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番外1966 日常に根差して

 王立病院も無事に開院し、治療や研究もまずは上々な滑り出しと言えるだろう。

 収支に関してももう少しすれば詳細な報告書も上がってくると思うが、こちらも問題はなさそうだ。


 クリアブラッドや一般的な治癒術といった術式では対処できない症例というのもいくつか出てきているな。

 その一つが、例えば寄生虫によるものだ。

 まあ……海も近いしな。今回通院してきた患者はアニサキス症だったのでそれほど重篤な症状というわけではないが、それでも症状が辛いというのには変わりない。


 こちらは薬草で対処という形だな。アニサキス症は珍しいものではないからきちんと効果のある薬草というのが見つかっているとのことだ。駆虫だけでなく痛みの鎮静もできるということで、

 また、アニサキスに限らず寄生虫症に関しては魔力ソナーとライフディテクションの応用術式で反応する対象を絞れる。どこに寄生虫がいるのか特定し、症状や血液の数値から寄生しているのが何かを割り出すというわけだ。


「駆虫に関しては、薬草で対処できるなら良いけど。効果のないものには別の方法も必要かもね。寄生虫症で重症になりやすいものは、元々人間には寄生しない生物だったりするから。それらが逃げ場所を求めようとして食い荒らすから、なんてこともあるみたいだし」

「その辺は私達の領分だと対処可能かなと思います」


 と、エレナが微笑む。寄生している生物に対しての呪法攻撃というわけだ。活動を阻害した上で直接排除にかかったりということも可能だろうな。体内に残った寄生虫の残骸が害になる場合は……そうだな。転送術式で排除なんてことは可能だろうか?


「んー。呪法で目印をつけてその対象物を転送させる、か……?」


 ああ、こちらの方がスマートかな? 直接駆虫にかかっているわけではないから、呪法の反動デメリットや危険性も少ない。転送した寄生虫を調べることも可能と、割とメリットも多い。


 後はダメージを受けた部位を治癒魔法で回復させる、と。まあ、治療の指針はできた。呪法も転送術式もあまり詳らかにできないから、専用の魔道具にするか、専門スタッフとして魔法生物に修得させて技術自体は秘匿しておくというのが良いのかも知れない。


「対応できる幅が広がるというのは良いわね」


 クラウディアが微笑む。


「手軽な治療法が確立されていれば、それが一番だからね」


 クリアブラッドと治癒術、医学、薬学で対処できるならそれで良い。特別なことをしないなら短時間で回復させられて費用も安く済むからだ。


 だからまあ、手早く手軽に対応できる幅が増えるというのは大歓迎だな。後は免疫系の疾患だとか体質上の問題に対して封印術で対処をしたりするというわけだ。封印術の行使を魔法生物で。封印の固定だけ指輪なりで行っておけば良いので、こちらも秘匿情報流出等の危険性が少なくて済む。


 この調子で、対応できないものが出てきたら研究と対応策を考えていくという形で良いだろう。


 義肢装着者の互助会、集会所も王立病院の立ち上げと共に始まっている。タームウィルズの王立病院内とフォレスタニアの双方に集会所があり、どちらかの伝言板にメッセージを残せば双方で内容が閲覧できるというわけだ。これにより、不具合や使用感、ライフハック等々の情報共有ができる。


 フォレスタニアにも集会所を作ったのは、病院の混雑を緩和するためでもあるし、健康な状態から病院に足を運んで風邪などをもらうのを防ぐためでもあるな。


「もう伝言もありますが、ほとんどが義肢に関する感謝や喜びの声といった内容ですね」

「みんな喜んでいるみたいで、私達としてもやる気に繋がります」


 タルコットとシンディーが微笑む。うん。評判も良いようで何よりだ。




 開院した王立病院は、そんな調子で連日盛況であった。

 工房の面々、病院スタッフ共々しばらく忙しい日々を送ることになったが……最初の需要も落ち着いてきたため、次第に少しは状況も落ち着いてくる。


 まあ、魔法による治療にしても義肢の需要にしても、必要としている者達が最初にやってきてその対処がなされれば状況的には落ち着きもするか。魔法も交えた治療は回復までが早いしな。

 怪我人や病人はまあ、継続的に出るので病院が暇になるということもないけれど。


 通報システムも実際に使われて、怪我をした冒険者や南区の職人といった者達がティアーズ達によって病院へと緊急搬送されてきた。本人が通報システムを起動させた場合。周囲の人間が起動させた場合。どちらのケースもあったようだが、ティアーズ達による搬送もしっかりと機能しているようだな。


 そうしてしばらく病院に絡んだ仕事も日々の業務の中に加えつつ過ごしていたが、ジョサイア王とフラヴィア王妃がフォレスタニアを訪問してきた。


「まずは王立病院の盛況、おめでとうと伝えておこう。こちらでも王立病院に関する話は追っているが利用者の声というのも報告書として上がってきていてな。統計の裏付け付きで良い話が聞けたので、話をしようとやってきたわけだ」


 ジョサイア王は上機嫌そうな様子だ。王立病院は王家も関わっているからな。王城側でも追跡調査をしているようではあるが。


「新生児が沢山無事に生まれているという報告が上がっているのです。喜ばしいことですね」


 フラヴィア王妃が微笑む。出産に関しても王立病院のサポート分野だからな。

 衛生状態と栄養状態が良ければそれだけ母子共に無事である可能性は増える。

 ライフディテクションを用いて新生児の状態を確認しつつ、体力増強の術式や栄養バランスを考えた食事をとってもらったり、浄化の術式で衛生状態を保ったりといった事が基本ではあるのだが、それだけでも今までの状態に比べると格段に良好という事なのだろう。


「そうして子供を迎えた夫婦からの喜びの声が多いというわけだ」

「私達としても安心できるという話をしていました。王城ではルシールさん達がついていますが、そうした情報は共有されるものですから」

「そうですね。基本方針は同じかなと思います。僕達の場合は循環錬気もありましたが、病院で預かっている子供達に関しては魔法生物達がしっかりと体調も見てくれていますからね」


 細やかな状態変化も見てすぐに対応できるように体制を整えているのだ。


「怪我人、病人だけでなく、困窮者や新たに生まれてくる子供達も、というのは素晴らしいことだな」

「ええ、本当に。王立病院の理念通りという印象ですね」

「そう言って頂けると嬉しく思います」


 メルヴィン公の時もそうだったけれど――ジョサイア王とフラヴィア王妃が揃って深い理解を示してくれているというのは、俺としてもありがたい話だな。


 ジョサイア王の言葉に笑って頷く俺を見て、みんなもにこにことしている。


 うん……。病院の話も、身の回りのみんな……守りたいものを守り、ヴァルロスやベリスティオ達との約束を果たすことにも繋がっていると思う。

 氏族のみんなも病院で働くことを希望している者もいて、実際に治癒術師、薬師、医師の見習いとしても働き始めているからな。

 病院のスタッフを希望しているということもあり、モチベーションも高く意欲的だ。程無くして見習いではなく、研修も終わって正式なスタッフとなる者も出てくるだろう。


 そうやって日常生活に根を張り、街の人達の信頼を得れば……氏族の面々が広く受け入れられていくことにも繋がる。氏族のみんなには頑張って欲しいところだな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] その一つが、例えば寄生虫によるものだ 獣も貝に潜む住血吸虫撲滅の為南斗の体内抜き手を学んだのだ!!
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >王立病院も落ち着いて 戦闘「出産関係、旦那様の子供達の時が特別だったのを忘れてました。 これは旦那様が戦神(いくさがみ)として信仰される土台に」 しーら「ほ…
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