番外1964 開院式と内覧会
ジョサイア王やみんなの暖かな視線を受けながらも前に出て開院に当たっての挨拶をする。前に出ると居並ぶ面々が大きな拍手で迎えてくれた。祝福と同時に、病院の果たす役割に期待もしてくれているのだろう。祈りにも似た祝福の力が広がっているというのは、そういうことだ。
タームウィルズとフォレスタニアのみんなとも、国内や国外から祝福に来てくれたみんなとも……色々なことがあった。戦いや混乱の中で、見知った人が傷ついたこともあるだろう。俺自身だってそうだ。
だから病院には大きな期待を寄せてくれている。将来、そんな思いをしないように。傷ついてしまった誰かが傷を癒し、再び歩き出せるようにと。
目を閉じ、少しの間を置いてからみんなを見て。それから言葉を紡ぐ。
「今日は――ありがとうございます。ジョサイア陛下も仰ってくださいましたが、沢山の人に支えられ、祝福を受けて、こうして王立病院の開院の日を迎えられたことを嬉しく思います。今日に至るまでの間、戦火や苦難、混乱もありました。その中で、傷付いた人達もいるでしょう。改めて、国立病院の果たす役割に想いを巡らせ、皆さんの祝福や願いに応えられるものになって行って欲しいと、そう祈っております」
そこまで言って一礼すれば、再び大きな拍手が降り注ぐ。みんなも穏やかな視線を向けてくれていて。陽射しや周囲に広がる魔力と相まって、温かなものを感じた。
ジョサイア王と俺の開院に向けた挨拶も終わる。この後は内覧会だな。実際に病院内に立ち入り、集まってくれた面々にお披露目をしていくわけだ。
「では、院内へ案内します」
そう笑って言って、病院内へと入っていく。玄関ホールから見える受付と待合室から始まり、検査室や処置室。病室や風呂、厨房等入院患者用の設備に、事務所、食堂、仮眠室、薬剤室に研究棟といったスタッフ用の設備。浄化や破邪の役割が組み込まれた入口部分や発熱外来、炊き出しを行う専用食堂等々、そう言った諸々の役割や機能を一つ一つ説明しながら院内を回っていった。
「病や不調の原因の切り分けと究明から治療までか。素晴らしいことだ」
「設備に組み込まれている魔道具も素晴らしいものですね」
ヨウキ帝とオーレリア女王が感心しながら言う。
特に、みんなも義肢については気になっていたようで。試験や試用のための義肢も用意してあるので、それを動かして動作性や五感リンクによる感覚を試していた。
「実は、この義肢を装着することで幻肢痛も出なくなると報告が出ています」
「ほうほう」
デニースやホレス達、協力者面々からの報告である。開院式と内覧会には当人達も列席してくれているが、うんうんと頷いているな。
幻肢痛は失われて、ないはずの部位が痛むというものだ。それが治まるというのは……恐らく五感リンクによって感覚が安定することによる副次的な効果だと思われる。
「その辺も実に助かっておりますよ」
「そうですね。結構強い痛みが出て悩まされることも多いのですが」
幻肢痛のことを説明した上でデニース達が感想を口にすると、一同感心したように声を上げていた。
その他、血析鏡等々の魔道具も希望する列席者に試してもらってルシールのアドバイスを貰ったりと、身体の状態を確かめたりしていた。
軽い健康診断のようになっているが……まあ、健康促進に繋がるのならば結構なことだ。
義肢については普及させやすさを追究した廉価な汎用型と、機能や外装を強化した特注品とがあるというのも説明しておく。
どちらも魔道具としての基本――義肢としての性能は大きく変わらないが、それぞれの事情に応じて調整を施すわけだな。特注品はその分値段が上がってしまったり仕上がるまで時間がかかってしまったりするのは仕方がない部分もあるが。
ともあれ義肢を利用したいであろう者に病院を紹介するなら、必要な情報だからな。後は各国で周知してもらえればというところだ。
