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番外1956 公爵家の現在

「ようこそ月光島へ。皆様をお待ちしておりました。タルコットさんとシンディーさんの新婚旅行ということで、私達も結婚のお祝いをさせていただきたいと思っています」


 ユスティアの姉――セイレーンのマリオンが嬉しそうに微笑みを見せる。その後ろには着飾ったセイレーン達がいて、竪琴やハープを手に楽しそうにしていた。今回は公爵家の楽士達も合同で演奏を行うとのことだ。


 月光島には海の民との交流用に野外音楽堂がある。海から直接来ることができて、陸海それぞれの楽士達の演奏を鑑賞したり、一緒に歌や演奏を楽しんだりといった交流ができるわけだ。

 春先とはいえ海辺なので防風のための魔道具も組み込まれているので、陽射しの暖かさを感じながら音楽や交流を楽しむことができる。


「ありがとうございます。ドリスコル公爵家やセイレーンの皆さんにこうして温かく迎えて頂けて嬉しく思っています」


 タルコットがマリオンへの口上に対してそう返すと、マリオンはにっこり笑って頷いて一礼し、祝福と歓迎の演奏会が始まる。


「ではまずは、グランティオスの結婚式でもよく歌われている曲からですね。楽しんで行って下さい」


 そう言ってから少し間を置いて――澄んだ歌声が響き渡る。マリオンの歌声にセイレーン達の歌声とハープや竪琴、楽士達の演奏が重なってゆったりして神秘的な曲調が段々と明るい曲調になっていく。

 結婚式で奏でられる曲ということもあり、歌詞の内容は明るく希望に満ちたものだ。

 これからの生活。日々の恵みや海の美しさ。そういったものを歌い上げ、隣にいる愛する人と共に歩んでいこうという内容だな。


 グランティオスの歌なので、陽の光が差し込む海で、頭上を舞う色とりどりの魚といった光景を想起させる内容だったりするのが面白い。


 最初の一曲が終わると、今度はもっと楽しげな曲になる。弾むようなメロディと共にセイレーン達がレビテーションの魔道具を使って、泳ぐように空を舞いながら歌を響かせる。演出用の魔道具も使って、光の粒や泡も使っての演奏だ。公爵家の楽師達も楽しそうに回りながらラッパを吹き鳴らして演奏しているな。


 中々息もあっていて、今日の為に訓練してきたのが窺える。この辺は月光島が出来たことで、普段から交流もしているという話だからな。セイレーン達としては陸の音楽文化にも興味津々だし、月光島ができたことで気楽に交流できる場も増えたということだ。


「では、次は皆様も知っている曲かと思われます。歌詞を書いた紙も用意してきましたので一緒に歌って下さいませ」


 と、マリオンが微笑む。タームウィルズでよく歌われている曲を演奏してくれて。それを空中を泳ぐように舞い踊るセイレーン達と共に声を合わせて歌って、祝福の演奏会を楽しませてもらったのであった。




 月光島はグランティオスからの貿易品、公爵領の特産品等の交易の場にもなっている。そうした品を見せてもらって、タルコットは珊瑚の首飾りをシンディーにプレゼントしたりしていた。俺も俺で、水蜘蛛の糸で編まれたみんなのドレスや子供達用の生地を買ったりしている。


「珍しい魚も水揚げされてて良い」

「公爵領で水揚げされた魚ですな。今日の夕食で饗される予定ですぞ」

「ん。それじゃあ、今回は干物とかにしておく」


 ドリスコル公爵とそんな会話を交わし、色々と海産物を買い求めているシーラであった。

 そんな調子でみんなと共に買い物をしたり月光島の木を組み合わせて作ったツリーハウスに宿泊させてもらい、迎賓館に集まって夕食をとったりといった時間を過ごさせてもらったのであった。


 カティアはセイレーン達とも打ち解けている様子で、グランティオスの異種族婚に関する話等を聞いたりしている様子であった。


「――ええ。陸の人達は水中で活動できる人があんまりいないから……」

「基本的には人化の術を使って私達が陸で暮らす方を考える人達が多いと聞いています」

「魔法や魔道具で補う事も確かにできるけれど、魔力切れや破損とか考えると、心配だものね」


 ロヴィーサやマリオン達の言葉に、カティアもふんふんと頷きつつ相槌を打つ。


「海の民と陸の民の結婚には色々越えなければならない問題が多いですからね。大変です」


 その様子を見て言うエレナである。


「確かにね。その辺、助言できる人は貴重だろうし」


 俺達とて異種族間での結婚はしているが、周囲に助言をしてくれる人達がいて実際有難かった。ヘルフリート王子とカティアなんかは陸と海となるとまた話も変わるしな。カティアもセイレーンやマーメイドの知己がいると心強い部分はあるだろう。


