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番外1928 いて欲しかった誰かに

いつも応援ありがとうございます。


先日のお休みから間隔が短く恐縮なのですが、

本日10月19日ワクチン接種の予定となっておりまして

体調にもよりますが、今日の夜と、その次の更新までは休むかも知れません。

体調次第というところがあるので、今日の夜あたりは問題がなさそうであれば投稿したいと思っています。


再開をお待ちいただけましたら幸いです。



 交代で食事をとりつつ様子を見せてもらったが、炊き出しにやってきた人数も中々のもので、盛況だったと言って良い。もう少し混乱するのも想定していたが、案外みんな誘導に従ってくれていたしな。


 現場の誘導に兵士が手伝ってくれていたし、ゴーレムを配置したのも良かったのかも知れない。まあ、俺達が主体となって動いているからというのも無きにしも非ずか。


 食事も和やかに進んで、炊き出しに足を運んできた面々はみんな笑顔になっていたから……まあ、やって良かったと思う。

 孤児院に対しても印象が良くなるだろうし、この調子で継続していきたいところだ。


「伝手を頼って出稼ぎにきたのですが、頼った商家の方が潰れてしまって……故郷に戻る事も出来ず、冒険者となって凌ごうとしたのですが、結局怪我をしてしまって……」


 と、相談の方も割と人数が多い。事情はそれぞれだが、働きたい、働き口が欲しいというのは相談するだけあって共通している部分だろうか。

 故郷でしていた仕事等も聞き取りしてみると機織の仕事を手伝っていただとか技能や素養のある者もいて。腕前を確かめたら仲介するという話も何件か纏まる。


 名前を登録しておいて、後日王城やフォレスタニアに訪問して来てもらうという流れだな。腕前を見て即戦力であるならそのまま先方に紹介して経過を見ていくし、必要ならば仮想街も活用して職業訓練を施して実力の底上げを行ったり、本人の希望や適性に基づいて技能を身に着けてもらう、というわけだな。


 そうした話を説明すると、相談に来た面々の多くは笑顔になって頷いていた。炊き出しや保存食の配布によって、とりあえずは食い繋ぐことはできるし、その上で希望する職種に向いた訓練ができるとあれば、受けるだけ得だからな。


 そうして相談を受けた後、保存食も受け取った者達は、お礼を言いながら帰っていった。

 炊き出しの列も人がまばらになり、そろそろ終わりという雰囲気が漂う中で帰っていく面々をみんなと見送っていると、デニースが口を開く。


「――今回は、手伝いに来て良かったです。お声がけいただき、ありがとうございました」


 そう言ってお辞儀をしてくるデニースである。ホレスも同様に一礼してきた。


「お礼を言いたいのは僕の方です。お二人が積極的に手伝ってくれるお陰で、他の話も前に進みそうですから」


 俺の言葉にアルバートもうんうんと頷く。


「そうだね。二人が積極的に義肢の情報も広めてくれているし……義肢の普及も大きく前に進みそうだ」


 そんな風に俺達が言うと、ホレスは笑って応じる。


「いえ……。またこうして兵士として働けるようになり、友人達に迎えられことがどれだけ嬉しかったことか……」

「私もです。新たな道を示して下さった、その恩を返したいのです。それに……以前の私と同じように困っている方がいるのなら、その人に私と同じように道が示されてくれるのならと」


 そう言ったデニースに、ホレスも「全く同感です」と頷いた。それから二人は顔を見合わせ、居住まいを正すと、真っ直ぐに俺達を見つめて言う。


「襲撃や……大きな戦いもありました。いくつかの危機や困難を乗り越えてきましたが――その中で傷を負った者、犠牲になった者もいます」

「それでも、私達は先に進んでいかなければなりません。困難を切り抜けるために矢面に立ち、戦っていただいたばかりか……新たに進んでいく道を示し、過去の傷までも癒そうとして下さる行いに敬服しているのです。どうか私達にも、その手伝いをさせて下さい」


