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番外1938 病院作りの為に

 サティレスとルドヴィアで即席のパーティーを組んでの戦いもしてみたが、サティレスがルドヴィアの姿を隠すと相当に凶悪だ。狙撃点どころか、狙撃そのものが分からないまま移動し続けるルドヴィアに撃ち抜かれるし、そもそも仲間が撃ち抜かれた事自体に気付けないということまで起こる。対抗手段を持つ魔物がいない樹氷の森ではほぼ無敵だろう。


 そのまま樹氷の森を巡り、浮遊盾の試運転や訓練と共にゴーレムメダルやプリズムディアー、マンモスの肉。イエティの毛皮、その他魔石といった素材を手に入れた。


 いずれも……今結構需要のあるものだな。魔石はいわずもがな。ゴーレムメダルはそのままゴーレム作りにも魔道具作りにも活用できる。食材も確保してあって困るものではなく、自分達でも炊き出しでも使えるし、イエティの毛皮も防寒具を作るのには最適だったりするからな。いずれも病院や炊き出し関連で使えそうだ。


 イエティの毛皮の防寒具は普段使いするには色々と過剰だが、巨体な分一体で結構な人数分を賄えるしな。個別に衣服として配るのではなく、寒さが厳しい時や有時に毛布としても使うのが良いか。


「良いですね。頑丈なのでもしもの時に安心ですし、戦いの幅も広がります」

「私とサティレス殿では戦い方も使い方も浮遊盾の特性自体も違うというのは良いですね」


 浮遊盾の使い勝手や感想を聞いてみると、二人からはそんな返答があった。

 有事の際に使う場面が異なるが、ルドヴィアが外で使っても迷宮防衛の邪魔にはならない。ルドヴィアは支援と防御的な使い方をするし、サティレスは防御面を高めると共に盾自体を攻撃的な方向に使うからだ。勿論、必要とあらば浮遊盾に本体の幻影を被せて実体のある囮としても使える。今回はサティレスを捉える事すらできなかったからその必要がなかっただけで。


「浮遊盾の評価はかなり良さそうだね」

「ふふ。意匠も私達の好みにしてくれていますし、これは良いものですね。気に入りました」

「後で工房の皆に改めて礼を伝えておきます」


 ルドヴィアとサティレスがそう応じる。うん。アルバート達も喜ぶだろう。そんな調子で色々と素材を手に入れて、樹氷の森から帰還したのであった。




 そうして工房に戻って素材を預けつつ、浮遊盾の感想や礼を伝えるとアルバート達も「それは良かった」と笑顔になっていた。


「要望があれば調整や多少の機能追加は可能だと思う」

「使いにくい部分があれば遠慮なく言って下さいね」


 アルバートやビオラがそう言うと二人は頷く。


「そうですね……。私の場合は攻撃面で使う事が多かったので、何かしらシールドバッシュや殴打以外の攻撃的な機能があってもいいのかも知れません」

「私は概ね満足していますのですぐには出てきませんが……何か思いついたらお伝えします」


 とのことだ。というわけで、サティレスの浮遊盾の調整と機能追加についても少し話し合ったりもした。


 候補に挙がったのは身の周りに爆風を展開する護身兼攻撃用のリペルバーストだな。主に魔術師が接敵された時に使う魔法だが……盾の表側に指向性を持たせて放出することでリアクティブアーマーとしての役割も担えるので、攻防両面の強化や幻影以外での範囲攻撃の手段が加わる事になるだろう。


