番外1925 復帰した者達のその後は
各領地の領主、医療関係者、治癒術師への通達であるとか、緊急搬送の為の仕組みの構築。その為に必要な魔道具に関する話。実際の施設にはどんな設備を用意するべきか。そういった話をしながら土魔法の模型と幻影をこねくり回しながら案を練っていく。
「内部を視覚的に見る事のできる魔道具か……。研究にも治療にも便利そうね」
と、ロゼッタが笑みを浮かべるとルシールも静かに頷く。
MRIやレントゲンにヒントを得て、魔力ソナーで得られる情報を利用し、人体内部の視覚的なイメージを構築する魔道具、という構想も出してみた。こちらはロゼッタやルシールからも期待感が高い。
解剖学の知識はまだまだなのだが、実例が集まっていけば研究も進んで怪我や病気、中毒等々の種類に応じた適切な対応法も増えていくだろうという二人の見解だ。血析鏡と合わせた分析はかなり有意義なものになるのではないだろうか。
それに対して魔法や呪い、憑依に瘴気侵食、契約魔法や誓約魔法が由来といった事例も存在するのが中々に大変なところなのだが……。
まあ、治療する側としてもファンタジーな手段があるし、事例としては少ない部類になるから差し引きとしてはプラス……になれば良いな。
「解呪や破邪については私達の分野でもあります。分析によって、問題を切り分けてから対処するというのでしたら、治療専門の施設には神官や巫女が常駐していた方が良いのでしょうね」
「それは確かに。破邪の首飾りだけでは対処できない場合もありますし」
ペネロープは神殿関係者からの出向を考える方向で話し合ってみると言ってくれた。それは有難い話だ。
確かに、自然由来の不調と、魔法や呪法由来の不調は――早い段階で問題を切り分けられると良いな。ゲートを潜ってもらう段階である程度判明するような仕組みを考えるというのが良いか。
それに加えて、呪法、憑依や瘴気侵食といった治療に際してリスクのあるものへの対策もだな。これは神官、巫女達を守るための結界や魔道具、護衛の配置といった形が良いか。
後は――病院を基に……内科や外科、形成外科等の各種治療法に準じた専門的な人員の確保と治療設備の充実といったところか。
これらの治療体制とそれにかかる費用を試算し、患者の負担する治療費はなるべく安くあげる方向で考えている。まあ、一般的な対症治療に関しては治癒術とクリアブラッド、破邪の首飾りで一先ず事足りるので、魔道具の魔石に魔力を供給できるのならそれで充分だったりする。基本的な部分でのランニングコストは低め、と言えるだろう。
「問題の切り分けと専門の科か。体制にしても新しい魔道具にしても、案として良く練られているな」
ジョサイア王が感心したように言う。練られていると感じるのも、その辺は地球側の病院を基にしているからではあるかな。まあ、上手いところ纏めたいところだ。
「それから――以前作った五感リンク式の義肢の周知や仲介、調整の場にもなるでしょうか。報告も上がっていますが、使用感はかなり良いとのことです」
怪我をして引退した冒険者と兵士に使ってもらって長期の使用感を確かめてもらっているが、工房に報告も入っている。違和感なく使えるということだし、後はこれを広めていけたら、というところだ。
結構な技術が注ぎ込まれた魔道具でもあるし、将来的なことを考えると魔法技師に継続的に作っていってもらうためにミリアムのところで取り扱って貰う際には値段設定もしっかり考えなければならないのだが……まあ、これについてはまた仕事ができるようになれば、その中から負担にならない程度の分割払いというのもできるからな。
見た目に凝ることで逆に高級品路線というのもできるし、いずれにせよ個人に合わせて調整しなければならない品だから、その辺は相談しながら構築していけば良い。
「病院ができあがれば、義肢の相談と調整もできるね」
「そうだね。支援体制の構築にもなる」
その辺を説明しながら、アルバートと言葉を交わす。
そうして、必要と思われることをあれこれと話し合いながら、時間は過ぎていくのであった。
明くる日から、一先ずは話し合いの中で出た炊き出しに向けて動き出すこととなった。迷宮内外で食材を集めたり、各所と連絡を取って日程を調整したりといった具合だ。
困窮している者達に向けての炊き出しを定期的に行うという事で、その旨も通達もしている。
これに関してはエインフェウスの孤児院の面々とも連絡が取れて、是非参加したいという返事をもらっていた。
それから――炊き出しで提供するものに関してだが、その場での温かな食事に加えて保存食の配布も行う予定だ。飢えた時に食い繋ぐことができるようにしておけば、一先ずの助けにもなるだろう。
後は……やってきた面々への仕事の紹介等もできるように相談や斡旋のできる体制を考えておくべきだろう。
そうしてあれこれと準備を進めていき、一日一日が過ぎて。そうして当日がやってくる。
「今日はよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」
朝からみんなと共に孤児院にやってきて、サンドラ院長に挨拶をすると笑顔で応じてくれる。エインフェウス側の孤児院からも子供達が参加していて、タームウィルズの孤児院の面々とも挨拶をしていた。獣人の子供達ということでタームウィルズの子供達からも嬉しそうに迎えられている。
「よろしくね!」
「こっちこそ……!」
と、子供達同士、笑顔で握手を交わしたりしている。獣人族に関しては、やはり格好いいとか可愛いと見る向きが多いようで。シーラやイェルダが元々好印象だからだろう。
迷宮村の子供達、氏族の子供達とも挨拶をして打ち解けているようだ。エスナトゥーラとルクレイン、ゼルベルとリュドミラも、それぞれ親子で参加していたりするな。ルドヴィアとザンドリウスもだ。ルクレインはまだ赤ん坊と言って良い肉体年齢なので手伝いをするしない以前だが、リュドミラやザンドリウスは年齢が近いということもあり、今日の炊き出しを一緒に手伝ってくれるということだ。
他にも、以前義肢を引き渡して試用してもらっている引退した冒険者と兵士にもアルバートから声がかけられており、今回は手伝いに来てくれているな。
広めていくならこういう場に自分達が姿を見せた方が良いということで、是非に、と申し出てくれたわけだ。
「その後加減はどうかな?」
「お陰様で。実は新しい仕事も見つかりまして、本当に感謝しています」
引退冒険者の女性――デニースは義足、引退兵士の男性ホレスは義眼を試用してもらっているが、それぞれその後の調子もよく、生活も順調ということだ。
デニースの方は現在、冒険者時代に懇意にしていた商人のところでメイド兼子息の護衛の仕事をしているらしい。昔通りに武技も使えるようになって、軽快な動きができるようになったからこそということだ。
「まあ、その辺はデニースさんが冒険者時代に信頼を得ていたからかと」
「ふふふ。そう言って頂けると嬉しく思います」
「私の方は兵士としての仕事に復帰できました。前よりも良く見えるぐらいですから、外壁の歩哨の仕事もしているんです」
ホレスが言う。
「それはまた。慣れた仕事に復帰できるというのは素晴らしいですね」
「ええ。感謝しておりますよ」
そう言って明るい笑顔を見せるホレスである。
五感リンクのゴーレム方式を作ったのは俺や工房のみんなではあるが……こちらが当初想像していた以上に性能が良いように見受けられるな。使用することによる負担、違和感もあまりないということで、中々に好調なようだ。