番外1944 工房関係者の宴にて
そしてタルコットとシンディーのお祝い当日がやってくる。
工房の面々。アウリアやゴドロフ親方。審査会に協力してもらった二人。その前から義肢の試験で協力してもらっていたデニースとホレスもやってくる。
迎えのゴーレム馬車に乗ってフォレスタニア城までやってきた面々を、橋を渡ったところにある正門前で出迎える。
「ようこそ、フォレスタニア城へ。歓迎するよ」
「今日はこのような席を設けていただき、ありがとうございます」
今日の主賓でもあるタルコットとシンディーが俺の言葉に一礼で応じる。アルバートもそんなタルコット達の様子に笑顔を見せて。そうしてみんなを連れて城内へと進む。
まずは宿泊の為の客室に案内し、手荷物等を置いたら迎賓館のホールに集合だ。既に料理の準備等も万端整えてあるが……まずは今日の祝いの席の意義というか、タルコットとシンディーの報告を聞いてからだ。
「それじゃあ、二人とも、まずは例の物を」
みんなが見守る中、アルバートが朗らかな笑顔で促すとタルコットとシンディーが前に出る。
「では――」
そう前置きしてタルコット達が取り出したのは、ミスリル銀で作られたメダルだ。ヴェルドガル王国から正式な魔法技師として認められた証だな。
出来上がったら連絡が来ると審査会では言っていたが、こちらも無事にタルコットとシンディーの手に収まったらしい。
「この度、揃ってヴェルドガル王国において正式な魔法技師として認められたことを報告します」
「今後も二人揃ってブライトウェルト工房の魔法技師として精進していく所存ですので、これからもよろしくお願いしますね」
そんな挨拶にみんなから温かな拍手が起こる。
「この記章は、側面に名前と日付、番号が刻まれていてね。僕の場合は実名だったからアルフレッドを名乗っていた時は中々他人に見せにくかったんだけど、父上が後ろ盾だったからね」
アルバートも自分のメダルを見せてくれる。細かな意匠が施されたメダルは、審査会の日付と番号、それに名前が刻まれている。
「この番号はこれまでに認められた魔法技師に対し順番に振られていくもので、先達から連綿と続いているわけだね」
「私は、タルコットと連番ね」
アルバートの解説に、シンディーが表情を綻ばせ、タルコットも少し照れたように頬を掻いていた。アルバートの番号から数えてのタルコットとシンディーの番号はそこまで離れていないので、まあ中々狭き門でもあるようだ。
魔法技師協会に行けば名簿も見られるとのことで。アルバートやその師。同門のスチュアートの名前もそこに載っているし、当然タルコットとシンディーの名もそこに書き加えられているという事になるわけだな。
タルコットは、そんな話を聞きながら、真剣な表情でメダルを見やる。それからやがて頷いて言った。
「先達に恥じないように精進したいと思います。それから、もう一つ報告したいことがありまして。その――」
そこまで口にしてから少し言い淀み、咳払いをしてから言葉を続ける。
「シンディーのご家族に、挨拶に行ってきました。正式に交際を認められまして……今はシンディーと正式に婚約者という関係になりました」
「諸々準備が整ったら、結婚することになると思います」
タルコットの言葉を受けて、シンディーも笑顔を見せてタルコットに寄りそう。そんな報告に、周囲から温かな拍手が巻き起こった。
「おめでとう、二人とも」
「うん。おめでとう」
「おめでとうございます……!」
と、みんなからも祝福の言葉を掛けられ、はにかんだようにタルコットも笑い、シンディーもにこにこと微笑んでいた。
「二人の新居も探さないといけないね」
「東区も確か空き家を見かけたけれどフォレスタニアも土地が空いてるよ」
「フォレスタニアにですか? 東区は工房から近いですが、そっちも素敵ですね」
工房までの通勤は少々手間にはなるが、二人さえ良ければというところだな。
工房の魔法技師ということでフォレスタニア在住であるなら、こちらとしてもセキュリティ周りのフォローがしやすいしな。平時は良いが、有事はブライトウェルト工房で武器開発も行ったりするので、工房関係者が狙われるというのは有り得るし。
「何といいますか……こういう話は一気に進むものなんですね」
「ああ……。それは俺の時も同じことを思った」
「確かに。僕の時もそうかも知れない。憂いがなければ、前に進んだ方が嬉しいことだからかな」
タルコットの言葉に俺やアルバートも同意する。グレイス達やオフィーリアも楽しそうに頷いていたりするな。
「状況の変化に戸惑ったり不安を感じたり、なんてこともあるらしいからね。何か心配事があったら、誰かに相談するのも良いと思うよ」
「そうですね。気軽にお話していただけたら嬉しいです」
エレナがシンディーに言う。シーラやイルムヒルトもうんうんと頷いていた。
マリッジブルーという奴だな。新居探し、指輪や花嫁衣裳。式の準備、招待客の選定に招待状……と色々やることも多い。結婚相手との関係性の変化も起こる。新生活への不安やというのは多少なりともあるものだ。
これは男女関係なく起こり得るものなので、そこはそういうことが良くあるものと理解し、周辺への相談もしやすい環境にしておくことで不安を感じても低減や解消ができるようにしておく、と。
「まあ何にせよ今後のことはまた明日以降かな」
「そうだね。今日はみんなで二人のお祝いということで」
アルバートと共に頷いて。そうしてタルコットとシンディーが前に通され、みんなに飲み物が行き渡ったところで、タルコットとシンディーが口上を述べる。
「今日は、私達の祝いのためにこのような席を設けていただき、感謝しています」
「これからも魔法技師としてタルコットと共に頑張って参りますので、どうぞよろしくお願いしますね」
そうして乾杯すれば、迷宮村と氏族の面々が音楽を奏で、歌声を響かせた。料理が運び込まれきて、祝いの席が始まる。
祝いの席の料理に相応しく、見た目が豪勢になるような料理にしている。スプリントバードの香草詰めだ。スプリントバードはかなり大型の鳥の魔物だが、専用の窯を土魔法によって即席で作れるのが強みだな。
アクアゴーレム達が香草詰めを切り分けてくれる。たっぷりとした皮付きの鳥肉はハーブによって食欲をそそる香りを漂わせているな。内側だけでなく外側にもミックスしたハーブをまぶして焼いているので、爽やかさとスパイシーさがあって美味である。
料理はビュッフェ方式で好きなものを食べられるという形式だ。
色々な食材を挟んだサンドイッチ。サラダ。エビチリ。白身魚やポテトフライ。トマトスープ。それにフルーツを使った飲み物やゼリー、タルトといったデザートといったところである。
冬場なのでもっと温まるような料理が多くてもいいのだが、フォレスタニアの場合は寒いというわけではないからな。
楽士役をしてくれている迷宮村の住民の、演奏や歌が上手いのは以前からの事だが、氏族の面々もかなり上達しているのが窺える。楽しそうに迷宮村の面々と演奏している様子は、氏族としても新しい楽しみを見出しているように見受けられる。
そんな調子でみんなの成長も眺めつつ、宴の席を楽しませてもらう。今はビオラ達工房の職人達がウェディングドレスや結婚指輪を作ってみたいという話をタルコット達に持ち掛けていたりして盛り上がっているな。
アウリアやゴドロフ親方達も美味しそうに料理を楽しんでいて。そうして賑やかに宴の時間が過ぎていくのであった。