番外1948 新居構想
「おおー。これがお二人の新しい家ですか」
「可愛らしい感じの家ですね。素敵です」
家具を作るに当たって家具を置いた時の実際の感じを掴みたいと、ビオラ達工房の職人は実際にタルコットとシンディーの新居となる家を訪問していた。
こじんまりしていると言っても、見た目の話で内部は意外と広いし快適だからな。居間、寝室にクローゼット、子供部屋、中庭に地下室もあって、
「窓からの眺めも素敵ですね……!」
「本当ですね。フォレスタニアは夜景も綺麗ですから」
窓を開けて外の景色を見るコマチに、カーラがうんうんと頷く。間取りを見て「ここはどんな風に使う予定でしょう?」と質問したりして、楽しそうなシンディーや職人面々である。
「衣装をここに収納、となるとここに寝台を置いて……」
「鏡台はこの辺に置く感じで――」
「窓からの眺めや家の建築様式に合わせたいですねえ」
「それはありますね……!」
と、盛り上がりを見せて気合を入れていたりする。
マルレーンもランタンを取り出して幻影を映し出し、タルコットやシンディーの希望に職人面々の家具イメージを作る手伝いをしていた。
俺も契約書は作ってきたので、合間を見つつタルコットとシンディーにそれを確認してもらう。
「これで内容は間違いないかな?」
契約書の内容をしっかり確認してもらう。タルコットとシンディーは揃って内容に目を通していたがやがて頷いた。
「間違いありません。色々融通していただいて、感謝しています」
「将来的にも安心できると言いますか」
「んー。二人の事は応援してるからね」
工房の魔法技師としても期待しているというのもそうだが、アルバートに声をかけてもらってからのことを近くで見てきた身としてはタルコットの努力も、そんなタルコットをシンディーが正当に評価してここまでやってきたことも知っているからな。
そんな二人だから、仕事も家庭も上手くいって欲しいと思う。金銭的な部分では将来的に子供が生まれても問題ないだろうと見ているが。
支払いで身動きが取りにくくなっても窮屈だろうというのはあるので、途中で状況が変わった時にも融通が利くような契約にはしてある。
新生活に向けて、新居選び等も気軽に前に進めて欲しいしな。不安が少なければ二人の間の不和の種も少ない、というわけだ。
契約書の確認も終わり、ここにこんな家具を置いてみたい。中庭から湖を眺めつつ寛げたらいいかも知れない、と現時点での希望や将来の展望を口にしつつ、タルコットとシンディーは微笑み合う。ビオラ達はメモをとりつつ、家具の見積もりを出していた。
鏡台や箪笥、机や椅子、皿等の家具類。厨房用の水作成の魔道具、竈の点火用魔道具、風呂場用の温水魔道具やらも諸々含めてのものだが、こちらも工房職員価格ということで、かなり割安なのは間違いない。ビオラ達が一流の職人という事も考えれば、実際相当破格の安さと言っても良い。
そんな調子でタルコットとシンディーの新居の構築も進んでいった。平行してウェディングドレスや指輪の準備も進めているからな。その辺諸々済んだら実際に結婚式ということになる。
結婚や新居と言えば、ヘルフリート王子も色々準備を進めているらしい。こちらはネレイド族が色々世話を焼いているらしく、ネレイド族集落近辺の島と、海中の家とを利用することになるだろうとのことだ。
ヘルフリート王子とカティアについてはヘルフリートが王族ということもあって事前の根回しや準備等も入念にしなくてはいけないが……工房として新生活の支援は歓迎だし、結婚式の演出等も引き受けられるので気軽に相談してもらえれば、というのは伝えていたりする。まあ、平和になってあちこちで結婚や縁談も進んでいて結構なことだ。
病院の外観の完成、搬送システムの設置が終わり……協力してくれる治癒術師や医師、薬師達も早速訪問してきて実物がどんな感じになっているのかの見学会が行われた。
ロゼッタやルシールを始め王都内外からかなりの顔ぶれが集まっている。王国お抱えの者達もいれば、学舎や冒険者ギルド所属の者、地方で仕事をしている者もいるな。
実際に通報システムと搬送を体験したり、病棟の中を歩いてどういった設備にどういった魔道具が置かれて、これらをどういう体制で運用していくのがいいのかという、下見と話し合いだ。
まずは街中の搬送システムを実際に体験するということで、ティアーズ達を呼んでストレッチャーに乗って病院屋上に移動もしてもらった。
まずレビテーション等に慣れている治癒術師が搬送される役を買って出てくれて、割合楽しそうにストレッチャーで運ばれていった。
ちなみに闇魔法には心を落ち着かせる術もあるから、空中搬送される恐怖心を和らげることも可能だな。
「素晴らしい速度です!」
通報からやってくるまでの時間。搬送されて緊急処置室に運び込まれるまでの時間を体感して、治癒術師はかなり感動していたようだ。
一人一人搬送されて病院に移動すると、そんな風に言って、やや興奮した様子で喜びを露にしていた。
今度はそのまま浮石エレベーターに乗って病院内を移動し、正面入口側に回る。
「患者が正面入り口から入った場合――門をくぐった時点で解呪がなされます。呪い等を受けていないことが確認できれば、そのまま受付を行います。患者の状態の記録を残しておいて、次回来た時に照会できるようにするというわけですね」
受付より前にゲート部分での解呪が最初に行われる、というのが普通の病院との違いか。
そうして受付を済ませたら待合室へ。そこから診察室へ向かい、処置を行う、というのが通常の手順だ。そこから必要なら各種検査や入院となるが……まあ、治癒術やクリアブラッド等も当然用いるので、入院まで行く患者は相応に少なくなると思う。
通常治療で済むと思われる症例ならば魔道具で間に合う。そうすれば安めに治療費用をあげられるというのはあるな。
「検査と問題の切り分けによる原因の特定と治療。患者に応じた対処法の開発、研究によって治療をより高度なものにするという目的もありますから、通常の治療で根治できないと判断される症例に対してはもう少し時間をかけて対応することになりますね」
「例の血析鏡や魔力ソナー等々による分析ですな」
薬師の言葉に頷く。
それに応じて必要と思われる処置をし、更に分析を行うことで有効性の判定をしていくというわけだ。薬の効果も経験則に頼っている部分があるし、どういう理屈でどの成分が有効に働いているかも調べて、その成分を割り出すことができれば抽出して更に効能を上げることも可能かも知れない。
「この辺は錬金術の範疇でもあるかしら」
「ベアトリスに協力を求めるのも良いわね」
クラウディアがそう言うとローズマリーも頷いて応じる。ベアトリスには何度か世話になっているしな。薬効成分の抽出だけでなく、魔法薬等の作製等でも依頼すれば力になってくれるだろう。
そうやって病院内を巡り、発熱外来での対応や緊急搬送されてきた患者の処置方法などを打ち合わせ、マルレーンのランタンによる幻影で完成予想図も披露し、各種設備の使い方などを解説していく。この辺は後で仮想空間に行けばよりリアルなシミュレートも可能だろう。
その上で病院にどのぐらいの頻度で顔を出し、どの程度の期間治療や研究の協力を行ってくれるのか。そうした部分の希望を聞き、運用できるようにローテーションを組んでいく。
足りない人員は改造ティアーズやゴーレムといった魔法生物で補うことになるが……まあ、協力を申し出てくれている面々は結構多い。それなりに余裕をもって運用できそうだ。
次の夏が来るまでには、病院も実際に動かせるのではないかと思う。