番外1973 鳥人族の島へ
隕石対策の魔道具、魔法生物に用いる術式を組み、アルバートと話し合ったり、月の民の天文官と連絡を取って隕石の規模や速度を推測し、その情報から実際に受け止め、魔力を消費し切るためのシミュレーションを仮想空間で行ったりした。
同時に日常の執務や仕事をこなしつつ旅の準備を整え、飛べない鳥人族の文化について学ぶなどといった日々を過ごしていると、デメトリオ王から連絡が入る。
『鳥人族への連絡もついた。初めての事で戸惑っているようではあるが、来訪も歓迎するとのことだ』
「ありがとうございます。一先ずは安心しました」
鳥人族、しかも歌や踊りを重視している文化があるということで、ドミニクやユスティアが信頼関係の構築や交流のために力を貸してくれるということになっている。
ティールも会えるのを楽しみにしているし、シャルロッテも気になっているようで。
まあ、ほとんど外部との接点がないだけで、平和で友好的な性格の一族のようだしな。俺としても会えるのが楽しみだ。
「今回の島への移動手段は、シリウス号を予定しています」
『月の民も合わせて浮遊城――月の船でやってくるのであったな。我らも、快速船で先行して島民達と共に到着を待たせてもらおう』
シリウス号にしろベリオンドーラにしろ、結界を構築する足掛かりとしてもいいし、鳥人族を一時的な避難させるのにも使える。
隕石に対応するに当たって、空中を移動させられる足場兼拠点があるというのは便利だからな。
しかし、ベリオンドーラか。月の民に返却されても城自体には歴史的な価値があるということで保全されたからな。イシュトルムに手を加えられてしまった部分の修繕、月と地上の間で運用する上で利便性も含めてなるべく元の形を残しつつも改修もしているとのことだが、その辺どうなっているのか気になるところだ。
現地で合流してから時間的には余裕があるから、鳥人族との交流も兼ねて少し浮遊城内部を見て回るぐらいの時間は取れるかも知れない。
「当日はよろしくお願いします」
『うむ。余にできることは少ないが協力は惜しまぬ故、どうか彼らを守ってやって欲しい』
「はい。力を尽くすとお約束します」
そういったやり取りを交わし、通信室でのデメトリオ王との通信を切り上げる。
「隕石の対応は大変ですが鳥人族に会えるのは楽しみですね」
グレイスが微笑む。
「うん。前から会ってみたい人達でもあったからね。平和的な種族だって言うし」
そう言うと、みんなもうんうんと頷いていた。
「浮遊城についても気になるな」
「私達もあの場所でそれなりの時間を過ごしておりますからな」
というのはテスディロスとウィンベルグだ。
そうだな。浮遊城ベリオンドーラを拠点にしていた氏族は……イシュトルムのせいでもうテスディロスとウィンベルグしか残っていない。
二人にとってはヴァルロスやイシュトルムの記憶が残る場所でもあり、良い事も悪い事もあったから心中複雑な思いも抱いているのだろうが、それでも今の自身を見つめ直すという意味では浮遊城への訪問は意味のあるものになるのではないだろうか。
そうして……準備を進めていき、西に向かう当日がやってくる。
ジョサイア王やフラヴィア王妃も、造船所に見送りに来てくれた。
「国内の協力体制を整え、周知するぐらいしか出来る事はなかったが、留守の間は任せて欲しい。何かあったら連絡もしよう」
「それと……歌や踊りの好きな方々とお聞きしましたので、これを」
ジョサイア王とフラヴィア王妃が言う。楽譜の他、楽器も持ってきてくれた。ヴェルドガルとしても彼らに合わせて友好の為の品々を用意したというわけだ。
「ありがとうございます。確かに受領しました。彼らと良い関係を築けるよう、尽力してきたいと思います」
「うむ。よろしく頼む」
というわけでみんなと共にシリウス号に乗り込んで出発だ。七家の長老達とシャルロッテもシリウス号で同行する。
空中輸送も想定してリンドブルムも同行し、竜篭も積んでいる。
隕石についてはきっちり止めるつもりでいるけれど、住民の避難に関しては、飛べない鳥人族が島固有の植物を食生活に組み込んでいるようだからな。その辺も生活のための環境も含めて何があっても保全できるようにという体制だ。
種族の食文化というか、生命維持として必要という事だって有り得るのだし、固有種なら尚更別の環境に隔離して保全しておくというのは大事だろう。
そうしてジョサイア王達に見送られ、シリウス号が飛び立つ。
この後は移動中に海上で浮遊城と合流する事になるだろう。まあ……シリウス号や浮遊城を実際に鳥人族に見せるのは混乱を避けるために事情を十分に説明してから、という事になるだろうけれど。
「今回は現場まで直線的に移動するから、到着までは早めになるかな」
「その代わり途中で月の民と合流というわけね」
クラウディアの言葉に頷き、方位を確認して出発する。
十分な高度に達したところで、軽快な速度でシリウス号を飛ばしていった。
「どんな人達なのかな」
「歌や踊りが好きみたいだし、会うのが楽しみね」
「折角だし、練習もしていきましょうか」
ドミニクとユスティアもそんな風に言って、イルムヒルトと頷き合って、フラヴィア王妃から渡された楽譜を演奏して、軽く音合わせなどしていた。クラウディアやマルレーンも一緒にリュートを弾いたり、セラフィナも楽しそうに歌声を響かせたりしているな。うむ。
そうして海上を進んでいき――合流予定の座標に差し掛かると、上部水晶板モニターに浮遊城が降下してくるのが見て取れた。時刻、座標共にぴったりなあたり、月の民の隕石の予測精度の高さの裏付けにもなっているように思う。
シリウス号の速度を落としていくと、浮遊城もまた下降速度がゆっくりになっていき、シリウス号と高度があったところで静止する。
みんなと共に甲板に出ていくと、ベリオンドーラ城の正門に何人かの人物が姿を見せる。
オーレリア女王、エスティータとディーンを始めとした護衛の武官達。それから天文官のハウゼルだな。
「これはオーレリア陛下」
「ええ。こんにちは、テオドール公」
と、オーレリア女王は楽しそうな様子だ。久しぶりの地上ということで機嫌が良さそうに見えるな。
エスティータ達、顔見知りの武官達や天文官のハウゼルにも挨拶をする。
「お元気そうで何よりです。お子様方も、少し大きくなられましたね」
エスティータがオリヴィア達を見てにっこりと笑う。
「そうですね。お陰様で元気に育っておりますよ」
笑って応じて、子供達をあやして楽しそうに笑う月の面々である。
「しかし、オーレリア陛下が直接いらっしゃるとは思いませんでした」
「ふふ。隕石対策は月にとっても大事なことだもの。月から知らせた話でもあるのだし、きちんと島に住む人達に説明する必要があるかと思いまして」
オーレリア女王がそう言って笑う。なるほどな。
挨拶も終えたところで、シリウス号と浮遊城の足並みを揃えて移動していく。
このまま移動し、島から少し離れた場所に停泊し、そこでグロウフォニカの面々と合流、それから島へと向かう予定だ。
そうやって移動していくとやがて遠くに目的の島々が見えてくる。
大小いくつかの島々があって、主要な島々にそれぞれ飛べない鳥人族が住んでいるらしい。島の間は小さな筏で移動することもあるのだとか。
こちらの姿を認めたのか、島の方からグロウフォニカの快速船も向かってきているのが見える。さてさて。島に住んでいるのがどんな面々なのか。気になるところだな。