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番外1959 二人の小島にて

 島の近辺までは船着き場のある一方向を除いて浅瀬が続いているので、喫水が深い船では直接乗りつけられない。正規の船着き場以外では小型のボートに乗るなり空を飛んでいくなりして島まで向かう必要がある。


 要するに正面玄関以外からだと大きな船でやってきて多人数がいきなり上陸というのはできないし、浅瀬が続いているので小舟や水面下を進んできても分かりやすい。セキュリティの観点上はプラスというか、そういう条件の島を探したのだろう。


「上空をティアーズ達が警戒していれば侵入者はすぐに察知できそうね」

「後は結界や転移の設備があれば安心かしら?」


 甲板から周囲の環境を見て、ローズマリーとステファニアが島周辺の防犯面について思案しながら言うとマルレーンも真剣な表情でこくこくと頷く。


 姉妹としてもヘルフリート王子や義妹になるカティアについては心配なようで。そんな姉や妹の様子にヘルフリート王子は少し照れたように頬を掻き、カティアはそんな王子を見て微笑ましそうにしている。


「後は島周辺の海――生活圏での防犯設備かな? 例えば貝や珊瑚型の魔法生物を用意しておいて、ティアーズ達と連動させるとか」


 能力を幻影の展開等にしておけば外に出ていた者を逃がしたり幻影を囮に逃げ回らせて時間稼ぎをしたりといったことができるはずだ。

 正面玄関に当たる船着き場も、悪意を以って近付いた場合は契約魔法に抵触させて接近を拒むといった仕掛けを施すことができるだろう。

 コンセプトも交えて説明すればみんなもふんふんと頷く。


「境界公の防犯体制について聞いていると、安心できるな……。すごいのは分かっていたことではあるけれど」


 と、ヘルフリート王子が感心して声を漏らす。


「よければ私達も魔道具作りに協力させてください」

「大切な人を守りたいという気持ちはわかりますから」

「それは――助かる」

「心強いわ。二人ともありがとう」


 タルコットとシンディーの言葉に、ヘルフリート王子とカティアも礼を言う。

 そんな話をしつつも船着き場が近付いてくる。快速船を停泊させ、そうして船着き場に降りると、人化の術を使ったスキュラのキュテリア、ネレイド族の族長であるモルガンや深みの魚人族のブロウス達といった面々、それにヘルフリート王子の身辺の世話をする使用人といった面々が出迎えに来てくれた。キュテリアは先に転移門でこちらにやってきて、歓迎の準備を進めてくれていた形だな。


「ようこそ、レーネ島へ。歓迎するよ」


 船着き場に降り立ったヘルフリート王子とカティアがこちらに向き直り笑顔を浮かべる。それに続いて、出迎えに来てくれた面々も歓迎の言葉を口にしてくれる。


「いらっしゃい!」

「お待ちしていました」

「ありがとうございます」


 タルコットとシンディーが一礼し、俺達も出迎えに来てくれた面々に挨拶を返す。

 というわけで、ヘルフリート王子とカティアが楽しそうに島内を案内してくれる。

 船着き場から屋敷へと続く道もきちんと整備されている。道沿いに水路も掘られているあたり、海の民の来訪も考えてあるわけだ。

 明るい陽射しの降り注ぐ石畳で舗装された道の脇に椰子の木が植えられていてリゾート感があるな。道の周囲には庭も整備されていて、白い石で造られた東屋や噴水など、色々と絵になる。


「綺麗な島ですねぇ」

「そうね。ここで暮らしていくというのは確かに楽しそうだわ」


 グレイスが微笑むとクラウディアが頷く。


「船着き場には灯台もあるのね」

「ん。見晴らしが良さそう」

「海だけじゃなくて島内の色んなところも見られるのよ」


 イルムヒルトとシーラの言葉にカティアが楽しそうに答える。荷物を置いたら後で灯台にも登って景色を見に行こうという話になっていた。確かに、上からの眺めは良さそうだな。


「家に関してはタームウィルズで見る建築様式と同じですね」


 セオレムを参考にした様式というか。


「この辺は将来に渡って使っていくものだから、ヘルフリートに馴染みのあるものがいいねって話をしたの。私は地元の方で暮らしているわけだし……それに、ヘルフリートが馴染んだ環境なら、私も同じものを見て特別なものに感じられたら良いなって」

