番外1974 島に住む鳥達は
「これはデメトリオ陛下」
グロウフォニカの快速船の甲板に姿を見せたのはデメトリオ王だった。グロウフォニカもデメトリオ王が直接来訪か。鳥人族に関しては王家との友誼だからか、重要視しているというのが分かるな。
「うむ。此度の事件、よろしく頼む。彼らの事を助けてやって欲しい」
デメトリオ王とも挨拶を交わし、快速船に乗り込んで島まで移動していく。海は透き通っていて、陽光を浴びてエメラルドグリーンに輝き、とても綺麗だ。色とりどりの魚に珊瑚礁。白い砂浜に生える椰子の木。暖かな洋上の島々といった感じだな。
鳥人族の島々は、比較的大きな島が4つあって、鳥人族は主にそこに住んでいるというわけだ。島々の周辺は海流も穏やかで、島同士の距離も離れていないから、主要な島の間は筏でも泳ぎでも移動できるそうである。
「干潮の時は島々が繋がる場所もあってな。歩いて移動する事が可能になる部分もある」
「なるほど。島周辺は浅瀬が多いのですね」
デメトリオ王から島の話を聞きつつ移動する。最終的に島に向かうには喫水の深い船ではなく、小舟に移る必要がある、というわけだ。避難にしろ準備にしろ、シリウス号や浮遊城があれば色々と捗るだろう。
しかし、そうなると尚更島周辺の地形が大事だな。隕石が島に直撃しないからと言って、海底地形が崩れたら生活様式に影響が出てしまうこともあり得るだろう。
そうして、浅瀬まで近づいたところで快速船が停泊し、いくつかの小舟に乗り込んで、一番大きな島へと移動していく。
島々はどこも豊かな緑が生い茂っており、中でも主島は結構な大きさがある。中央部は丘というか山というか、小高い場所もあるようだ。原生林に近い印象だが、鳥人族は島の森の中で暮らしているという事なのだろう。
そんな鳥人族達だが――俺達の来訪を歓迎してくれているのだろう。先行しているグロウフォニカの武官達と共に、浜辺に出てきているのが見て取れた。
遠目には丸いシルエットだが……結構大きな身体をしている。子供の腰ぐらいの身長があるだろうか? 鸚鵡のような姿をしていて……うん。飛べない鳥から色々想像していたが、要するにカカポに近い。
色合いは黄色や緑を基調としているが、冠羽の色と形が様々で、見た目がバリエーション豊富で賑やかというか結構派手かも知れないな。
しかし、これは……この見た目で性質が極めて温厚かつ平和的で友好的というのは、グロウフォニカの王女が心配したり、王家が保護に動くというのも分かる気がする。獣人族達は闘気が使える場合が多いが、エインフェウスで言うならどう見ても非戦闘員型の氏族だしな。
「何と言いますか、可愛らしい見た目ですね」
アシュレイが微笑むと、マルレーンもにこにこしながらこくこくと頷いていた。シャルロッテもそんな鳥人族の姿を見てそわそわしていたりするな。
やがて俺達を乗せた船が浜辺に到着する。
「お待ちしていました。私は族長のポルケーと申します」
ポルケーと名乗った鳥人族の族長が、騎士がするようなお辞儀をして、後ろに控えている面々もそれぞれ騎士がするような一礼やカーテシーに似た動きを見せる。
翼の部分がかなり器用に動くようで、関節の可動域が広いわけだ。羽毛に包まれているが指のような構造もあって、見た目がかなり鳥に近くとも鳥人族の一氏族だということが分かる。
騎士風だったり、カーテシー風だったりの挨拶というのは、こちらの流儀に合わせたものかも知れない。遭難したグロウフォニカの姫が伝えたか、警備の武官達と交流している内に覚えたという事なのだろう。
俺達も自己紹介をしていく。
「いきなりのお話で不安に思われている面もあるかと思いますが、しっかりと説明し、怪我人や不都合がでないように努めていきたいと思っております。どうかよろしくお願い致します」
俺も名前や肩書きを名乗った後、そう言って一礼する。
「高名な魔術師とお聞きしてどんな方かと思っておりましたが、お優しそうな方で良かった。デメトリオ陛下も、私達の為にありがとうございます」
「ふふ。そなた達が平穏であれば余としても嬉しいからな。此度の一件であまり余にできることはないが、これぐらいのことはさせて欲しい」
デメトリオ王が表情を緩めて応じる。
みんなの自己紹介に対しても、鳥人族はフレンドリーながらも肩書きそのものに関してはそれほど動じた所がない感じだ。王族とか、そういう概念は希薄なのだと思われる。
ただ、月の民の出身地については驚いていたが。
「だから遠くに見える空を飛ぶ船が必要なのですね……!」
と、身振り手振りを交えながら盛り上がっている様子の鳥人族達である。また、ティールに関しては同じ飛べない鳥ということで親近感があるのか、興味津々と言った様子であるが。ティールがフリッパーをパタパタとさせて翻訳の魔道具で挨拶をすると、鳥人達も「よろしくお願いします」と羽を右に左に動かしてフレンドリーに挨拶をしていた。
ラヴィーネやアルファ、リンドブルム、コルリス、アンバーといった動物組に対しても友好的だな。
「ささ、こちらへどうぞ」
ポルケーは島の奥へと案内してくれる。
森へと入っていくわけだが……道が舗装されているな。平らな石が敷き詰められていて森の奥へと続いている。簡素だが下枝もきちんと払ってあるし、躓かないように細やかに整備されていて丁寧な仕事ぶりで歩きやすい。
「この道は皆さんが?」
「そうです。私どもは森の小道でも不都合はないのですが、姫様やグロウフォニカの皆さんには不便なようですので」
「なるほど。歩きやすくて良いですね」
「そう言って頂けると皆も喜びましょう」
ポルケーはそう答えながらも思わずといった感じで冠羽を動かしながらステップを踏んでいる。感情表現が踊りに直結している感じだろうか。
そうしてポルケー達の案内で森の奥に進んでいくと……そこには鳥人族の村があった。
森と一体化しているような印象だな。木組みの家と葉っぱの屋根。暖かく自前で羽毛を持っているからこその住居という感じだが、そんな中で。
ログハウスといった感じの、毛色の違う色の家が一軒だけある。これは外からの客を迎えるために鳥人族とグロウフォニカが合同で建設したものということだ。
まあ、グロウフォニカの臣民であり、王家の直轄地にして保護対象という扱いだからグロウフォニカの面々は客というか同胞ということになるのだろうけれど。
ともあれ、ログハウスは迎賓館兼、集会所兼、共同浴場といった使われ方をしているらしい。風呂の文化もグロウフォニカの王女が持ち込んだもので、水浴びはしても温水でという文化は島にはなかったそうだ。
飲み水や生活用水については湧き水や果実等から補えるそうだが、今はグロウフォニカ製の魔道具も使っているとのことで。そのお陰で湧き水のない他の島での暮らしも便利になっているからグロウフォニカには感謝していると、ステップを踏みながら鳥人族が教えてくれた。
俺達が滞在するにあたり、ログハウスは自由にしていいとのことだ。裏手の大浴場については共同という話らしいが、内風呂もあるそうな。
まあ、事前に説明を受けていた内容から予測していたことではあるが、好意的に受け入れてもらえた。まずは集会所にて、隕石やその落ちてくる時期と範囲。予想される被害と対処の方法についてしっかりと説明をしていくことから始めよう。彼らの信頼にきっちり応えてやりたいところだな。