番外1950 一歳を迎えて
さてさて。グロウフォニカからはローズマリーの伯父であるバルフォア侯爵、それにヘルフリート王子やカティア。メンダコのソロンもタルコットとシンディーの結婚式に列席するという連絡があった。
当日を楽しみにしているということで、バルフォア侯爵やヘルフリート王子達は水晶板越しにタルコットとシンディーに挨拶をしていた。
東国との航路開拓船――ヘリアンサス号開発の手伝いをしてくれたドロレスからもその時に、グロウフォニカを訪れた時の話をしていた。
ドロレスはグロウフォニカの造船研究所の職員だ。ヘリアンサス号開発のために技術協力ということで手伝いにきてくれたそうだが……グロウフォニカ本国でも水流操作のパネル推進式の船の開発が行われたということで、今回、ヘルフリート王子達もそれに乗ってやって来るそうだ。
『グロウフォニカに来る場合は、それで戻ってくることになるだろう。新型船による船旅。楽しんでもらえたら嬉しい』
というのはデメトリオ王の言葉だ。新型船はヘリアンサス号の焼き直しというわけではなく、帆がなくとも航行できることから色々と新しい試みを取り入れているらしい。
俺達にもそれを見て欲しいということで、グロウフォニカまで新型快速船に乗せてもらうということになった。
そこからはまあ、特に問題がなければ一応ボディーガードや連絡役として改造ティアーズとハイダーをつけ、転送魔法陣を描いた布を持って行ってもらうぐらいかな。新婚旅行ということで夫婦水入らずで過ごしたいだろうし。
まあ、ネレイド族や深みの魚人族のところに挨拶に行くかもしれないが。
「ん。新型船は面白そう」
「そうだね。俺としてもグロウフォニカの新型快速船はちょっと楽しみだな」
名前の通り結構な速度も出るそうなので、グロウフォニカまでの船旅も、そこまで時間はかからないとのことである。
「私達も楽しみにしています」
「うふふ。タルコットはあまり海に出たことがないって言っていたものね」
「ああ。旧カーディフ領も内陸部だったし、タームウィルズでも殊更に船に乗ってどこかにという機会がなかったから……」
タルコットとシンディーがそんなやり取りを交わす。
「色々新しい生活になるんだから、今までやってみなかったことに触れたりしてみるのも、悪くないかもね」
そんな話をアルバートがしたらしい。それで新婚旅行もその延長で考え、船旅はどうかとシンディーと話をしたというわけだ。春先という時期もあったしな。
ネレイド族曰く、春先は水温が上がってくるので少し海の透明度が下がってしまうそうなのだが、それはそれで別に見所もある、とのことだ。
春先の海、か。確か、春濁り、とか言うんだったかな。冬に少なくなっていたプランクトンが水温の上昇で一気に増えて一時的に海の透明度が下がる、とか何とか。
それに応じて生態系も豊かになっていくらしいが。まあ、ネレイド族の言う見所というのは楽しみにしておこう。
そうして、日々は一日一日と過ぎていく。そんな中で俺達も私生活では少しやることがあった。
オリヴィアが誕生日を迎えることとなったからだ。
ルフィナとアイオルト、エーデルワイスの誕生日がオリヴィアからひと月遅れ。ロメリアとヴィオレーネは更にもう少し後で春先の生まれだが、ここから誕生日が続いていくというのは喜ばしいことである。
その都度集まってお祝い等となると招待される側も大変なので、殊更招待を出したりはしていないのだが、身内で誕生日は祝う。お祖父さん達は肉親なのでフォレスタニアを訪問したいという打診を受けている。勿論歓迎だな。
というわけで今日はオリヴィア満一歳の誕生日だ。
「おめでとう、オリヴィア……!」
「おめでとうございます!」
誕生日の飾り付けをしたフォレスタニア城の一角にて、みんなで待っているとオリヴィアを腕に抱いたグレイスが入ってきて、みんなに拍手を以って迎えられた。
「ありがとうございます」
グレイスはにこにこしながら一礼した後、オリヴィアに目を向ける。
「ふふ……。嬉しいですね、オリヴィア。皆さんがお祝いしてくれていますよ」
グレイスもにこにことした表情で、オリヴィアがみんなの様子を見られるようにゆっくりとぐるっと回る。オリヴィアも何となく楽しそうな雰囲気を察したのか、嬉しそうに声を上げて、手を伸ばしたりしていた。うむ。
