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番外1929 工房の仲間として

いつも応援ありがとうございます!


間に合ったのでいつも通りの隔日投稿です。

次回は体調次第ですが1日か2日お休みを挟むかも知れません。

 病院の建造、運営に必要な資金を三家――改めフォレスタニア境界公家も含めての四家と工房関係者を集めて話し合いを行った。各家の文官や関係者も顔を出し、色々と意見をくれるという形だ。


 三家はどの家も当主が協力的だ。フォレスタニア外では三家主導ということで話も纏まり、了解も取れている。


 転移門の管理や動線、搬送システム等もあるため、どちらにせよ領主の了解を取り付け、その辺の調整も各地の領主に任せる必要があるからな。そこは各領主が主体となるのだが、その点で言うと王家や大公家と公爵家が積極的に動いてくれているのは有難い。ヴェルドガル国内での潮流として、それぞれの派閥の領主達も追随する動きを見せるだろうと見込まれている。


 必要となる資材の量や予算といった試算も見積もりも行われ、計画も前に進んでいる。資材の準備が出来たら南区の外に色々と手を加えていく事になるだろう。


『では――各地方での通達と調整に関してはよろしく頼む』

『ええ、お任せ下さい』

『そのあたりは恐らく高位貴族が積極的であろうし、調整が容易で良いことだ』


 公爵と水晶板越しにそんな会話を交わして笑みを浮かべるジョサイア王である。伯爵家や侯爵家の面々との関係も良好だしな。


 バルトウィッスル大公こと、家督を継いだフィリップ大公も南部派閥に関しては問題ないとのことだ。

 ちなみにデボニス前大公もそうだが、バルトウィッスル大公とは呼ばずにフィリップ大公と呼ばれる。これは大公家の権力が昔はもっと大きかったから、個人名を尊重して家名ではなく王家と大公家は特別扱いというのが暗黙の了解というか、昔からの慣例になっていたりしたわけだな。


 後に公爵家も力を付けてきて、結構長らく三家とも呼ばれる時代が続いているわけだが、まあ、迷宮を抱える王家自身が自ら驕らないようにという事でその辺の慣例を認めている部分もあるそうな。

 だから後を継いだフィリップも個人名で呼称されるというわけだ。フィリップ大公も慣れないといけないと苦笑していたが、この辺も大公家と公爵家の確執の遠因にはなっていたのかも知れない。必要なところで弊害が出てしまった部分ではあるのだろうが、改めて初心とその意義に立ち返る、というのは大事なことだ。


『南部も問題はないかと。基本的には大公派閥の者達も境界公の事は歓迎しているのです。国境を接しているバハルザード王国や山間部の遊牧民、ベシュメルク王国との関係が良好ですからな』


 フィリップ大公が現状について教えてくれる。なるほど。国防の当事者達にとってはそうなるか。

 俺としては各領主の顔を立て、地域ごとの特色や自主性に基づいて無理のない範囲で計画を進めて欲しい、とだけ伝えておく。


 今回は病院という事で権益を独占するなんてことにならないよう、将来的なことも考えて他の大貴族達にも絡んでもらったが……。他の部分では基本的にはフォレスタニアで完結し、一線を引いておいて、外への働きかけを行う場合はその辺しっかりと気を付けないといけないな。

 まあ……驕らないようにしていこう。子供達の教育も、しっかりとしないといけない。


 そんなことを考えつつも、アルバートと共に三家の面々に改めて礼を言って通信を切り上げた。


「結構大きな計画だと思うけど、三家が手を組むと話が進むのも早いね」

「魔法技師や治癒術師の仲介や出向もしてくれるし、色々有難いよ」


 アルバートとそんな会話を交わす。とりあえず資材の準備も進めつつ、病院に絡んで人員も学習の為に一足先フォレスタニアに招いて、仮想空間での講義や勉強会などを行うという話にもなっている。


 冬の墓参りと合わせて無理のないスケジュールを組んでいきたいところである。


「魔法技師と言えば――タルコットやシンディーの腕前もかなりのものになってきたね」


 と、アルバートが話し合いに顔を出していたタルコットとシンディーに話題を向ける。


「それはまあ……場数を踏ませてもらっているからな」

「色々な術式を込めた魔道具に触れるにはいい環境です」


 二人が頷く。一応、今もアルバートの護衛でもあるし、見習い魔法技師的な立場でもあるのだが……その腕前は魔法技師を名乗っても差し支えない十分な経験を積んだものだ。


「二人とも、かなり術式の刻み方が丁寧だからね」

「それはまあ……基礎を疎かにすると失敗した時に大変な事になると学ばせてもらったからな」


 俺の言葉に苦笑するタルコットである。失敗、というのはペレスフォード学舎での一件だろうか。それ以来は術式の行使にしても魔道具作りにしても、基礎をしっかりとして丁寧に構築するというのを旨としているようで……。


