番外1943 工房への帰還とお祝いと
「いやあ、良かったです……!」
「二人とも嬉しそうで何よりだわ」
アシュレイが言うとステファニアも笑う。ビオラやエルハーム姫、コマチやカーラ、ヴァレンティナといった面々がハイタッチしていて、シーラやマルレーン、セラフィナもそこに混ざっていた。中々楽しそうなことである。
さてさて。モニターの向こうではタルコットとシンディーが、これからの事について役人から通達を受けていた。
『私達の連名にて、タルコット殿とシンディー殿は現時点より正式な魔法技師、という事になります。お二人の名を刻んだ記章が身分証となりますが、これは出来上がり次第ブライトウェルト工房へと連絡がいくことになるでしょう』
『わかりました』
『よろしくお願いします』
改めて審査官達から拍手が起こりタルコットとシンディーは深々とお辞儀をする。
『これからも、魔法技師として精進していって下さい。将来有望な若手として、期待していますよ』
『ありがとうございます』
スチュアートにそう声をかけられ、タルコット達が居住まいを正して応じ……そうして再び義肢を装着した協力者二人と、揃って部屋を退出する。
『改めて、おめでとうございます』
『こちらこそ。快く協力してくれて、感謝しています』
『お礼を言いたいのはこちらの方ですよ。素晴らしい魔道具です』
『病院の事と合わせて、これからこの魔道具に助けられる人が沢山いるかと』
そう言って笑う二人である。というわけでまた馬車に乗り込んで、一同が工房に戻ってくる。魔道具については二人とも余程気に入ったのか、空いた手で撫でていたり、車窓にかざすように眺めながら手を握ったり開いたりしていた。それを見て、タルコットとシンディーも穏やかに笑う。
やがて馬車が工房に戻ってくる。俺達もそれに合わせて中庭に出て出迎えた。
「おかえり、4人とも」
「ただいま戻りました。私もシンディーも審査会を通ったことを報告します」
「緊張しました」
「うん。おめでとう! あっちの様子は見せてもらっていたよ」
真剣な表情で報告してくるタルコットと、はにかんだように笑うシンディーである。アルバートも笑って祝福の言葉を口にして、俺達も拍手を以ってタルコットとシンディーを迎えた。
「改めて……ありがとうございます。審査会でも言われましたが、本当に周囲の人に恵まれた、と噛み締めているところでもあります。これからも、よろしくお願いいたします」
「こうして魔法技師として認められても、まだまだだと実感すること、学ぶことが多いと感じています。これからもどうぞよろしくお願い致します」
タルコットとシンディーが揃って一礼してくる。
「こちらこそ。これからもよろしくね。二人も、協力ありがとう」
アルバートは朗らかに笑って答えると、協力者の二人にも礼を伝える。協力者達はこちらこそと応じていた。
審査会も終わり、契約魔法はもう更新されているため、義肢については二人専用のものとなっている。アルバートはその辺も伝え、今後何か不具合が起こったり、破損や故障した場合は工房を訪れてきて欲しいと伝えていた。
「ありがとうございます……! 冒険者ギルドにも行って、挨拶をしてこようかと」
「そうですね。俺もゴドロフ親方のところに顔を出してこようかと思います」
「うん。アウリアさんや親方にもよろしく伝えておいて」
後日タルコットとシンディーのお祝いをするので、アウリアとゴドロフ親方、協力者の面々を招待するという話にもなった。二人は必ず伝えますと、そう言ってそれぞれ工房から出ていく。
「これからも皆で一緒にずっと働けますね!」
「ええっ。嬉しいです」
ビオラ達と談笑しているシンディーを見てタルコットが静かに言う。
「俺も……挨拶に行かないとな……」
シンディーの親元への挨拶か。うん。審査会は無事に終わったが、タルコットにはもう一つ越える山場が残っているわけだ。
「はは。頑張ってきてね、タルコット」
アルバートが苦笑すると、タルコットも少し笑って頷く。とはいえ、アルバートとしてはそこまで心配していないようで。大丈夫だろうと見ている部分もありそうだ。アルバートはシンディーの家族とも面識があるようだしな。
「まあまずは何にせよ、審査会までの疲れを癒してからだね。二人とも審査会に向けてかなり気合を入れていたし」
工房や火精温泉でのんびりしてもらってから動くという形でもいいのではないだろうか。
そんな風に提案すると、アルバートも同意する。
「そうだね。今日は工房の仕事はお休みにして、この後、温泉に出かけたりなんてのも良いかも知れない。ビオラ達も頑張っていたからね」
「ふふ……良いですわね」
とまあ、そんなわけでその日は工房の仕事も切り上げて、お茶や焼き菓子を楽しんでのんびりした後で、温泉に向かったが……急には貸し切りに出来ないのでテフラの儀式場側に作られている温泉設備に足を運び、そこで身内だけでの審査会合格の休息と労いを行ったりした。
俺は今回、術式を書くぐらいでそんなにしてやれる事がなかったからな。儀式場の設備を使って料理するのも良いかと、ローズマリーの魔法のカバンに収められている食材を使って食事の準備も行うことにした。
タルコットとシンディーに何か要望はあるか尋ねてみたところ、カレーが良いとの回答をもらったので、チキンカレーを作ってみんなで食べたり、温泉に浸かって疲れを癒してもらったりしたのであった。
それから数日……。
工房の面々。アウリアとゴドロフ親方、それから協力者達を招いての祝いの席の準備も進めていく。その間、タルコットはシンディーの家へきちんと挨拶に向かったようだ。
『どうなったのかの詳細は、フォレスタニアでのお祝いの席でね』
アルバートは水晶板越しに笑ってそう言っていたが……お祝いの席で詳細を話すというのが答え合わせのようなものだ。恐らくタルコット達から良い報告を聞くことができたのだろう。
「それじゃあ、こっちは予定通りに準備を進めて良さそうだね」
『うん。楽しみにしてるよ』
といったやり取りを経て、お祝いの準備を進めておいた。病院に関する計画も着々と前に進んでおり、資材は南側に集積されているので、そろそろ魔法建築に移ることになるだろう。
今回、病院自体は衛生面も考えて建築段階から色々と手を加える必要があるから、魔法建築を行っていくわけだが……病院の敷地を囲む円形の外壁については別だ。
土台部分だけ俺達が構築し、後は通常の工事で行っていくことになる。これは雇用創出にもなっているが、建築中に病院の外観をより多くの人に見てもらい、知名度を上げて周知を行う、という意味もあるな。
最後まで街道や南門から見やすいような順番で外壁を構築していく、という手筈である。魔法建築で先に完成するであろう病棟を、しばらくの間外からでも眺めることができるはずだ。
この辺、造船所や転移港は機密性の高い性質の区画でもあるからな。内部構造をあまり詳らかに見せるわけにもいかない部分があったが、病院は民間とも関わりが深くなる施設でもあるので。
ともあれ、病院側の資材もほぼ揃ってきているので、タルコットとシンディーのお祝いが終わったら魔法建築に着手する事になるだろう。
病棟や街中からの病院への通報設備や搬送手段もその魔法建築の内容に含まれる。これも義肢と合わせて工房で手掛ける魔道具、ということになるな。搬送手段については改造ティアーズと浮遊型メダルゴーレム達に動いてもらう事になるとは思うが。