「浮遊盾もその辺の機能追加が終われば一段落かな」

「病院周りやタルコットとシンディーの手伝いに注力していけそうだね」


 アルバートと頷き合う。病院建築用の資材も順調に集積されているからな。こちらも程無くして建築に移れるはずだ。

 体制構築はジョサイア王達と。病棟に関してはロゼッタやルシールと話し合い、仮想空間で構築して使い勝手を確かめたりしながら実際の形を考えていく方向だな。




 関係者の面々と何度か話し合いを持ち、王国の治癒術師、医師、薬師といった面々も紹介してもらうために集まり、仮想空間に移動することとなった。


 初めて会う面々に説明や講義も兼ねてのものだ。完成予想図があれば集まってもらった面々にもそれらを伝えやすい。


「――というわけで病院はまだ完成形というわけではないのですが、一時的に役割や雰囲気を掴んで頂ければと思います」


 仮想街に驚く面々を一時的に作った病院内へと案内する。


「これが病院の雛型、ですか。いやはや……実物大の建物を前に雛型等と形容するとは思いませなんだが」


 公爵領からやってきた老治癒術師が目を瞬かせる。他の医師、薬師達も同様のようで、興味深そうに病院の敷地や内部に視線を巡らせていた。


「施設の内外を色々見て回るのもいいのですが、まずは病院を作る理由と、その意義等についてお話したいと思っています。まずはこちらへ」


 会議室に割り当てた大部屋に移動し、そこで説明と講義を行っていく。

 治癒術、医学、薬学の発展と研究。弱者の救済。平時の治療を受け持ち、有事の際に疫病の拡大を抑える役目を担う事が病院の役目だ。


 その為に具体的には何が必要となるか。怪我の治療なら治癒術。対症療法だけならクリアブラッド等でも結構なものに対応できるのは確かだが、病気にはそうでないものもある。

 体調不良に対して総当たりでクリアブラッドや解呪を試すのも確かに効果はあるが、原因を探る事でもっと多くの病に対処できるようになるはずなのだ。


「例えば、病を媒介する生物や虫。症状から調査を進め、特定の生物が原因であると突き止められれば、その生物と接触することを避ける事で被害を未然に防ぎ、発生したとしても拡大することを防げる、というわけです」

「虫か……。体内に巣食えるような虫では確かに……クリアブラッドも効果がないか」

「虫にのみ効果のある毒というのもありますから、薬学であれば取り除ける場合も有りましょうが――」

「そうですね。その原因をより分け、適切な対処をしやすくするために血析鏡という魔道具を作りました。これは仮想空間内ではなく、実際に構築した魔道具ですので後程戻りましたら実物をお見せします」


 俺の言葉に頷き、ルシールとロゼッタが仮想空間に再現した血析鏡を皆に見せる。血の成分を調べる事で異常のある部分を探り、原因を特定しやすくする、というものだ。

 治癒術師、医師、薬師共に真剣に話に聞き入っていた。


 その上で、俺の知る限りの病気の原因も伝えていく。虫とは言ったが、もっと目に見えないサイズの微生物――菌やウィルスが原因となるケースもある。咳に含まれる唾液や血液といった体液や、身体的な接触による増え方。

 他にも体質や身体の働き自体が害になってしまうケース。身体が老化や怪我等で必要な機能を果たせなくなってしまうケース。魔法薬や呪いが原因となることもある。


 この内、魔法薬と呪いという部分までは原因の切り分けと対処が簡単だ。破邪の首飾り等を使った解呪によって余程強力なものでない限りは対応できるし、解呪ができなくとも首飾りに反応が起こるから、搬送されてきた段階でこれを行ってしまえばいい。


 病院は菌やウィルスへの対処を想定しているので、発熱の場合と怪我等での場合で病院の入り口や搬送口を分けている。搬送の段階で発熱しているものは都市外部側に作ったゲート側へ向かわせ、動線を分けて直接施設内に運び込めるようにするというわけだ。


 完成予想図と合わせてそれらの説明や街中からの通報の仕方、ゴーレム達や転移門等を使った搬送方法も伝えていく。これも再現してあるので後で仮想空間内部にて見てもらえばいいだろう。


 色々話すことは多くなってしまって大変だとは思うが、まあ、何度かに分けて行っていこう。理解と納得をしてもらう必要があるし、疑問があっても今後の研究で確かめてもらった上で前に進めていけば良いのだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マンモスの肉のアレ。イエティの毛皮きぐるみ 獣よろこぶ
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >サティレスとルドヴィアで即席のパーティー てお「なあ、俺と戦ってみないか?」 二人(全力で首を横に振って拒否する) てお「ちぇっ」 >治癒術師、医師、薬師共…
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