「僕としても……カティアの育ってきた海が特別なものに思えたら嬉しい、な」

「ふふ。うん。そうなってくれたら私も嬉しい」


 カティアが微笑むと、ヘルフリート王子も照れ臭そうに笑う。

 そんな二人の様子をみんなも微笑ましそうに眺めつつ、屋敷へと移動した。

 手荷物を案内された客室に預ける。屋敷の家財道具は一通り揃っており、現時点でも滞在するにあたり不足はなさそうだ。


 そんなわけで荷物を置いたら島内巡りをしてみる事になった。島内部は他の場所もそこそこ整備が進んでいて、色々見て回れるようだ。

 カティアがいつでも泳げるようにプールも造られており、ますますリゾート感があるが、この辺は遊びというよりはネレイド族であるカティアの体調を気遣ってという側面が大きいだろう。


 屋敷の裏手は原生林が広がっているが、散歩できるようにと道とその周囲はしっかり舗装されていて林の間を縫って一周して来られるようになっている。離島なので鳥や虫はいるが、危険な魔物や生物は住み着いてはいないというのは調査済みらしい。


 船着き場からここまでの道同様、陽が差し込んで明るく静かな環境だ。原生林の中なので波の音も遠く聞こえて……良い散歩道だな。


 そのまま散歩コースを一周して灯台へと向かう。みんなで談笑しながらも螺旋階段を昇っていき、上階へ出る。


「ああ……良い眺めですねえ」


 エレナがオリヴィアの乗せられているフロートポッドをしっかりと腕に抱きながら声を上げる。


「そうだね。少し風は強いけど、綺麗だな」

「ん。海の様子も、屋敷も船着き場も、よく見える」


 エメラルドグリーンに輝く海原の様子は高所から見ても見事なものだ。上から見ると緑豊かな島の一部に屋敷や庭といった島内の人工物も見えて、全景がよく分かる。

 庭に植えられている赤い花々が遠目にも分かりやすくて良いアクセントになっているな。


 それに、ここにハイダーやシーカーなり監視用の魔道具なりを配置するのも良さそうだ。定点観測で屋敷にいながらにして周辺や島内の様子も分かるしな。勿論、灯台本来の役目も十全に機能しそうで良い感じである。


 そうやってみんなで景色を楽しんでから屋敷に戻った。プールに面したところにサロンも作られていて、のんびり寛ぎながら過ごせるようになっている。


「春の海の見所は夜になってからですね。いつでも案内できますよ」


 ネレイド族の面々がそんな風に教えてくれる。みんなも旅の疲れ等はないということで、早速夜になったら見に行ってみるという事になった。

 それまでは屋敷でゆっくり過ごさせてもらう。キュテリアやネレイド族、深みの魚人族の面々が食材を準備してくれているので、今日の昼食も魚介尽くしだ。


 ヘルフリート王子付きの料理人や使用人達が昼食を作ってくれるそうだ。グロウフォニカでヘルフリート王子に仕えてきたので、こちらの食材、料理にも慣れている。魚介類の扱いも手慣れたものだった。魚介類のトマト煮は、見た目も鮮やかで、明るい陽射しと温暖な海に合うような料理と言えよう。


 それに、深みの魚人族が提供してくれる食材は珍しいものが多い。深海魚はあまり馴染みがなく、食材としては研究が進んでいなかったり一癖二癖あったりするものが多いようだが、しっかりと美味しい料理として形にしてきているあたり、料理人の面々が今日の日の為に色々と試行錯誤されていたのが伝わってくるな。


 耳と尻尾を反応させたシーラがサムズアップをしていたりと、満足度の高い昼食であった。

いつも境界迷宮と異界の魔術師をお読みいただき、ありがとうございます!


12月25日発売の書籍版境界迷宮と異界の魔術師18巻の特典情報が解禁となりました!

同時発売となるコミック版9巻共々、よろしくお願いいたします!


詳細は活動報告にて記しております。併せて楽しんでいただけたら幸いです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 正規の船着き場以外では小型のボートに乗るなり空を飛んでいくなりサーフボードに乗ったりイルカヘディングお願いして島まで向かう必要がある
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >防犯 思い出の島で良い雰囲気を海賊がぶち壊した記憶が、そうさせるのかも。 ぐれいす「あの時は本当に怒りが収まりませんでした」視線を反らしつつ >深海魚の調理…
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