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番外1942 老魔法技師の見解

「まず、この魔道具は触れた時の感覚も再現されていて、例えば指先の感覚が必要な仕事も細かやかにできるように、という工夫がなされています」

「術式自体は私達の組み上げたものではありませんが、そうした特性のある義肢とご理解下さい。一応、使用感を確かめることのできる試験用魔道具も持ってきています」


 協力者の装着した義肢を見てもらいながら、義手や義眼をテーブルの上に置く。


「それぞれ、使用者の特性、希望に合わせて調整を施しました。私が担当した方は冒険者なので、基本的な部分の機能に加え、瞬発力や腕力、耐久性能等……野外での活動や魔物と戦うことを想定した部分に重きを置いています」

「私の担当した方は工房で働く職人ですので、緻密な力加減や指先の動きの正確性を重視しました」


 という、タルコットとシンディーの説明に一同ふんふんと頷きながら聞き入っている。具体的な性質の違いについて話をしたところで、義肢の性能を見せていく。


「まずは日常生活における使い勝手からですね」


 羽ペンを握った二人が、紙に自分の名等、文字をさらさらと書いてみせる。薄い食器を摘まんでみせたり、針に糸を通したり、重量のある鉄のインゴッドを持ち上げたりと……基本部分の日常生活において支障がないことを見せていった。


「使用感は良いですね。脆い物を扱うことも、重い物を持つことも問題ありません」

「感覚があるので触れた時の感覚や重さ、熱さや冷たさも伝わりますし、怪我をしないように自身で見極めることも可能かと」


 生身と違いの感じる部分としてはやはり素材の違いに由来する部分だろうか。肉体とは違うので触れた側が柔軟に凹むということはないから感触が異なる。木魔法によって合成した樹脂素材なので指先が滑らず柔軟性もあり……そうした部分は魔力によってゆっくりとした修復を施すといったこともできるが、感触の違いには慣れる必要があるな。


 それから、今回の審査会に置いて肝心な部分。タルコットとシンディーが調整を施した部分へと焦点が移る。


『では、俺からですね』


 冒険者が武器の使用許可を受け取り、戦斧に闘気を纏ったかと思うと、金属板を張り付けた盾を空中で両断して見せる。


『おお……。相当な技量だな……』

『一度引退する前と比べても、かなりのものです』


 工房ギルドから来ている審査官が声を上げ、拍手を送る。冒険者ギルドの審査官は彼の以前の技量を知っているようで、納得したように頷きながらもそう賛辞を送っていた。


『引退していた分、鈍っているところがあるのは否定しません。それを差し引いても自分では納得のいくものと感じています』


 瞬間的な力だけでなく、腕力や握力を示しつつ、義手の強固さを示すように金属鍋の底を掴んでひしゃげさせる。


『今度はこっちの番ですな』


 凹んだ鍋を今度は職人の協力者が綺麗に治すことで、義手の性能や戻ってきた技量の程を示すというわけだ。ハンマーで微妙な力加減を加えながら叩いていき、鍋の形を綺麗に整えたり、木を掘って精巧な鳥の頭部を作り、力加減や精密動作性、器用さという面でも十分な性能を発揮できるということを示していく。


『見事なものです』

『俺も一線から遠ざかっていたのでまだ勘が戻っていないところはありますが、その辺も慣れてくれば昔のように……いや、昔よりもっと良いものを作れると思っています。生身ではないので反動などで感じる感触の違いも、やはり慣れでしょうな』


 拍手に対して、自身の所感を伝えるドワーフの職人である。

 試験用の義肢も審査官に触れてもらい、基本的な性能はどんな感じなのか、というのも見てもらう。


『おお……。本当に義眼で物を見る事ができる』

『義手の方は……試し切りや装飾等には当人の技量もあるのでしょうが、基本的な機能として字を書く、物を持ち運びする、斧を振るうといった、日常に必要な動作には大抵対応できる、というわけですな』

『……素晴らしい魔道具ですね』

『多くの者達に希望を与えるものでありましょう。そして……お二方の調整した部分についてですが――』


 審査官達は顔を見合わせ、タルコットとシンディーの調整した部分について話し合う。


『修復した鍋や盾の切り口を見るにつけ、一線級の技量を持つ方達でありましょう? その方達が納得のいくもの、勘が戻れば以前よりももっと、と仰る程なのです』


 商人ギルドの審査官が言う。審美眼、という意味では商人ギルドの目利きは確かなものだ。


 協力者の二人はタルコット達の手を借り、一旦義手を外してそれを審査官達に見てもらう。汎用型で体格に応じて調整できる、といった部分や造形の精巧さは魔道具ではなく外装部分の仕事ではあるから、今回の審査での評価点ではないが、確かな技量を持つ職人達を抱える工房であり、そんなブライトウェルト工房の魔法技師が推薦して送り出した、というのは評価する上での参考になる部分だろう。


 審査官達は真剣な表情で義肢を見聞していた。ちなみに義肢は契約魔法によってペアリングされるのでその人物専用という事になるが、今回は審査会までは第三者が動作を調べる事ができるというものになっているな。

 だから、試験用義肢との違いもある程度は比較して検討ができるはずだ。特に、魔法技師であるスチュアートはどんな調整が施されているのか、色々な動作を行って一つ一つ確かめているようであった。


 その上で時々タルコットやシンディーに質問をするという形で審査は進んでいく。


『戦士や職人の感覚というのは分かりませんが……だからこそその体感や矜持から来る言葉には、重きを置くべきと私は思っております』

『確かに。実際にその技量も見せていただきましたからな』


 提出するべきものを提出し、説明すべきことを説明した、タルコットとシンディーは説明する前よりも緊張した様子で話し合いの様子を見守っているようだ。水晶板の向こうで審査の様子を見せてもらっている俺達としても、その辺は同様ではある。

 特にアルバートは手を止め、真剣な表情で審査会の様子をじっと見守っていた。タルコットとシンディーの審査の行く末が気になって、他の事が手につかないのだろう。


 その中で、スチュアートが言う。


『使用者に合わせて細かな調整がされているというのは事実でありましょうな。彼らの職業や希望を踏まえた上で、きちんとした仕事がなされていると感じますよ。魔道具に関わった職人達の仕事もですが……良い環境に恵まれておりますな』


 そんな風に言うスチュアートは満足そうに穏やかな笑みを見せる。その言葉が決め手になったのか、審査官達は頷き合う。


『そろそろ決を採りましょうか』

『そうですね。私は……お二人が正式に認定を受ける魔法技師に相応しい技量を有するもの、と判断致します』

『同じく、私も賛成します』


 審査官達それぞれの意見が出揃う。審査官全員、タルコットとシンディーの技量を認め、賛成に回ってくれているな。その様子に、アルバートが安堵したかのように息を付き、コルネリウスを腕に抱いたオフィーリアがにっこりと笑う。


 そうして審査官達が頷き合い、タルコットとシンディーを見やった。役人が一同を代表するように一歩前に出て口を開く。


『ブライトウェルト工房のタルコット殿、並びにシンディー殿。我々はお二方が王国において正式な魔法技師に相応しい技量を有する者として認定致します』


 その言葉に、タルコットとシンディーは顔を見合わせ――数瞬の間を置いて、双方、喜びの表情を浮かべる。思わずお互い手を取って喜び合うが、審査会であるからか声を上げるのは自重したようだ。そんな様子に審査官達やモニターで見ているみんなも表情を綻ばせていた。

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[良い点] 「ワイの担当した方は鉄砲で柱ドツク下っ端やので、緻密な力加減や足の指先の動きの正確性を重視したんや」
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