番外1963 開院と祝福
島防衛用のゴーレムについては、メダルゴーレムを使ったこともあり、それほど時間もかからずに基本的な部分を作ることができた。幻影発動用、契約魔法制御用、魔力供給用……と目的に分けていくつかの魔石を組み込み、登録した島の住民やネレイド族が領域内にいる時に契約魔法への抵触――つまり侵入者や外敵が現れた場合、登録された者を幻影で守るといった動きをするわけだ。
試作品が一体出来上がったところで島に一度転送魔法陣で戻り、試験運用もしてみた。ヘルフリート王子やカティア、ネレイド族に浅瀬側の海で泳いでもらい、そこに侵入者役を想定して別のゴーレムを侵入させると、防衛ゴーレムが契約魔法の抵触を確認し、幻影術式を発動する。
泳いでいるカティアやネレイド族の姿が消えて、離れた場所に同じ姿をした幻影が出現する。基本的には幻影は本体と侵入者を避けるようなルートを通って逃げる挙動を取るように設定されている。
それでも追いつかれそうになると幻影は光と共に消失して少し離れた別の場所に出現する、というようになっているわけだ。まあ、時間稼ぎだな。
逃げた者達が屋敷に到達したところで幻影が解除される。そうした試験も問題なく進んで、ゴーレム達が想定した挙動通りに動くことを確認できた。
「良いわね。これなら安心して魚獲りにもいけそうだわ」
「海辺で遊ぶ時も安心です」
にっこり笑って顔を見合わせるネレイド族達だ。ヘルフリート王子もカティア達の様子を微笑ましそうに見ていたが、俺の方に視線を向けると礼を言ってくる。
「ありがとう。カティア達が安全な環境は僕としても嬉しいな」
「そう思って頂けたのであれば何よりです」
そう笑って答える。ヘルフリート王子やネレイド族の安全確保は必要だしな。ローズマリーも羽扇の向こうで静かに頷いたりしている。
そんな調子で島でのゴーレムの試験を終えて。工房にてゴーレム達を必要な数だけ揃える作業を進めたり、病院関係者との調整や日々の執務をしたりして過ごしたのであった。
そうしていると、タルコットとシンディーも新婚旅行から帰ってくる。快速船で戻ってきたので迎えにいったが、二人きりの時間をかなり満喫していたようで、甲板でも仲睦まじい様子で寄り添いながら帰ってきた。
「お陰様で、ゆっくり羽根を伸ばしてくることができました」
「また明日からよろしくお願いしますね」
と、迎えに来た俺やアルバートにそう言って笑うタルコット達である。グロウフォニカや海の民との交流等々、結構充実した旅になったな。ドロレスも良い試験航海になったと言っていたし、アウリアも色々情報を得る事ができたと喜んでギルドに戻っていったから、みんなとしても得るものが多かったのではないだろうか。
タルコットとシンディーは帰ってきた翌日から、精力的に魔道具作りに動いていた。義肢の根幹部分を作って、外装だけ構築すればいいという状態まで持っていき、後はブライトウェルト工房やヴェルドガルお抱えの職人と協力して仕上げる、という感じだな。こうすることで義肢の数を揃えられるようにするというわけだ。
仕上がる度に一個一個試験をして、二人は相変わらず丁寧な仕事をしてくれているのが窺える。
そうやって病院開院に向けて準備を進めていく日々の中で、コルネリウスの満一歳の誕生日も迎えた。
誕生日の祝いは工房で行う事になったのだが、フォブレスター侯爵も孫の顔を見にやってきていた。コルネリウス用の衣服を贈り物として持ってきたりして、孫を可愛がっているというのが表情からも窺える。
俺達からも対呪法、破邪、浄化の三種の効果を持たせた刻印魔術の刺繍を刻んだ肌着を用意したり、工房の職員面々もあやすための玩具を作って贈っていた。
工房の面々が作ったのは魔石を組み込んだ絡繰り人形だな。自動で動いたり、光を投影して空中に空飛ぶ魚の立体映像を映し出すことができる、と。タルコット達とビオラ達、お祖父さん達……工房に関わる面々の合作だが、かなりの力作である。
それらを見たアルバートとオフィーリアは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう……。うん。嬉しいな」
「ありがとうございます。コルネリウスも健やかに育ってくれると思いますわ」
「普段から二人には世話になっているからね。コルネリウスにも元気に育ってほしいな」
二人にそう応じるとコルネリウスを腕に抱いてにこにこしながら頷く。マルレーンに髪の毛を撫でられたりして、くすぐったそうに笑っているコルネリウスである。
談笑しながらお茶を飲んで、イルムヒルトの奏でるリュートに合わせて子供達に歌を歌って聞かせたり……そんな調子でコルネリウスの誕生日は賑やかに過ぎていったのであった。
身の回りの子供達の満一歳の誕生日も無事に過ぎ……いよいよ病院の開院が近付いてくる。設備、薬、備品に人員とその体制等々。諸々の準備も出来ているな。
開院に伴い、開院式と内覧会、一般公開を行うことも決まった。開院に絡んだ日程も情報が周知され、タームウィルズやフォレスタニアはまた人が増えているように思う。見物に来る者達と、それを商機と見る商人達で賑わうのはいつものことという感じではあるが、今回は病院を必要として訪れてきている者もいるようだ。
つまりは義肢を必要とする者や治癒魔法等では解決しにくい疾病に悩まされている面々だな。開院直後は中々の混雑が予想されるが……まあ、スタッフのサポートもするので一緒に頑張っていきたいところだな。
さて。そうして一日一日と進んでいき、いよいよ開院式の当日がやってくる。天気は快晴。開院式としては相応しい爽やかで暖かい日和になった。
国内各地と同盟各国からも開院に合わせて賓客が来るから、結構大きなイベントと言えるだろう。
転移港に迎えに行くと、次々と光と共に賓客がやってくる。顔を合わせて挨拶をしていき、名簿にある参加者が揃ったところで馬車に乗り込んで病院へと向かった。外壁も開院に合わせるようにして出来上がっているな。
馬車で正門を抜けると、病棟が視界に入る。
「おお、これが……」
「立派な建物だな」
イングウェイ王が言うと、エルドレーネ女王も満足げに笑う。ジョサイア王とフラヴィア王妃、メルヴィン公夫妻もやってきて列席者も揃ったため、病院にて開院式を行うこととなった。
「これより王立病院の開院式を行います!」
フォレスタニア城の文官が宣言すると、ゴーレム楽団と共にユスティアとドミニクが歌と演奏を披露してくれる。今日の為に楽士役を買って出てくれたのだ。高らかに奏でられる音楽と、これからの展望に想いを馳せるというような明るい歌詞。澄んだ歌声が響く。
「それでは開院の祝辞を――ジョサイア陛下とフォレスタニア境界公よりお願い致します!」
司会がそう宣言し――ジョサイア王が前に出てまず口上を述べる。拍手で迎えられたジョサイア王が静かに頷いて。そうして口を開く。
「このように素晴らしい病院の開院の日を迎えられたこと、これだけの顔ぶれが祝福に集まってくれたことを、誠に喜ばしく思う。王立とは言っているが、境界公や関係者各位の理念と協力なくして、このような施設の創立は有り得ないものだっただろう。王立病院が数多の病める者、傷付いた者達を癒し、人々に前に進む力を与え、未来への礎となって行ってくれることを願っている」
ジョサイア王はそう言って……大きな拍手の中で俺に視線を合わせて頷いてくれた。前に進む力か……。そうだな。