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番外1961 深みの歓待

 魔物型の夜光虫か。凶暴な魔物でもないようだし、綺麗なものなのでこちらとしても見ていて楽しいものだ。

 水中呼吸の術やバブルシールドを使って海中にも潜ってみたが、周囲を舞うようにして夜光虫が光を放ちながら漂っていて何とも美しい光景が広がっていた。


「少し、迷宮核の中に似てるかも知れない」


 暗闇の中に輝く夜光虫が広がっている様が、結構似ている、かも知れない。


「ふふ、良いですね。普段テオが見ているような光景ですか」


 グレイスがそんな風に言って。みんなも俺が普段迷宮核内部でしているように、手を翳して魔力を送り、夜光虫をそっと誘導するように動かしたり光らせたりして楽しそうにしていた。そんな風にみんなとしばらく楽しませてもらった。

 夜光虫はやはり周囲の魔力を取り込んでいるようだ。当然触れていると水上歩行、水中呼吸、バブルシールドにしろ維持時間が若干短くなってしまうようだが……そこまで気になるほどではないかな? しっかり気を張って術式を維持していれば干渉できるほどではないし。中々面白い特性をしていると思う。


 そうしてしばらくの間みんなと共に夜光虫の輝きを楽しませてもらった。島に宿泊し、明くる日はネレイド族の集落へと遊びにいく。こちらは場所を秘密にしなければならないということもあり、即席のゴーレム船を作ってそれに乗って、ネレイド達、深みの魚人族達と共に移動していった。


