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番外1924 計画と炊き出しと

「それに、動線の観点か……。患者の――主に移動の際に病が広がる、ということだが……」

「そうですね。病の原因は様々ですが、体質や魔力資質によって引き起こされているという場合も有りますし、呪術、邪精霊等も有り得ますがここでは一先ず除外しておきましょう。風邪のような病、と想定した場合の話ですが……これらの場合、微小な生物やそれよりも微細な……生物にも満たないものが主な原因になります」


 この場合は細菌やウィルスを想定してのケースだな。そういったものの基本的な知識も、詳しい原理までは分からないまでもある程度のところは経験則や研究で理解が進んでいるというのもあり、ジョサイア王は動線を分ける、という部分には理解を示してくれる。時折質問をしてきたりして、それに受け答えしながら話を進めていく。


 病の原因、種類によって変わってくるが、患者から健康な者への感染は直接接触したり、呼気を吸い込んだり体液に触れたり等々……患者との直接、間接的な接触が原因となる。

 大本の原因である自然宿主といった部分についても触れつつ、移動や活動、治療する場所を分け、患者と健康な者が被らないようにすれば拡大を阻止できるという理屈を説明していく。


「あくまで理屈の上は、ですね。前述の通り、原因は他のものである場合もあり、診断と原因の特定までは動線を分けるというのが望ましいというわけです。その為、病院のある場所を街の中心部――人通りの多くなる場所から少し遠ざける事が重要になってきます」


 人の集まる場所……例えば繁華街、市場だな。王城も内部に練兵場があるし、神殿や迷宮入口、冒険者ギルドや劇場、温泉等も人の出入りが多い。

 だから、それ用に独立した区画を新たに作ることで動線を分けられたら、と考えているのだ。


「施設を迷宮内に作るにしても、タームウィルズ側に作るにしても、ですね。入口が違えば、それだけで拡大を防げますので」

「普段の人通りが最も少ないのは――南区か」


 ジョサイア王が言う。

 工房の多い区画だな。彼らは職場に移動してそこで仕事をするので、確かにあまり他の場所には移動しない。ドワーフが多いので酒場は点在しているが、こちらが盛況になるのは仕事が終わってからの夕方頃か。時間帯によって人通りも少ない。

 タームウィルズの場合、中心部は王城と貴族街、月神殿。北区は商店。東区は学舎と住宅街。西区は港湾と住宅街が主な内訳だな。


「人口密度と人通りから言うと南区側という事になりますね。実際の施設の所在は確かに南区側が良いかと思いますが……迷宮側にも新区画を作り、地上の入り口から移動できるようにすれば中央区やフォレスタニアからに限らず、各区画に移動するための転移門が構築して移動できます。ヴェルドガル国内から患者を移送してきた場合も、街の中を通らずに病院へ向かう事が可能という寸法ですね」


 アクセスを良くしつつ南区側の外壁より外に他の区画同様、拡張した設備を作るというわけだ。


「なるほど……。各区画で人通りの少ない場所を見繕って転移門を作れば、利便性も高いというわけだね」


 アルバートがにこやかに笑う。そういう事だな。加えて、病人や怪我人は自力で動けない場合もあるから搬送手段も考えたいところだ。

 日本であれば救急車の手配等の手段が整っていたが、こちらだとそうはいかない。まあ……フロートポッドのような機能を持ったゴーレムを構築し、搬送するための手立てを考える、というのが良いだろうな。


 街角に……公衆電話のような魔道具を置いてそこに連絡を入れるとゴーレムがやって来るといった具合が良いだろうか。

 救急に連絡を入れると空気を外部と遮断したカプセル型のフロートポッドゴーレムが現場にやってきて、患者を高速搬送する、というわけだ。


「また、面白いことを考えるものだな」


 マルレーンからランタンを借りて、幻影を交えて説明するとジョサイア王が笑って頷く。


「となると……南側の外壁の外側、及び各区画の転移門といった土地の使用許可だな。それに医師と治癒術師への通達と仲介も必要か」

「そうですね。自薦他薦を問わず広く受け付けた上で、まず仮想空間での授業や研究への参加をしてもらい……そこで腕前、知識、人柄に問題がない事が確認できれば施設での仕事の斡旋や専門分野での患者の仲介、といった方向で考えています。まあ……まずは各地に打診してみて実際の反応を見てからというのが、間違いもなくて良いと思いますが」

「確かにな。では、その辺りは協力しよう」


 動き出してしまってから計画倒れでは困るしな。施設自体は魔法建築で割とすぐに作ることができるから反響を見つつ期待度が高いようなら進めていけばいい。


「実際に動き出せば血析鏡の有用性も広められそうですね」


 俺とジョサイア王とのやり取りに、ルシールも笑顔を見せていた。


「賛同してくれる面々とも早い段階で顔を合わせられるように段取りを進めておく。幸い、仮想街もあるから、そこで話をするだけでもタームウィルズに足を運ぶ意味が出てくるだろうしな」


 そうだな。行く行くは地方の都市でも仮想街にアクセスできるようにしていく予定だし、主要な都市からは現時点でも転移門でのタームウィルズ訪問ができる。転移門や仮想街を介した人材発掘も容易になるだろう。


 そんなわけでジョサイア王、ペネロープ、ルシール、ロゼッタからも意見を聞きつつ、実際構築するならこんな風にするのが良い。運営するならばこうした方が、と案を出しつつ、話をして盛り上がる。


「炊き出しの支援もして下さるということですが、その施設があればそこで行うことができそうですね」

「それも考えています。平時なら動線をそこまで気にする必要はないですからね」


 ペネロープの言葉に頷く。炊き出しの支援は新施設がなくても食材と人手さえあればいつでもできる。月神殿や孤児院の面々と合同で、実際に近く実行してみようという話になった。

 場所については孤児院前で、という事になるな。月神殿主体だが、タームウィルズの月神殿は人通りが元々多い場所なのでそこで炊き出しとなるとどうしても混雑してしまう。

 フォレスタニアはまず迷宮入口から移動してもらう必要があり、案内無しだと気軽に各自が足を運んでくるのは大変だ。


 他に炊き出しができそうな広さを持つ場所となると造船所等もあるが、こっちは一応機密情報等も扱う場所なので気軽にはそういう用途では使えない。まあ、俺達と共に月神殿も主体となって動いているというのを示せるから孤児院前でというのは良いことだろう。


「楽しみですね。子供達と一緒にというのは」


 エレナがにこにこと笑って言う。


「イェルダに話をするのも良さそう」

「喜んで手伝ってくれそうよね、イェルダちゃん」


 シーラとイルムヒルトもそんな風に言って盛り上がる。確かにイェルダ達は顔を出してくれそうだ。いっそ迷宮村や氏族の子供達、エインフェウスの孤児院の面々も合同にして交流を深めるというのも良いかも知れないな。炊き出しの量を多めに見積もれば子供達の交流会や食事会も兼ねられるし。


 そんなわけで……通信機で連絡を取ってみると、イェルダからは二つ返事で参加したいとの返答があった。エインフェウス北方孤児院の面々も、イングウェイ王からの厚意で暖かくなるまでは森都に滞在しているそうで。合流するのは容易である。

 迷宮村の面々、氏族の面々も乗り気なので、第一回は割と大規模なものになりそうだ。とりあえず、後で迷宮に食材確保に行ってくるとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この場合は細菌やウィルスそしてコルリスに巣食う疫病を想定してのケースだな
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