番外1927 冬の孤児院にて
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食材を切って下処理を済ませ、いくつかの大鍋にそれらを入れて料理を作っていく。炊き出しということで温まるものが良い。今回は魚と貝。野菜、豆にキノコがたっぷり入ったクラムチャウダー。それから蒸した芋にバターを乗せたものを料理として用意している。
米は炊き出しを行って提供するものとしても悪くないのだが、まだまだ蓄えが少ないしな。継続的に行うにはまだ準備が足りない。
そんなわけで量を安定的に確保できる食材の中から穀物に野菜。動物性タンパク質がきちんと確保できるようにしたというわけだ。スープはまあ、こういう野外で提供するものとしてはお手軽で良い。
蒸した芋もそういうところからだ。木魔法を使った紙皿や木の器を即席で構築し、しっかりと食べて帰れるようにというところだ。
それから……持ち帰って食べられるように、保存食として干したり燻製にした魚と肉を用意している。これら食材に関しては迷宮の魔物で賄える部分はできるだけそこから確保しているのだ。特に魔光水脈等は魔物魚や魔物貝が多いので、量を揃えるのには丁度良い。魔物食材なので味も良く、水中の魔物は冒険者達も積極的に討伐しないから継続的な確保をしても影響が少ないということで、これからも世話になるだろう。
保存食自体も、あまり手間をかけずに作れるようにしたしな。下処理をする過程はゴーレム達による流れ作業でも良いし、干して水分を抜く過程も、刻印術式で構築したフィールド内で時短且つお手軽にできる。
燻製共々、グレイスが監修してくれているので出来も上々だ。
さてさて。味を調えたりしながらも準備を進めていくと、クラムチャウダーの美味しそうな匂いが周囲に漂い始める。昼頃になって通りにも様子を見に来る者が現れ始めたようだ。
「昼からここで食いもんがもらえるって聞いてきたんですが――こいつは、もうやってるんですかい?」
と、おずおずと尋ねてきた男に頷く。
「そうですね……。料理はもうできあがっているし、そろそろ良いかな……」
みんなに視線を送ると、準備は万端というように笑顔で頷き返してくる。うん。問題はなさそうだな。
というわけで、魔法を使って声を拡大しつつ答える。
「それじゃあ今から始めますので、誘導に従って並んでいって下さい。たっぷり作ったから十分におかわりもできると思います」
「おお……」
俺の返答に少し嬉しそうな表情になって――兵士やゴーレム達の誘導に従って並んでいく。
警備にゴーレムも使っているのは今後を見据えてだな。
炊き出しを定期的にやるならば人の来訪が多くなる。孤児院の警備を増強しておいた方が良いというのもあるし、こういう場面で見せて慣れてもらっておけば警備兼案内役のゴーレムに忌避感もなくなっていき、当たり前のもの、というような感覚になっていってくれる――というのを期待している。
迷宮村の住民、氏族達、友好的な魔物種族に自由意志を持つ魔法生物と……まあ、色々な面子を身近に抱えているしな。普段から慣れてもらっておくのは必要なことだ。
「はい、どうぞ」
「熱いから気を付けてね、おじちゃん」
「ああ。ありがとうな」
子供達から料理の盛られた木皿とスプーンを渡された男は、そのまま近くに用意してあった椅子とテーブルについて食事を始める。
「こいつは……ああ。うめえな。温かくて染みるわ……」
クラムチャウダーを口に運んだ男は――目を閉じてその味に感じ入っている様子だった。それを目にした他の者達の期待感も高まっているのか、ごくりと喉を鳴らし、列に並んでいく。
料理を受け取って思い思いに座って、そうして料理を口に運べば……あちこちで声が上がった。
「おお。これは確かに……」
「美味しいわ……温まりそう……」
「芋も良いな……このバターがまた……熱っ」
と、概ね好評な様子である。
そんな反応に、子供達も顔を見合わせて笑顔になる。氏族達を始め、料理を手伝った面々も満足というように頷いていた。
そうやって賑わい始めると炊き出しの話を聞きつけた者達も更に集まって、列もどんどん長くなっていった。誘導もスムーズで、初回にしては中々良いのではないだろうか。
「みんなも順番に交替で食事をとってね」
俺からそう言うと、みんなも頷く。昼食に関してはみんなも同じく炊き出しで提供している料理を食べることになっているからな。
手の空いている子供達から食事をとっているのを傍目に眺めつつ、魔法で声を拡大して連絡事項を伝えていく。
「これから定期的にこうした活動を続けたいと思っています。仕事の斡旋や相談も行っていますので、希望する方はお土産を受け取って帰る際に気軽に申し出て下さい」
保存食を配る場所の隣に設営したもう一つの天幕内部で相談も行っているということを伝える。それから――知り合いで食事や仕事等、生活に困っている者がいるのなら、こうした活動をしていると広めてもらえると嬉しい、と結んでおく。
列に並んでいる面々は真剣な表情で相槌を打ったりしていた。
「私達も相談所で義肢を見せて、情報を広めるのに良い機会かも知れませんね」
「まだ試用期間とはいえ、体感では問題ありませんし……どうでしょうか?」
デニースとホレスが尋ねてくる。
「それは寧ろ有難い提案ではありますね。お二人の負担でないのでしたら是非」
そう応じると、二人も笑って頷く。そうやって積極的に広めようとしてくれるのは実際有難い事だな。
さてさて……。必要な連絡事項も伝えたし、後は食事の様子や相談の内容を見ながら、こちらも交代で昼食をとらせてもらうとしよう。
相談については、ジョサイア王も協力してくれているしな。社会復帰や職業訓練等々も含めてフォレスタニア共々対応していく形だ。
実態調査も兼ねているので相談も継続していく予定である。
「魚介類は偉大……。野菜の甘味も出ていて良い感じ」
「収穫した人参の出来も良いですね。美味しいです」
耳と尻尾を反応させながらクラムチャウダーを味わっているシーラと、スプーンを口に運んでにこにこしているエレナである。
料理もだが使った食材の品質自体も好評だ。甘味のある人参の出来には収穫した氏族達自身納得のいくものだったのだろう。頷いていたり表情を緩ませていたりするな。
魚介類の旨味と野菜の甘味。濃厚で具沢山なクラムチャウダーといった感じで、良い感じに出来上がっている。バターと蒸した芋も、シンプルながらも後を引く味だ。
子供達が表情を綻ばせている様に、イェルダやジョサイア王、フラヴィア王妃も食事をしながら微笑ましそうにしていて、賑やかながらもほのぼのとした時間である。
相談の方も……割と順調だろうか。それぞれの事情について聞き取りをし、必要ならば読み書き計算の教育から、機織や鍛冶等々、実用的な職業訓練等も請け負う、と。
まあ、これも社会還元の一環であり、人材発掘と育成も兼ねているからな。訓練費用はこちらで持つ。
また、王都内や各地で人手を求めている職種についてのリサーチも進めてあるため、話をしつつも経験者であれば技能を確かめ、それで問題がなければ実際に先方と顔を合わせてみる等……話が進んでいる者もちらほらと出ていた。
デニースとホレスも相談者に積極的に話しかけたりして、義肢の話題を出したりもしている。
「これはまた――凄いですね……」
「今は問題が出ないか試験している段階だが、上手くいけば広く活用できるようにしたいと境界公やジョサイア陛下はお考えのようだ」
「知人に、以前の私達同様、困っている者がいればここや境界公様の領地へ相談にくるように伝えて欲しいわ」
「それは――分かりました」
と、そんな風に話をしているデニース達だ。病院の話が進めばまあ、義肢も実際に広めやすい環境になっていくだろう。