 ネレイドの集落も相変わらず平穏なようだ。

 長い海藻の揺れる海の森を抜けていくと、隠されたように洞窟があり――その中に巨大な巻き貝の家が建っている。

 その中に――大きな泡で囲われている巻き貝の家があった。


「あれはヘルフリート殿下とカティアの別邸になる予定の場所ですね。地上からのお客を迎えることもできるようにと想定されて作られていますよ」


 モルガンが教えてくれる。地上からの客とは言うが、ネレイド族の集落は秘匿されているので俺達が遊びに来た時を想定してのものということになる。

 バブルシールドを維持する魔道具。空気を浄化する魔道具も組み込まれて、陸の民が滞在するにはいい環境のようだ。


「何というか……水晶板では見たけれど、物語の中みたいで素敵な集落ね」

「うん。実際に来て見ると、やっぱり感想も変わってくるな」


 タルコットとシンディーはネレイド族の集落を見て笑顔になっていた。


「昼間の春の海も見所はあるのよ。近所に行けば見られるから、海底散歩といきましょうか」


 カティアが微笑んでそんな風に誘ってくれたので、みんなで海底観光へと向かう。

 海藻の森を抜けて、少し歩いていくとその場所に出る。カティアが見せたいものはすぐに分かった。


 春の海は確かに少し霞んでいるけれど、陽の光は差し込んでくる。そこに何か――花弁のような何かがちらほらと舞っているのだ。

「あれは――」

「ウミシダや、ウミユリの仲間ですね。この季節になるとこの辺によく流れてくるのです」


 というと……ヒトデやウニ等、棘皮動物の類ということになるな。

 桜の花びらのような色合いをしていて、結構な量があって、こちらも夜光虫と同様、幻想的で綺麗な光景であった。


 他にも色とりどりの魚、鮮やかな体色のウミウシもいたりして。ネレイド族の集落周辺の海底は綺麗な生き物が多く、見ていて飽きない。


 子供達もバブルシールドの中からそんな海の生き物達を眺めて、キャッキャと声を上げていた。楽しそうなことでなによりだ。


「春になったから暖かくなって色々な生き物を見る事ができるようになってきたところです。少し透明度は下がっていますが、これはこれで賑やかで良いと思いますよ」


 モルガンが微笑む。そうだな。豊かな海で結構なことだ。

 そうやってのんびり海底散歩をした後、ネレイド族の集落に宿泊もしたりして、俺達はのんびりと海底観光を楽しませてもらった。

 珊瑚や貝殻の飾り、調度品といったお土産ももらってしまったが。




 深みの魚人族の集落にも足を運んで、彼らにも挨拶をしたり、ヴィアムスの本体とも顔を合わせてきた。

 ヴィアムスとはスレイブユニットでも顔を合わせているが、やはり本体で会うのは嬉しいようで。


「マスターが来てくれるのは嬉しい」


 そんな風に言って、額の宝石をピカピカと光らせながら深みの魚人族達と共に出迎えてくれたヴィアムスである。大きな身体でいそいそと近付いてくる姿は中々可愛い気がする。


「ヴィアムス殿には日々助けられておりますよ」

「そうですな。集落をしっかり守ってくれますので、皆の行動にも自由が利くようになっております」


 深みの魚人族の面々がそんな風に教えてくれる。ヴィアムスが魔物の襲撃等に注意を払っているから、その分狩りや作業に行ける人員が多くなり、暮らしも楽になっている、と。狩り自体も戦士階級が付き添えることで安全性が増しているらしいし。


「皆も良くしてくれる。役割上あまり狩りにはいけないが食材も分けてもらえるしな」


 と、ヴィアムス。


「それはまあ、里を守る戦士と同じですからな」

「ヴィアムス殿は子供達にも懐かれておりますからな。他の面でも助かっておりますよ」


 深みの魚人族の子供達がよくヴィアムスのところに遊びに行っているそうで。長柄の武器の扱いを教えたり、一緒に遊んだり、ヴィアムスが簡単な料理を振舞ったりしているらしい。


 味覚があるからな。ヴィアムスとしてはその辺が趣味だったりするのだ。


「娯楽としてチェスも増えましたからな。集落に戻ってきてからの楽しみも増えているのです」

「最近では自分達でも駒を作っているのですよ」

「カードも楽しいよ。ヴィアムスも一緒に遊んでくれるの」

「背中に乗せて泳いでくれたりね」

「うんうん」


 子供達も言う。カードなら運の要素も絡むからな。水中では一部のゲームはできないが、子供達とヴィアムスとで勝ったり負けたり、楽しく遊んでいるとのことだ。


 海の民用のカードは特製品で耐水性がある。チェスの駒にしても耐水性は必要ではあるが、深みの魚人族が使う素材で駒を作っているので問題なくオリジナルの駒でも遊べているとのことだ。


 実物を見せてもらったが、大きな貝柄から削り出して水流操作の術式で磨いたものということで真珠のような色合いが何とも綺麗だった。細かい装飾もできるようで、トライデントで武装して鮫に乗った魚人族のナイトであるとか、蛸の姿をしたビショップ、亀のルークやら海の民系統の駒が中々格好いい。


「ん。陸に持って行っても欲しがる人が多そう。ドリスコル公爵とか」

「確かに。格好いいね」


 そんな話をすると何セットかあるので是非にということでお土産にもらってしまった。1セットは後で公爵に、ということだ。きっと喜んでくれるだろう。公爵家は海の民とも繋がりが深いしな。


 ともあれ、ヴィアムスも深みの魚人族の集落に馴染んで仲良くしているようで何よりである。深みの魚人族もかなり信頼してくれているようだしな。


 キュテリアも助けてもらった深みの魚人族に、陸上からお土産を持ってきたりしていた。こっちでは手に入らない食材や耐水性の素材等々、冒険者活動で稼いで確保してきたようである。


 折角の食材ということで、ローズマリーの魔法の鞄に入っている香辛料等々と合わせて、ヴィアムスが地上の料理を作ってくれるとのことだ。


 集会所の海水を一時的に排水して、みんなで地上の料理を楽しもうということになった。

 ヴィアムスは地上でもスレイブユニット側で色々学習もしているからな。どんな料理を作ってくれるのか、楽しみにしておこう。

いつも応援して頂き、誠にありがとうございます!


本日12月25日、書籍版境界迷宮と異界の魔術師18巻、コミック版9巻の同時発売となっております!


同時発売も嬉しいのですが、18巻は書籍版の最終巻ということで、無事に最後までお届けする事ができて感無量です。

ここまで来ることができたのも関係者各位の皆様、そして何より、読者の皆様の応援のお陰です! 改めて御礼申し上げます!


今回も各店舗の特典があります。詳細は活動報告にて告知しておりますので、そちらも合わせて楽しんで頂けたら幸いです!


今後もウェブ版、コミック版共々頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します!

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[良い点] 漢獣漂流した珊瑚を巻いた鉢巻に二本挿し鼻を赤く染めそりをひく準備する
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