番外1969 月からの連絡
さてさて。母さん達からの子供達への贈り物も完成し、実際に装着してのお披露目も終わって。
俺達もだけれど、母さん達と七家の面々もかなり盛り上がっているようで、喜ばしいことだ。シャルロッテも母さんや長老達から色々教わっているので、封印の巫女の後継としても将来七家の当主になる立場としても、順調に知識と技量を上げてきている。
七家の後継ということで俺達と接点が多いのは、ヴァレンティナとシャルロッテだが、他の面々もいる。ヴァレンティナが俺達との接点が強いのは母さんと仲が良かったからだし、シャルロッテは俺達と同年代であったからというのが大きいが、他の後継者とも挨拶をしたりと、交流はあるのだ。
現在、七家が率いる賢者の学連は保有する技術の復古と継承を行いつつも、新しい道を模索している最中である。
賢者の学連は今まで情報や技術を秘匿する方向で動いていたからな。対して魔術師ギルドは魔法を日常に役立てたいという理念を掲げて活動しているということもあって、生活魔法の開発や魔法技師の育成にも関わっているという違いがある。
学連の意義が魔人に対抗するという、最初から戦闘を念頭に置いたものだったのがその理由ではあるな。
だがその魔人との戦いも終わり、解呪を経て氏族との和解も進んで七家の悲願も達成された。
七家は戦いに特化してきたが、これからは魔術師ギルドのように外に出せる技術は出していこうという話も持ち上がっているのだ。
そんなわけで学連としては方向性を変えるにあたり、何を表に出して何を秘匿し続けるか等を検討する必要があるというわけだ。
そうした保有する技術の復古であるとか、外に出せる検証作業を主に進めているのは、七家の一つ――ヘルトリング家の三兄弟だな。
ヘルトリング家の女性当主、グレメンティーネには3人の子息が居て、3人が3人とも優秀な才を持つ魔術師である。
まあ……俺達よりも年上で長兄は三十歳ということもあり、ザディアスの一件で記憶を封印していたため、修行のやり直しという形にはなってしまったのだが、それを差し引いても全員洗練された魔力を宿している一角の術師といった印象だ。
丁度働き盛りの年齢であることも相まって、ヘルトリング家の兄弟は外での活動をするにあたって白羽の矢が立ったというわけだ。
長兄クヌートは月、次男ユルゲンはハルバロニスに向かい、源流である月の民の魔法技術に触れる事でシルヴァトリアの失伝した魔法技術の復興を目指しているとのことだ。
三男のローマンは外に出せる技術の選定のため、世間の状況を見た上で保有するどんな技術に需要があるのか、リサーチするための仕事を担当する事になったと、長老達が教えてくれた。
記憶を封印してきた分のブランクもあるので、外のこともしっかり調べて出せる技術の取捨選択をする必要があるわけだな。
「昔であれば空白の期間を埋めるためにも更なる修行をとなっていたのでしょうがね」
「クヌート達も外での活動に当たってはやる気に満ち溢れていますからな。あれはあれで、良い結果を出してくれるのではないかと期待しておりますよ」
グレメンティーネが苦笑すると、エミールが笑って応じる。
長老達の中でも若手のエミールにとっては、年齢が近いのでクヌート達は弟分のようなものなのだとか。
「外での調査が実り多いものになると良いですね。勿論、僕としても協力はします。国外の情報については、僕からは伝えられない部分もありますが」
「ありがとうございます。まあ、方向転換は方向転換として皆、しっかりと研鑽も続けていたりするのですが」
と、笑って応じるエミールである。
「習慣もありますし、備えるのは大事なことですからね。皆健康で結構なことです」
七家の面々は基礎的な体力作りや武器を使った近接戦闘訓練に加え、殺傷能力のない光弾等での魔法格闘の模擬戦であるとか、動き回りながら小、中規模の魔法を行使しつつ大魔法を練るといった訓練をみっちり行ったりするそうで。
その辺、バトルメイジのコンセプトと共通する部分があるというか、流石本家といった感じだな。
七家の長老達はブランクがあったからヴァルロスとの戦いの時は大魔法による砲撃役に回っていたが、基本的には循環錬気が使えずとも目指すところは魔法戦士ということらしい。
循環錬気がなくとも瘴気で減衰されても関係ない大火力で防御をぶち抜くことで解決という方向になっていたようではあるが……空中での近接戦闘ないし機動戦も出来ないといけないというところはあるな。してみると、母さんの戦い方も学連の魔術師達が目指す完成形の一つと言えよう。
そうやって七家の面々と情報交換や雑談をしたり、子供達を可愛がったりといった時間を過ごしていると、クヌートが派遣されている月から連絡が入った。
『クヌート卿から、本日フォレスタニアに集まっていると聞きましたので』
「これはオーレリア陛下」
水晶板に顔を見せたのはオーレリア女王だ。クヌートや月の武官であるエスティータとディーンの姉弟もいて、一緒に挨拶をしてくる。
みんな元気そうで何よりだ。月の近況について聞いたり、ちょっとした世間話をしていくが……月の復興は順調そうだな。
月の都の再建もそうだし、月の船や転移門による地上との交易も視野に入ってきているとのことで。
そこでクヌートを窓口とし、シルヴァトリアと情報交換をするのは月の民としても歓迎であったらしい。どんなものに需要があるのか、月としても情報を得られるからだ。世に出しても問題ない技術で魔道具なり加工品を作れば月に必要な物資も得られるしな。
月が保有する魔力からの構築する技術も……生活圏の維持管理が最優先に来るからリソースとしては何でも自由というわけではないのだ。
『月の船も、契約魔法によって悪用防止のための安全性を高めています。地上との交流も……制限はありますが深まっていくと良いですね』
楽しそうに現状を教えてくれるオーレリア女王である。月の民も前に進んでいて結構なことだ。オリハルコンの事もあって、どうしても制限しなければならないところはあるのだが、それでもその中で地上との接点を持とうと考えているわけだ。
「地上との接点における安全性については僕も協力していきたいですね。安心して交流を深めていければ、喜ばしいことです」
月との交流か。仮想街ならば実際に見て聞いて、触れ合うこともできるかな。オリハルコンの秘匿と保全といった点でも安全なので結構向いていると思う。
そんな考えを伝えると、月への仮想街端末導入の話にもなった。交易だけでなく安全な接点というのは重要だな。
そうやって話をしていると、同じく月の武官、ハンネスが水晶板の向こうに姿を見せる。
『ご歓談中失礼します。少々お耳に挟んでおきたいことがありまして』
そう言って、オーレリア女王に何か耳打ちしていた。オーレリア女王は真剣な表情でその言葉に耳を傾けていたが、やがて頷く。
「何かありましたか?」
『いえ……。先程観測班からの連絡がありまして。どうも少し後の時期に、ルーンガルドに隕石が飛来するようです。大きさから言うと燃え尽きず、周囲に多少の影響が出る可能性があると。どこに落ちるのかまではまだ計算が済んでいませんが、場所によっては対策が必要かも知れませんね』
「隕石、ですか」
月としては大気に守られているルーンガルドより隕石の飛来は切実な問題だろうしな……。観測班があるというのは分かる。そこまで切羽詰まった危険性のある大きさとまではいかなさそうだが……確かに、場所によってはというのはあるな。