番外1954 快速船出航
ヘルフリート王子達と共に西方面やグロウフォニカの面々――バルフォア侯爵や造船研究所のドロレスといった面々も招待を受けて結婚式に訪れている。
タルコットとシンディーは1日、2日とのんびりしたらグロウフォニカの新型快速船に乗りこみ、ドリスコル公爵領経由でグロウフォニカに向かうという形になるな。
ちなみにドリスコル公爵もタルコットとシンディーに歓待と結婚祝いの準備を進めてくれているとのことだ。
その後、新型快速船に乗り込んでグロウフォニカまで行き、そこから転移門でドリスコル公爵領に帰るという予定を立てているそうな。この辺ちゃっかりと同船するあたりドリスコル公爵らしいというか。快速船に乗るのを楽しみにしているというのが窺えるな。
まあ、そんな調子でドリスコル公爵は平常運転だ。
デメトリオ王も、快速船については平和になった時代に沿うものにしたいと言っていたからな。貿易、交易のための輸送量や航行速度も重視しているが、居住性も高めているとのことで、この辺親善を考えてのものなのだろう。そうした話を聞けば、新しい物好きなドリスコル公爵が飛びつかないはずもない。
新しい物好きと言えば、何気にアウリアも同船する予定だしな。
グロウフォニカとの船舶の行き来の速度や一回の輸送量が上がるのなら知っておいた方がいいという事で出張を許可されたという話である。
冒険者ギルドのヘザーやベリーネの話によると、アウリアは実地で色々な土地に足を運んでいて経験や知識は抜きんでているから、その見解、見地、直感は確かなものだそうな。
だから筋が通っていると性質が悪いという言葉が付け足されたりするのであるが……。
タルコットやシンディーは勿論、公爵やアウリアもそうだが、俺達も新型船ということで楽しみにしていたりするからな。二人の邪魔にならないようにしつつも、船旅を楽しませてもらうことにしようと思っている。
そんなわけで宴も無事に終わり――タルコットとシンディーはフォレスタニア城と新居で一日ずつの時間を過ごすこととなったのであった。
挨拶回り等もあって二人は宴までは忙しなかったが、その後はかなりのんびりと過ごせたのではないかと思う。
そして、快速船での出発の日。造船所に集合し、そこから出発するということになっている。
快速船は帆船より速度が出るので、少しゆったりとしたスケジュールで問題ない。造船所に集合するということで、のんびり朝食を済ませてから移動した。
「おはようございます」
「うむ! おはよう!」
と、造船所にやってきた俺達が挨拶をしたのはアウリアだ。にこにこしていてかなり機嫌が良さそうに見える。コルリスやアンバー、ティールといった面々ともハイタッチしたりしていた。
少し遅れてタルコットとシンディー、ヘルフリート王子とカティア、メンダコのソロン。バルフォア侯爵やドロレスと、今日同行する面々も馬車に乗って造船所にやってくる。
タルコットがエスコートするようにして馬車から降りてきて、仲睦まじい様子だ。ヘルフリート王子とカティアも相変わらず仲が良さそうで結構なことだな。
そうして朝の挨拶をしつつ、まずは快速船の外観から見ていく。
「普通の船とは見た目からして違いますね」
エレナが興味深そうに言う。
「帆船でも櫂船でもないので、今までの船と形状も変えられるだろうというのがあったわけですね」
「見た目に関しては、シリウス号も参考にしていると聞いておりますな。艦橋ではなく船橋と言うべきでしょうか。船橋下部は客室等と一体になっていますね」
ドロレスとバルフォア侯爵が快速船の解説をしてくれる。なるほどな。帆がない分甲板が広々としている。シリウス号の場合は甲板に防衛用の戦力を置いたり竜騎士や幻獣騎士の発着に使っていたわけだが……快速船は軍船ではないしな。他の用途に使う事ができるというわけだ。
甲板の中央からやや後ろ側が上に迫り出した構造になっていて、そこが船橋になっているというのはシリウス号と同じ。船長はそこで船をコントロールするというわけだ。
ただし船橋の下部に客室もあり、乗客は高い位置から周囲の眺めを楽しむことができる。船の大きさは結構なもので積載量等も結構あるようだ。
船長も紹介されたが、こちらは造船研究所お抱えの人物とのことだ。
「元は商船の船員だったのです。船長が引退して、副長が引き継ぎ、新しい体制に移行する予定だったのですがね」
「悪天候の影響で船が座礁してしまったのですね。全員の面倒は見られないと言われたそうで」
「まあ、当時はそれでも何とかなるだろうと。それで陸に上がっていたところを、造船研究所に声をかけていただいて。色々な仕事をこなしていたら新型船を任せて頂いたというわけですね」
ドロレスの言葉に苦笑する船長である。
「航海士として優秀な方だと、副長の方から紹介を頂いていたと聞いていますよ」
「当時は見習い航海士ですよ。まあ見込みがある、程度ではないでしょうか」
なるほど。経歴的にはタルコットの心情も理解できそうな人物かな。そんな船長はタルコットとシンディーとも言葉を交わし、今回の航海の主賓ということで朗らかに一礼していた。お互い良い印象を抱いたように見えるな。
そのままみんなでタラップを昇り、荷物を船室に預けがてら船内の案内をしてもらう。
甲板は帆がない分、やはり広々としているな。
「刻印術式が施してあり、船体が安定しているので甲板を多目的に使う事ができる、と考えています。荷物を載せて固定して運ぶだとか乗客の交流や航海中の宴席に使うといった用途ですね」
ドロレスが解説してくれる。
なるほど。地球の貨物船も甲板部分にコンテナを載せるという運用をしているしな。
客船と貨物船の中間といった感じなのも、試験的に運用しているからどういった使い方が良いのか模索している部分があるだろう。
「荷物を載せるのと同じように必要に応じて客室を甲板部分に据え付けて一時的に増加させるなんてこともできそうですね」
コンテナのように増設するという運用だ。
「素晴らしい案です。研究所に持ち帰り、皆で検討してみましょう」
ドロレスは感心したような声を漏らしていた。
そんなわけで客室に案内されたが、中々広々としていて過ごしやすい。賓客用の客室ということで、船体下部の船室とは流石に内装が違うという話であるが。
下部はそうした船室の他、ダンスホールやサロンもあって、そこには大きな水槽まで用意されていた。水槽を置いて船内にいながらにして色とりどりの観賞用の魚を楽しめるという趣向らしい。
船倉も広々としており、積載量も結構なもののようだ。タームウィルズで手に入れた品を積んでいて、今回の新婚旅行の送迎に合わせ、新型快速船の貿易、輸送に関する役割の確認もしている、というわけだ。
「内装も綺麗で、過ごしやすそうで良いですね」
「設備も充実しているものね」
グレイスが笑みを見せ、クラウディアもうんうんと頷く。風呂等々の設備もしっかりしている感じだな。
客室に荷物を置き、船内の各種設備、避難用経路等の案内を受けた後、船橋へと案内される。
「それでは――出航と参りましょう」
船長がそう言って船員達も各種設備に異常がないことを伝声管で報告を入れ、快速船が動き出す。操船の様子もしっかりと見せてくれるというわけだ。
水流操作パネルによる推進方式だからな。出航に際しての回頭もスムーズという印象だ。では――グロウフォニカへの船旅を楽しませてもらうとしよう。