内覧会もそうして滞りなく進んでいった。街中も――明日の一般公開に向けて結構盛り上がっているな。各国の面々が開院式と内覧会のために訪れているということもあって、ちょっとしたお祭りのような賑わいだ。
外壁ができたために街道からはもう外から病院の外観を見る事はできないのだが、それでも人は集まっていて、発熱外来側の門から覗き込んだりもしていた。
「熱や咳が出てる時は、こっちから病院に入るって話だそうだぞ」
「そりゃまたどうしてだい?」
「他の奴に病を広げないため、だとか」
「へえ」
といった話もしているので、発熱外来の話は周知されているのだろう。
「病院か。仕事中の怪我も診てもらえるってわけだ」
「珍しい症例の場合、調査に協力するなら診察代と治療代も安くしてもらえると聞きましたよ」
「そいつは安心だな。調査って言っても、陛下や境界公が後ろ盾なら無茶なことはしないだろうし」
馬車で移動する途中で、見物に来た冒険者達や商人が沿道でそんな話をしているのも耳に入ってくる。
「ふふ。信頼されているのは嬉しいものね」
「そうだね。実際調査といっても分析とそれに合わせた治療法の模索になるし、効率のいい治療法が確立できればその後に続く同じ症例への治療代だって安くできると思うから」
ステファニアの言葉に笑って答える。
義肢への期待感も高まっているようで、注文したいと考えてタームウィルズやフォレスタニアを訪問しているであろう面々も訪れているという話も聞いている。
まあ、在庫や増産、予約の管理等々しっかりとやっていこう。
訪問してきた国内外の面々を王城やフォレスタニア城で歓待し、そうして一夜が明ける。
病院の一般公開ということで、見物人も多くやってきているな。この日は病院の役割を周知する意味合いが大きい。一般公開できる部分は内覧式とは違い、来院者が関わる部分に限られてはいるが、まあ病院の果たす役割を伝えるという点に関していうなら過不足なくできるはずだ。
一般の見学における警備や案内については王城やフォレスタニアの武官、文官達、それにゴーレム楽団、改造ティアーズといった魔法生物の面々が担当している。
ゴーレム楽団達には合成音声を奏でられるようにして、音声での案内が可能になっているな。
一般公開の折には、気兼ねなく見てもらおうと思っているので俺達や賓客の面々は実際には足を運ばず、水晶板にて中継映像を見せてもらうことになっている。
そんなわけでみんなと共に朝食をとった後、フォレスタニア城のサロンや中庭で寛ぎつつ、水晶板で病院の様子を見せてもらうこととなった。
「見物人と並んでいる方々と……結構な人出ですね」
「それだけ期待されている、ということかしらね」
グレイスの言葉にローズマリーが羽扇で表情を隠しつつ静かに頷く。
『それでは、ただいまより一般公開が始まります!』
『院内での案内の元、順路に従って見学していってくださいねぇ』
そうして、水晶板の向こうでフォレストバードの面々の案内の下、病院の一般公開が始まった。
内部へ入った一般客を、礼服を着たゴーレム楽団が一礼して迎える。合成音声でゴーレムや魔法生物も今回の案内役をしているということを伝えると、少し面食らいつつも喜んでもらえた。
順路ごとに巡りながらも院内の設備、役割についても伝えていく。義肢を手に入れる方法も、恐らく最初こそ予約にはなってしまうということを伝えつつ、受け取り等に際しては転移門の使用が許可されるのでタームウィルズやフォレスタニアに逗留する必要がない事等をしっかりとアナウンスしていく。
ちなみに予約や義肢の紐付けについては契約魔法で行うからな。他人に成りすましたり義肢を奪っても意味がないから安心ということも喧伝しておく。悪質な場合は矢印の呪法も発動するが……まあこの辺は伏せておこう。
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