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番外1951 そして春となって

 やがて冬の寒さも段々と緩み、雪が溶けてタームウィルズのあちこちでも春先に咲く花がちらほらと見え始め、春の訪れを感じさせる穏やかな暖かさも感じられるような日が段々と増えてくる。


 日々の気温が上がったり下がったりするので、子供達の体調管理は少し気を遣うところはあるが……精霊王の加護があるというのはありがたいことだ。その精霊王達も誕生日に顕現して祝いに来てくれたしな。ティエーラやコルティエーラ、テフラ、フローリアといった高位精霊も揃い踏みでフォレスタニアの精霊達もかなり活性化していたが。


 オリヴィアに続き、ルフィナとアイオルト、エーデルワイスが誕生日を迎えたのはそんな春に向かう日々の中でのことだ。

 オリヴィアの誕生日と同様、父さんや七家の長老達も毎回揃って遊びに来ている。孫の顔を見て触れ合いに来ているという感じで、子供達の成長を目にしたり、指を握ってもらったり笑いかけたりしてもらって、相当盛り上がっていた。


「おじいちゃん、おばあちゃんもその内覚えてくれるでしょうか」

「はは、私達の場合は曾祖父母や大叔父といった立ち位置ではありますが、そう呼んでもらえるのは悪い気はしませんな」


 と、長老達が笑い合う。

 母さんも事情を知っている面々が多いということもあり、お祖父さん達と談笑しながら子供達を腕に抱いて、うんうんと頷いたりしていた。


 俺も「パパ」や「おとうさん」なんて舌足らずでたどたどしいながらも呼んでもらったり、屈託のない笑顔を向けられたりすると頬が緩んでしまうしな。母さんが俺達に向けていた想いだとか、こうして遊びに来てくれる父さんや七家の長老達の気持ちも分かる。


 歩き始めに備えて贈り物として靴を用意してくれていたのも、寒くないようにケープを用意してくれていたのも、オリヴィアの時と同じ。髪の色等に合わせてそれぞれちょっとした飾りの色が違うけれど、デザインは同じだ。


 ロメリアとヴィオレーネの場合また事情が違うから通常の靴では合わないが、長老達は色々考えているので楽しみにしていて欲しいと言っていた。


 グレイスもそうだが、ステファニアもローズマリーも、新しく贈られたケープと靴を身につけた子供達を腕に抱いてみんなに囲まれて穏やかに微笑んだり、子供達との日々のちょっとした出来事を話題にしたりして、楽しそうな様子だった。いや、ローズマリーは羽扇で顔を隠しつつではあったが。


 そうして春もやってきて。タルコットとシンディーの結婚式を目前に控えつつもロメリアとヴィオレーネの誕生日も迎える。


 ロメリアの場合はラミアということでまだ人化の術も覚えていないから靴が履けないということもあったが、お祖父さん達は何と魔道具を作ってきてくれていた。空中戦装備ではないが、装着者の身体の下方、地面から一定の高さにシールドを構築してくれるというもので、靴の代わりになるもののようだ。地面から僅かに浮いた高さを移動できるようになるわけだな。


 しかも学連の塔の廊下に似たギミックが組み込まれていて、進行方向に薄いシールドが展開していく、と。ロメリアが装備しても自由に移動でき、しかも一定の高さ以上には展開されないので魔力切れで落下するような心配もないというかなりの優れものだ。当人の魔力を使うタイプではなく、魔石が魔力を供給する方式の魔道具である。


「まあ、いずれ人化の術を覚えたら普通の靴も贈りたいものじゃな」

「ロメリア姫に揃えて、他の子達にも別の折に役立つ魔道具を贈りたいものですなあ」


 と、そんな風に言ってお祖父さん達は笑っていた。曾孫への贈り物が結構本気モードの長老達である。


 ヴィオレーネに関しても、サイズを合わせた大きな靴だな。こちらもヴィオレーネの足の形に合わせての創意工夫が見られる。


 製作に当たってエインフェウス王国にも相談したのだとか。獣人としての形質の出方は幅があるから大抵の場合ノウハウもある。そんなわけでヴィオレーネの肉球保護も安心、というわけだ。


