番外1970 共に寄りそうならば
『今回飛来する隕石は二つですね。最初に大きな方が飛来し、もう一つの小型の方が数日遅れでルーンガルドに飛来します』
少々気になる話でもあったし七家の長老達も同席しているので、そのまま少し詳しい話を聞かせてもらった。
オーレリア女王は観測班――天文官と呼ばれる担当の部署の面々を交えて話を聞くことを提案し、やってきた文官はそんな風に説明をしてくれた。天文官ハウゼルは星の意匠が入った帽子を被った好々爺といった雰囲気の人物だ。
『ただ……大きな方、とはいってもそれがルーンガルドに壊滅的な被害を齎すようなことはありません。落ちる場所によって、局地的に周囲への被害も出る、という大きさですな』
ハウゼルはそう言って、隕石の大きさによる影響に関する話をしてくれた。
例えば、もっと巨大な隕石だとどんな被害が出て、後世がどうなるのか、といった話も交えて、分かりやすくしてくれる。その辺、月の民以外だとぴんと来ないというのもあるだろうしな。
クラウディアはその辺分かっているようで、ハウゼルの話に静かに頷いていたりする。
『規模によっては土砂が高く舞い上がり……大規模な火山の噴火のように陽光が遮られて天候や気候に影響が出るという事も有り得ます。地形も変わり……過去には巨大隕石の落下により、それによって湖が出来たのだろうと目されている場所も観測されておりますぞ』
ルーンガルド地表のいくつかを映像記録装置から映し出すハウゼル。綺麗に丸い形の湖や湾といった地形が出来ており、なるほどと思わせる部分があるな。
「月の表面にある円形の痕跡と同じですね」
『左様です。基本的にはこうした円形の破壊痕が残るわけです。火山噴火によっても似た地形が出来る場合はあるのですが、他の要因の有無を調べることで特定もできますから』
ハウゼルが俺の言葉に同意しつつ、補足説明をしてくれる。
火山噴火での円形の地形というと、カルデラ湖のようなケースだな。
ともあれ、今回の隕石落下についてはそこまで大規模な影響はない、という話ではあるようだが。
「一先ず安心が出来る話、ではあるのかしらね」
「後は落ちる場所次第でしょうか」
ステファニアとアシュレイが思案しながら言った。
『はい。大規模な影響はありませんが、落下地点付近での危険はあるかと思われます。大半の隕石は地上に行くまでに燃え尽きてしまうものですが、今回の場合はそれなりの大きさのものが地上に到達すると予想されておりますので』
影響は限定的で長期化もしないが、命中地点とその付近は危険というわけだな。
「後は……落ちる場所かな」
『その場所の予測はどのぐらいでできますか?』
『まだ先の事なので誤差はあると思いますが、部下達が進めておりますのでもう少しで予測範囲も割り出せるかなと存じます』
オーレリア女王が尋ねると、ハウゼルがそう応じる。言葉通り、程無くしてハウゼルの部下達が報告にやってきた。
『タームウィルズから見て、西の海ですな。しかし、島々のある場所ですので、付近の住民や生き物には影響が出るかも知れません。空中で四散し、より広範囲に破片による小さな影響が出る、ということも考えられますな』
そう言ってハウゼルが落下予測範囲を示してくれる。西……西か。この前足を運んだばかりだ。しっかり守らないといけないな。
予想される被害としては、津波や島の環境への影響。それから落下地点そのものでの、もっと直接的な被害というところか。
「落下予測範囲への注意喚起と想定される影響への対策が必要、でしょうか」
『そうですね。必要なことだと思います』
オーレリア女王が頷いた。
隕石の物理的な面への対策はそれで良いとして。可能であるなら隕石そのものも回収したいな。成分だとか色々興味深いのも確かだ。と同時に、外から飛来したものだから検疫も必要、と思うのは考え過ぎかも知れないが、一応伝えておくか。
それから未知の細菌、ウイルス、生物といったものが付着している可能性。まあ、氷隕石であったり内側に水分を内包している場合、可能性はゼロではないだろう。
『なるほど……。確かに、有り得る話だわ』
そういった説明をするとオーレリア女王も思案しながら同意する。
「対策としては……結界で受け止めると同時に隔離、といった形でしょうか。小さな隕石まで含めるときりがありませんが、地上に被害が出るものぐらいは対応したいところですね」
何分、隕石が巨大になればなるほど凄まじい破壊力になっていくからな。比較的小規模な隕石への対応が可能になるというのは、将来、もっと大きな隕石が飛来した場合に対応する予行演習に成り得る。
というか、ティエーラにも話を聞きたいところだな。というわけでティエーラに呼びかけてみると、みんなとの話し合いの場に顕現してくる。
事情を説明すると、ティエーラは静かに耳を傾けていたが、やがて頷く。
「昔から星の欠片が飛来してくるという事はありました。地上に大きな影響が出ることもありましたが、それも在るがままにと受け入れてきたものです。それによって生まれるものがあることも事実でしたから」
被害の有無や大小はともかく、新たな生命の種が運ばれてきたということもあれば、破壊の影響が更なる生命圏の発展ということにも繋がっていたというわけだ。
「しかし地上に住まう者達が、自ら予測し、対応を考えて乗り越えるというのであれば……私にとっては喜ばしいことだと考えていますよ」
というのが、ティエーラとしての立場だな。しかしまあ……新たな生命種の飛来というのも可能性ではなく実際に合ったというのが……他ならないティエーラの口から証言として得られたわけだ。
その種が絶滅するにせよ生き延びて形を変えていくにせよ、共に寄り添う存在ならばティエーラも受け入れるというわけだ。飛来した種とて、ルーンガルドの環境に合わせて変わっていくものだからな。
そして……俺達が自衛のためにその飛来を受け入れる、入れないというのもまた、ティエーラにとっては在るがままに、という事なのだろう。
というわけで対応する事自体には問題はない。しっかりやらせてもらおう。
まずは実際にこれから飛来する隕石への対応。それから破滅的な被害を齎す可能性のある大規模な隕石衝突への対策だな。
質量と速度に関わらず対応できる手段か。まあ……そうだな。対応するための手段、魔法や呪法の技術はいくつか考え付く。巨大隕石への対応法は迷宮核でシミュレートしつつ、現地住民との連絡から始めるとしよう。
星球儀と月の民が示してくれた予測範囲地域を照らし合わせると――西の海……グロウフォニカ王国の一部諸島が落下範囲だと判明する。
「ネレイド族や深みの魚人族の方々の生活圏からは外れていますね」
「そこは安心、ではあるけれど……そうね。確かこの諸島は、わたくしの記憶が確かなら、飛べない鳥人族が住んでいる場所ではなかったかしら」
ローズマリーが教えてくれる。
「住民がいるわけだ」
しかも、訪れて会ってみたいと思っていた面々の住む場所という。前回のグロウフォニカ訪問はタルコットとシンディーの新婚旅行、ヘルフリート王子とカティアの島のセキュリティ向上、新型快速船の見学にネレイド族や深みの魚人族への挨拶等々、色々とするべきことがあってそちらには足を運べなかった。
まあ……隕石衝突の対応で訪問というのは向こうにも不安な思いをさせてしまうような気はするが、デメトリオ王達に連絡を取って動いてみることとしよう。