして燃え尽きず、時間をずらしながらも大体同じ場所に落ちると見られております。それが――」
「私達の住むこの島々の近辺、というわけですか」
ポルケーの言葉に頷く。冠羽を畳んで小さくステップを踏んでいる鳥人族もいるな。これは……不安の感情表現だったりするのかな。
ともあれ、隕石の概要は説明できたので、今度はそこからの対処の仕方だ。
「僕達の考えた今回の対策としては――落下が予想される周辺範囲に結界を展開することで島や海面への衝突で生じる影響を無くそうというものですね」
シリウス号や浮遊城のモデル、俺達のモデルを映し出しつつ光の壁を展開して飛来する隕石を受け止めるイメージ映像を見せていく。
「おお……」
「そんなこともできるのですか。魔法というのは凄いものですなあ」
鳥人族の冠羽がぴょこぴょこと立ったりして、リアクションとしては分かりやすい。
「僕達としては可能な手段を講じる上で今話した対策を実行する許可を頂きたい、という事と合わせ、飛来する予定時刻に浮遊城か飛行船に避難していただければ、と思っています。万全を期すつもりとはいっても不測の事態というのは有り得ますから」
合わせて、島での住環境、食生活を支えている植物、キノコといった種の保全も提案する。
別の場所にて栽培することで、島の環境に変化があったとしても安心、というわけだな。もし仮に環境の変化で果実や芋、キノコといった種にダメージがあった場合は、短期的には代替品で食を繋ぐ、という事も出来るとは思うが。
どうであれ、昔ながらの暮らしを維持したいというのも自然な感情だろうし。
対策の許可と、作戦時の避難、保全といった頼みについて伝えると、ポルケー達は顔を見合わせて頷く。
「そうですな。大まかな内容は先触れの方々より既に窺っております。私達もどうすべきか話し合っておりました」
「改めてこうして丁寧に説明していただき、細かい部分まで考えてくれているということが分かり、嬉しく思っていますよ」
そう言ってから、ポルケーが一呼吸置いて言葉を続けた。
「私達は全面的に協力するとお約束します。どうか、私達を助けて頂きたく思います」
そう言って、お辞儀をする鳥人族達。……そうか。良かった。
「分かりました。全力を尽くすとお約束致します」
これで作業に移ることができるな。と言っても、今回は結界線を構築するという類のものではない。住環境、食生活に関わるような植物の保全だとか、島々に住む鳥人族の人口把握と名簿作成を始め、避難の準備を進めていく形となるな。
さて。隕石の飛来に関しては、時間の経過につれて落下予測範囲が更に狭まっている。今も月面の天文官達が観測と計算を続けており、その精度を高めてくれているが……現状では「一番大きな島に落下する可能性が高い」とのことで。
「そうなると、確実に止めないといけませんね」
「そうですな……。仮に直撃すれば鳥人族の皆様の暮らしにも大きな影響が出ましょう」
ハウゼルが真剣な表情で頷く。
隕石の被害は局地的且つ限定的。とはいえ飛べない鳥人族にとっては大きな被害となる。最初の大きな隕石がまともに直撃すれば、島に大きなクレーターができるという予想が天文官達から示唆された。
大気圏突入後の飛散による被害範囲の拡大を防ぎつつ、中央の主島に陣取って結界壁を展開する形になるな。不測の事態は付き物なので、予測を立てつつ対策し、最終局面でも臨機応変に動けるように心構えだけはしておく、という方向で考えておこう。
さて。そんなわけで隕石の飛来まで、やれることを進めていくこととなる。
まずは飛べない鳥人族の住環境、食生活の保全ということで、島固有の植物を少しずつ貰って、転送魔法陣で植物園に送るということになるな。
『送られてきた植物の保護は任せてね』
『フローリア様やフォルセト様と一緒に、僕達できちんと保護しておきます……!』
フローリアやシオン達が水晶板の向こうで微笑み、フォルセト、マルセスカやシグリッタ、植物園のノーブルリーフや花妖精達がその背後で同意するように頷いたり、サムズアップをしていたりしていた。うむ。
また、今回はキノコもあるということでファンゴノイド族にも協力を依頼している。植物園にボルケオール達もやってきているな。
ポルケー達の案内を受けて、住居用の建材として使っている植物、果実をつける木。芋やキノコといった固有種をそれぞれ傷つけないように何株かを慎重に採取し、転送魔法陣にてタームウィルズへと送る。
こっちの気温や湿度といったデータも向こうに送っているので、アルバートがその条件を魔道具で再現してくれている。経過を見ておく必要はあるが、俺達がすべきことは一先ずこれで良い。
それから、住民達の避難に必要なデータ収集だな。どの島にどれぐらいの内訳で人が住んでいるのか。外の食べ物を食べられるのかといった事前の情報収集は必要だ。避難を余儀なくされた場合に短期的な食事をどうするのか、という問題は考えておく必要があるからな。
血析鏡やクリアブラッドの魔道具も用意してきているし……異文化交流を兼ねて外の食事をとってもらい、栄養補給等々に問題がないかを調べるというのは大事なことだろう。
そんなわけでシリウス号と浮遊城で島々を巡り、人口を調べた上で名簿を作る。これにより、隕石飛来の当日は一度全員で島から離れることができる体制で待ち受けるという形になるな。
「はい。それじゃあ、一列5人までで並んでくださいね」
シャルロッテが楽しそうに鳥人族の雛――子供達の点呼をしている。鳥人族の雛達は大人のそれよりもこもことしたボリュームのある羽毛が全身を覆っていて、元々丸いシルエットが更に丸みを帯びている姿だ。そんな姿に、シャルロッテとしてもにこにこしているな。
名簿作りをする過程で島に住む鳥人族みんなと顔を合わせたが、冠羽が目立つのは男性陣、逆に冠羽が小さいのは女性陣のようだ。その代わり女性陣は花の髪飾りや貝殻の首飾りを身に着けていたりするな。
歌や踊りが好きなのは子供の頃から同じなのか、機嫌が良さそうにステップを刻んだり歌声を響かせる子もいて、中々に賑やかな光景だ。
食料の蓄えもそこそこあるようで、果実をジャムにしたりキノコを塩漬けにしたりして長期保存可能な状態にしているので、短期的な食糧問題も一先ずは問題無さそうに思う。