誕生日に合わせて、遊びに来てくれたのはお祖父さんや七家の長老達の他、メルヴィン公とミレーネ夫人、グラディス夫人。父さんとダリル、ネシャート嬢。工房の面々も顔を出してくれている。それに加えて普段からお世話になっているロゼッタとルシール。お祝いのメッセージもあちこちから水晶板越しに貰っていたりする。
「オリヴィア姫だけでなく、少し見ない間に、皆また大きくなりましたな」
「子供達もすくすく育っていて、本当に喜ばしいことよな」
誕生日を祝いに来てくれた七家の長老達はそんな風に言って、表情を緩めていた。
「身長や体重も順調に伸びているけれど、他にも色々なところで成長しているのが見られるわね」
そうクラウディアが言うと、グレイスも頷く。そっとオリヴィアを絨毯の上に降ろし、一歩、二歩と後ろに離れると、しゃがんで両手を広げた。
「オリヴィア」
オリヴィアが立ち上がる。そして――。
「マ、マ」
舌足らずでたどたどしい声ながらもオリヴィアが言葉を発して、一歩二歩と、グレイスを追って立って歩く。数歩歩いて、グレイスに縋り付くようにして抱かれにいったオリヴィアに、居並ぶ面々――特に七家の長老達の表情が緩む。
「おお……。言葉まで……!」
「初語を話したのはつい最近だったりするのですが……その時はみんなで大喜びでした」
「うんうん。親としては喜ばしいことでしょうなあ」
「これは喜ばしい」
そう言ってみんな大盛り上がりだ。
「立って歩くのなら、ヴィオレーネも得意よね」
「ん。獣人とラミアの子は少し早熟」
ローズマリーが言うと、シーラが頷く。ロメリアの場合は立って歩くというか、ラミアなので割と早い段階で、一人で遠くまで動けるという状況だ。
「歩けるようになると目が離せなくなりますが……境界公の場合は、ティアーズ達もついていてくれますから安心ですな」
エミールがそう言うと改造ティアーズがマニピュレーターを振って応じる。うむ。
子供部屋は歩き回っても大丈夫なように尖ったものや誤飲、怪我を招くような危険なものは置いていないし、夜泣き等も循環錬気のお陰であまりなかったし、ティアーズ達がそれぞれの子供達についていることで、24時間細やかな対応ができている、というのはある。
ロゼッタとルシールの健診もあり、子供達の成長は順調だな。
「しかし丁度良いものでしたね。1歳のお祝いということで贈り物を持ってきたのですよ」
長老達の一人、グレメンティーネが一同を代表して贈り物を出してくれる。箱に入った贈り物は――靴だな。これから立ち歩きすることも増えてくるだろうからという事なのだろうが、タイムリーな感じである。
靴は小さく可愛らしいものだ。サイズの調整ができるもので、ある程度成長に合わせて使っていけるようである。
「これは――ありがたいですね」
「ふふ。役立てていただけたら嬉しく思います」
「私からはこれを」
と、父さんも贈り物をくれる。こちらは防寒を兼ねた品の良いケープだな。まだまだ寒い日も続くのでこれも嬉しいことだ。
そうやってお礼を伝えてからみんなで子供達のことをあやしたり、水晶板の向こうからお祝いの言葉をもらったりしながら食事会をしたりして、のんびりと誕生日は過ぎていったのであった。
いつも応援いただきありがとうございます!
今月、12月25日に書籍版『境界迷宮と異界の魔術師』18巻、及びコミックス版9巻が同時発売予定となっております!
詳細については活動報告でも掲載しておりますが、今回も18巻は最終巻ということで大幅増量。コミック版も収録内容に沿って書き下ろしSSを収録しております!
それぞれの特典情報に関しましては情報が公開され次第こちらでも告知していこうと思っております。
改めて、こうして最終巻まで到達できましたこと、読者の皆様に御礼申し上げます。本当に、本当にありがとうございます!
ウェブ版の更新、コミックス版、それにもう少し先になるかと思いますが何かしらのウェブでの新作等々の構想等々、今後も頑張っていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します。