 まあ……そうやって細やかに気を遣ってくれた贈り物は有難い。デザインもそれぞれに合わせているが統一感があるし、父さんの贈ってくれたケープとの組み合わせも品が良いしな。


 更に、ロメリアとヴィオレーネの誕生日が過ぎて、エリオットとカミラの子であるヴェルナーにも誕生日がやってくる。


 エリオットからは俺達にお祝いのメッセージと共に、子供達が楽しめるようにとオルゴールを貰っている。


 俺達からお返しとして春用の上着をプレゼントとして贈りに領地まで行った。アシュレイがデザインを考えたもので……子供用のジュストコールだな。貴族家の後嗣が纏っているならば絵になって格好も良いと思う。


 アシュレイにとってヴェルナーは甥っ子だしな。俺達としても世話になっている相手だけに、一歳の誕生日に贈り物をしたかったわけだ。その上で、俺やみんなで裏地に魔除けの刻印術式の刺繍をしている。


「ありがとうございます。これはまた……良いものですね」

「ああ。これはヴェルナーに似合いますね」


 ヴェルナーに早速羽織らせて、にこにことしているエリオットとカミラだ。アシュレイもヴェルナーに似合うと思うデザインで考えてきたからな。


 後は俺達の身の回りではコルネリウスの誕生日となるが――。これはもう少し後だ。タルコットとシンディーの結婚式を経て、病院が開院するまでの間……春から夏に移り変わる頃になる。


 ここ1年で生まれた身近な子供達が順調且つ健康に育っているというのは喜ばしいことだ。

 それに……病院ができることで、タームウィルズや転移港で繋がっている街の新生児や乳幼児の成長や健康にも恩恵があるだろうし。知り合いかそうでないかに関わらず、病院が色々な人の役に立ってくれたら何よりだと、そう思う。




 そんな調子で子供達の満一歳の誕生日も過ぎて……タルコットとシンディーの結婚式の日程が近付いてくる。


 二人の新居に家具類も揃い、結婚指輪も仕上がってきた。今日は工房でウェディングドレスの仕上がりを見る予定で、これが終わればもう準備も万端といったところだ。

 結婚前に花嫁姿を見るのは縁起が良くないとされているので、タルコットはシンディーの花嫁衣裳を見る事はできないが。


「シンディーの姿は見たいのですが……当日までの楽しみにしておきます」

「気持ちは分かるよ」

「まあ、俺達もそうだったからね」


 俺とアルバートもタルコットに付き合って、シンディーがドレスに着替えて別室で女性陣が仕上がり具合を確かめている間に工房の一室で待機中だ。タルコットのそんな言葉にアルバートと俺がそんな風に言うと、タルコットも苦笑していた。


 やがてグレイス達やオフィーリアも確認が終わったのか、こっちに戻ってくる。職人面々はまだ確認事項があるのだろう。シンディーと一緒にいるようだが。


「良かったですよ。シンディーさん、お綺麗でした」


 ドレス姿を確認してきたエレナが笑顔を見せてそう言うと、オフィーリアも頷く。


「流石というか、職人面々は大変良いお仕事をしていましたわ」

「染色がすごかったわ。流石の技術力だわ」


 ステファニアもうんうんと頷く。俺達がいつも世話になっている仕立て屋のデイジーも協力してくれているしな。更に細かい装飾を工房の職人面々が気合を入れて準備を進めていたので、その辺、かなりの完成度になっているはずだ。


 タルコットはそんな話を聞きながらも、瞑目して静かに頷いたりしているが。色々と想いを巡らせているのかも知れない。


 ともあれ、シンディーのドレスも完成ということで、後は二人の結婚式当日を迎えるだけだ。万端準備を整えて臨めるということで、二人としても後は楽しみに結婚式や新婚旅行、新居での生活を待つだけということになるな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >誕生日に顕現して祝いに来てくれたしな。 大地母神二柱「鰻を見つけたら、すぐに教えてね」 (子供の頭を撫でながら小声で) てお「おいこら」 >頬が緩んでしまう…
[良い点] まあ、いずれ人化の術を覚えたらシルクハットとタップシューズもコルリスに贈りたいものじゃな
[一言] >結婚式や新婚旅行、新居での生活を待つだけということになるな 新婚旅行にテオドールが同行するとまた事件が起こりそうですね
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