 新たに進んでいく道と、過去の傷への癒し、か。

 イシュトルムの襲撃や、ヴァルロス達との戦いでもそう。そうした経緯から、氏族達との和解に否定的な見方をする者もいるだろう。その気持ちも……理解できる。俺自身、復讐を肯定しながら戦ってきた。


 ただ和解できる状況にあるならば、確かに違う道を模索する必要があるというのはそうなのだ。

 氏族達は解呪されているから、もう捕食する側、される側という関係ではない。少なくとも互いが生き伸びるために戦わなければならないという状況では、もうない。


 残るのは種族ではなく……それぞれが向き合っていかなければならない問題か。だとするなら道を示すというよりは、道の模索が正しいのだと思う。


 それでも……デニースやホレスがそういう想いを向けてくれるのは……やはり嬉しいな。やろうとしていることに理解を示し、その上で力を貸してくれる、応援してくれるということだから。


「やはり……お礼を言わせてください。そうした想いから応援してくれているというのは――僕にとっても今していることが間違っていないと、そう思えますから」


 改めて二人に礼を言うと、デニースとホレスはまっすぐに俺を見て頷いてくる。みんなや氏族達……ジョサイア王や騎士団の面々も、穏やかに微笑んだり、感じ入るかのように目を閉じたりと、思い思いの反応を示していた。


 俺自身はやはり、ノブリスオブリージュ等と言うつもりはない。ただ、これだってヴァルロスやベリスティオとの約束に繋がっている部分はある。和解や共存だって、片方だけで成るものではないから。


 うん……。義肢の普及や医療水準の向上等は、しっかりと進めたいな。


 あの……死睡の王の襲撃の後。暗い冬の日々に誰かに手を差し伸べて欲しかったと、そう願った事がある。


 誰か。誰でもいい。母さんへの恩を返そうとしてくれる誰かが手を差し伸べてくれる事で、戦った母さんが報われて欲しかった。自身も傷つきながらも俺を支えようとしてくれたグレイスに、優しい声をかけてくれる誰かがいて欲しかった。


 そう願って、その内期待する事を止めた。


 人の想いも境遇も、それぞれ違う。他者の気持ちが分かるなんて、おいそれとは言えない。ただ……あの頃の俺にとって、いて欲しかった誰かを自分自身で目指すぐらいの事はしたいと、そう思う。


 ふと、みんなと視線が合えば微笑んで、肯定するように頷いてくれる。そうだな……。みんなが傍にいて、支えてくれたから。今は諦めていたあの頃とは、考え方も違ってきているという、自覚もある。




 そうして――食事と相談を終えた最後の一人も、保存食をお土産として受け取って帰っていった。

 後片付けもみんなと談笑しながらの明るい雰囲気の中で進められた。余った料理は念のため、発酵魔法で痛まないようにコントロールしつつ、フォレスタニア城で希望する面々に分けるという事で話も纏まっている。保存食は次回以降も配布可能なので、そのまま持ち帰る、と。


 天幕を片付けたり土魔法で作った竈を片付けたりといった作業を進め、やがてそれも一通り終わる。


「今日は、ありがとうございました。初回ですが大きな問題もなく進みましたし、手応えも感じられたように思います」


 手伝ってくれた面々に礼を言うと、笑顔で応じてくれる。ジョサイア王も満足げに笑って頷く。


「有意義な時間であった。仮に義肢の話だけでも、病院を作る意義が多いにあると感じられたな」

「では――」

「うむ。意義としても大きく、利も十分にある。是非話を前に進めていきたいな」


 ジョサイア王としても、病院の建設に前向きというわけだ。内容はもう少し詰める必要があるが、ヴェルドガル王国や王家としても、フォレスタニア境界公家と協力し、前向きに進めていく事となるな。


 大公家、公爵家からも協力したいという申し出があったから……まあ、病院に関しては色々と期待ができそうだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 回線復旧早くて良かったですね。 何故かもっと時間がかかるイメージがあるもので。 >もう少し混乱するのも想定していたが、案外みんな誘導に従ってくれていたしな…
[良い点] 獣、念糸技術見せ擬似神経を語る
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