 ネレイドの場合は精霊に近い種族であるだけに結婚相手に加護がかかるから、水中での活動もある程度できるようになるということだが。


 それでも人体が水中の行動に適した身体の作りをしているかというとそうではないからな。だからまあ、基本的には人化の術を使って海の民側が合わせるか、各種魔道具を使って諸々整えるか、という形になる。


 ネレイド族はまあ……秘密にしなければならない事が多いだけに、結婚という事例自体が少ない。サンダリオの件もあって、ネレイド族が一族挙げて支援したりはしているけれど、参考になる意見が聞けるならそれに越したことはないだろう。

 ロヴィーサやマリオンも秘密を知っている側だから、外部から異種族婚についての見解を聞ける機会というのは貴重なのだ。


 グランティオスの民の場合は――異種族婚が多いわけではないにせよ、ネレイド族程の秘密はないからな。ある程度昔から陸の民との結婚自体はあったらしい。


「僕としては必要に応じて魔道具用の術式を組んだり、ぐらいでしょうか。何かあったら気軽に相談してもらえれば助かります」

「私達もです。魔法技師としてお力になれることもあるかと」

「それは――心強いですね。ありがとうございます」


 ヘルフリート王子が俺やタルコットの言葉に笑みを見せる。シンディーもカティアやマリオン達と談笑したりと人脈が広がっているのは良い事だ。




 そうして。明くる日はセイレーン達に見送られ、快速船に乗って公爵家の直轄地に移動。そこで水路を軽く遊覧させてもらったりと観光を楽しませてもらった。


 道中、船内のサロンで公爵家に関する話も聞かせてもらったが、レスリーとの関係は良いもののようだ。


「夢魔事件での被害者に対しても謝罪と和解を進めております。救済や支援は兄の手を借りなければならないところもありますが」

「手を借りるなどと。レスリーの悩みに気付けなかった私にとっての落ち度に他なりませんからな。夢魔の被害を受けた領民を助けるというのも領主としての務めでもありましょう」


 レスリーの言葉にドリスコル公爵が首を横に振る。夢魔事件の後始末も色々前に進んでいるようではあるな。


「レスリーさん自身のお加減はどうなのですか? 必要であれば循環錬気等も行いますが」

「ああ、それは有難いですな。何分真面目な性質なので本人の体調に関して大丈夫や問題ないというのが信用できない時がありますので」

「いやいや。本当に大丈夫ですよ?」


 俺も苦笑してそういうことならとレスリーの体調を見てみたが、これに関しては実際問題なさそうであった。それを伝えるとドリスコル公爵も満足そうに頷く。


「ですから言ったでしょう。兄上こそ、どうなのです?」

「いや。私は大丈夫でしょう」

「あー。念のために公爵のお身体も診ておきましょうか」

「それがよろしいかと」


 そんなやり取りを交わして公爵の健康診断もすることになったりと。まあ、家族仲も良さそうで結構なことだ。ちなみに公爵も夫人も執事のクラークも問題無さそうである。


 そこにライブラと共にオスカーとヴァネッサもやってきて。


「甲板から鯨が見えますよ」


 二人はサロンにいるみんなを呼びに来たらしい。


「ああ。それは良いですな。少し見に行きましょうか」


 とまあ、そんな調子でみんなで甲板に向かう。レスリーがオスカーやヴァネッサに手を引かれたりして、楽しそうに笑っている姿にライブラもうんうんと頷き、みんなも表情を綻ばせていた。レスリーに関しては、夢魔事件の後遺症もなく、立ち直ってくれているようで何よりだな。

いつも応援ありがとうございます!


コミックガルド様のサイトにてコミック版の最新話や無料公開分が更新されております。詳細は活動報告に投稿しております。楽しんでいただけたら幸いです!


今後もウェブ版、コミックス共々頑張っていきたいと思っていますので、今月12月25日発売予定の書籍版、コミック版の新刊と合わせてよろしくお願いいたします!

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