 シンディーの方は元々堅実な性格であるから、魔道具作りにしてもそれが表れている。そんなシンディーはと言えば、タルコットの返答に微笑んで頷いていた。


「良いね」


 アルバートはタルコットの言葉に満足そうに頷く。


「僕としては、義肢作りの仕事でも二人には期待しているんだ。もう実力的な下積みは十分だと思っているから、そこで実力を見せて、二人とも正式な魔法技師となっても良いんじゃないかって思っているんだけど……どうかな? 勿論、選択は二人に任せるよ」


 そんなアルバートの言葉に、タルコットは予期していなかったというような表情を見せた。

 国から認められた魔法技師を名乗るには……同じく国から認定されている魔法技師の師からの推薦を受け、その実力を示す魔道具を協会に提出する必要がある。新規の技術である必要はないが、その実力はしっかりと見られる。特別な試験というわけではないが中々前提条件を満たすのは大変だ。


「その、良いのでしょうか。私ぐらいの腕で推薦を受けられる弟子等と」

「んー。僕としては、半端な実力なら推薦しようとは思わないね。そこはしっかりと見てるよ」


 あっけらかんと笑って答えるアルバートである。


「では魔法技師の仕事が主になった場合の護衛は?」

「護衛としても勿論信頼しているけれど、改造ティアーズやメダルゴーレムもいるからね。護衛兼見習いという不安定な立場よりは、魔法技師として義肢作りとか一定の継続した仕事がある方が良いと思うんだ。今後とも、ブライトウェルト工房で一緒に仕事ができたらとは思ってる」


 この辺の話は将来的な部分を見据えてのもの、ということだそうな。タルコットもそうだが、アルバートも将来的にフォブレスター侯爵家に入ることになるからな。護衛になる武官も出てくる。

 であるなら、タルコットは工房お抱えの魔法技師として頼りにしたいと考えているというわけだ。


 ――というのもあるのだが……まあ、アルバートとしてはタルコットとシンディーの仲を考えてのものでもあるのだろう。

 タルコットが安定した需要のある仕事に正式に就けば……例えばシンディーの家に正式に挨拶に行くという事だってしやすくなるだろうし。アルバートが師として腕前と人柄を認め、推薦して王国からも正式に認定された魔法技師ともなれば、立場としては十分だ。


「私は――良いと思うな。タルコットの頑張っているところは、ずっと間近で見せてもらったもの。きっとうまくいくと思うわ。勿論、私も一緒に頑張る」


 シンディーがタルコットに微笑んで言う。

 タルコットは少し目を閉じて考えた後に、顔を上げて真っ直ぐにアルバートを見て頷いた。


「お受けしたいです。その……色々理由はあるのですが、義肢作りというのはとても有意義な仕事だと思っておりましたので」


 有意義か。そうだな。タルコットもまた、魔人との戦いという観点では被害を被った者の一人だ。家が悪事を働いていて、家族関係に問題があったとしても。それでも肉親は肉親なのだから。

 先日の孤児院でのやり取りにもタルコットは感じ入っていた様子だとアルバートから聞いている。義肢作りにそうした想いを抱いてくれているなら、しっかりとした仕事もしてくれるだろう。


「うん。それじゃあ二人とも、提出するための義肢作りもしていかないとね」

「はい。頑張ります」

「よろしくお願いします」


 アルバートの言葉に二人は頷き、そうした顔を見合わせて明るい表情になる。やる気に満ち溢れているし……将来的なことも考えているのかも知れない。上手くいくと良いな。


「本当に……ありがとうございます。アルバート様には気にかけていただき、テオドール様には大切な事を学ばせていただきました」


 そうしてタルコットは、アルバートと俺に改めて深々と頭を下げ、それを見守るシンディーは微笑みを浮かべるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 畜舎の建造、運営に必要な資金を三家(ペンギン・飛竜・モグラ)が出し合った
[良い点] 更新お疲れ様です。 ご無理なさらず、体調にご留意ください。 [一言] >例えばシンディーの家に正式に挨拶に行くという事だってしやすくなるだろうし。 シンディーのお父さん、駄目と言っても良い…
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