番外1922 冬の到来と共に
イングウェイ王が帰ってから数日。イェルダ達は精力的に訓練や視察に動いているようだ。こっちに来てから同盟各国にも知り合いが増えたので、転移門を通してシルヴァトリアやバハルザード、グランティオスといった国々にも訪れたりといった事が気軽にできる。
アドリアーナ姫やエルハーム姫、ロヴィーサといった面々がイェルダ達を誘った結果だな。
そんなわけで、イェルダ達は現状、エインフェウス本国と水晶板で連絡を取りつつフォレスタニアと諸国を行き来しつつ回っているというわけだ。それを知った東国や西方の海洋国でもイェルダ達を誘ったりしている、という状況でもある。
まあ転移門があるので日替わり諸国遍歴といった具合だが……国外の事を学ぶのであればこれ以上無いほどの環境で、中々忙しいのはそうだろうが、かなり充実した日々を送っているようである。
こちらからもフォレストバード達や改造ティアーズといった護衛をイェルダ達に付けてはいるが、国外でも楽しそうに色々と視察しているな。
俺達はと言えば、今のところはフォレスタニアで執務をしたり、水晶板でその様子を見せたりしてもらいながら、のんびりとさせてもらっている。
「ふふふっ」
と、クラウディアが嬉しそうに笑う。今日のクラウディアは中々上機嫌だ。
「どうかした?」
そう尋ねると、クラウディアがにっこり笑って頷く。
「ええ。また少し、身長が伸びていたみたい」
そんな風に言う、クラウディアの隣でヘルヴォルテがうんうんと頷く。
「なるほどね」
クラウディアが喜んでいる理由が分かって俺も笑って頷く。迷宮の管理者としての立場から解放され、肉体的な時間が流れ始めたクラウディアだ。少しずつ身長も伸び、日々成長しているのである。
俺やアシュレイ、マルレーン、エレナもまだ身長が伸びている時期ではあるが……クラウディアの場合は、管理者となった頃から行動を共にしているヘルヴォルテと比較して、身長の変化に気付きやすいのだろう。
そのアシュレイ達もにこにことしているから……クラウディアと一緒に身長を測ってきたのかも知れない。
「私達も少し身長が伸びていました」
「ふふっ。グレイス様やステフ様やマリー様のように手足がすらっとした感じになりたいものです」
アシュレイとエレナがそう言って、マルレーンとも顔を見合わせ、嬉しそうな笑みを浮かべ合っている。
「子供達も順調に育っているし、実に結構なことだわ」
「子供達もそうですし、テオもまた身長が伸びていますね。みんなの先々が楽しみです」
「どんな風に成長するのかしらね。みんな美人になりそうだけれど」
羽扇の向こうで微笑むローズマリーが言うと、グレイスとステファニアが楽しそうに応じる。
みんなの先々か。うん。子供達の将来の姿を想像するのも楽しいものだが、アシュレイ、マルレーン、クラウディア、エレナも、もう少し成長してからが気になるところだ。
みんなと、そんな話でも盛り上がる。もっと身長が高くなったらこんな服を着てみたい、こんな髪型が似合うと思う。はたまた子供達はきっと親に似てくるからこんな服を着せたら良いのではないか、といった具合だ。
そうやって盛り上がる中でお互いの髪の毛を実際に結ったり、みんなのドレスを持ち寄って合わせてみたり、子供達にもリボンを合わせたりして。賑やかながらもほのぼのして楽しい家族の団欒である。
「将来と言えば、姫様やアシュレイ様、マルレーン様やエレナ様の子供達に関しても気になります」
とのことで。そう言ったのはヘルヴォルテだ。
「えっと……そうね。その辺の事は、もう少ししたらしっかり考えないといけないわよね」
と、少し顔を赤らめつつ、クラウディアが咳払いする。ヘルヴォルテはいつもと変わらずこくんと頷いて。
「きっと、可愛らしいお子かと」
表情はそこまで変わらないが、ほんのりと表情を緩めているな。楽しみにしてくれているというのは間違いないようで。
こう、ヘルヴォルテの内面も成長しているのが窺えるというか。
うん……。でもまあ、そうだな。中々繊細な話題ではあるが、時期等を見ながら考えないといけないというのは確かにそうだ。
それでも後何年かは現状のままなので急ぎの話でもないのだけれど。
そんな話をしつつも、のんびりと時間は過ぎていったのであった。
やがて秋も過ぎ、冬がやってくる。母さんの……人であった頃の命日も近付いてきているな。冥精となった母さん自身は慰霊の神殿に出かけて祈りを捧げたりもしているが、普段は基本的にのんびりとしている。
それでも墓参りは毎年のことだ。冥精であるから母さんの精霊としての領地である墓所に祈りに行くというのは意味がある。まあ、俺達にとっての里帰りでもあるしな。父さんやダリル。ハロルドやシンシア。ケンネルやミシェルといった面々とも顔を合わせたい。
というわけで、今年もガートナー伯爵領とシルン伯爵領には赴く予定である。
今年はヴィンクル、ユイ、サティレスといった守護者面々も同行する。
タームウィルズ近郊の状況やそこで暮らす人々の様子等々……色々学んでいって欲しいところだ。迷宮の護りについてはアルクスやベリウス、カストルムにオウギといった面々が引き受けてくれるとのことで。何かあればスレイブユニットを通してアルクスが知らせてくれるだろう。
そんなわけで日々の執務を行いつつも墓参りに向かう準備も進めていった。
執務については――中々順調だ。領地の治安、人の出入りと領民の状況。温泉や劇場の運営状況。そういったものが報告として上がってきているが……治安も安定しているし、温泉と劇場の収益についてはかなりのものだ。
「報告書を見ると、やっぱり劇場の収益が良いね」
「一般席は値段設定をそれほど高くしてないというのも良いのでしょうね」
「何度か繰り返し見て楽しむものって想定しているからね。手が届く値段にしないと」
ローズマリーの言葉に頷く。そんなわけで一度見たら終わりではなく、リピーターもかなり多いのだ。何作品かを敷地内の別のホールで上映しているということもあり、連日人が並んで盛況である。
また、一般席があるということはそうではないものもあるのだが……。こちらは貴族等の貴賓用だな。演出は変わらないので上映ホールの広さ自体は変わらないが、座席の数を少なくし、内装面を強化している。
セキュリティは――一般席、限定席、どちらも取れるだけの対策をしているけれど、限定席はホール内にいるのが限定された顔触れになるから部外者が入り込める余地がなく、安全性は増すか。
というわけで国内外から人がやってきて、結構な収益を上げているのだ。それに付随してタームウィルズやフォレスタニア領地内でお金を落としてくれる。それが人の流入を呼んで、フォレスタニア領内は中々潤っている。
東国との貿易船であるヘリアンサス号の運用状況も報告として入っているが、こちらも大きな問題はなく運用できているようだ。
東西の両国に物品が持ち込まれ、少しずつではあるが売りに出されているな。まだまだ貴重な品なのでこちらは値が張るというのはあるが、その分資源、武器防具や美術、工芸品と色々な分野から品質の良いものが選ばれて運ばれている。好事家であるドリスコル公爵が買い付けに来ていたという報告もあるな。うむ。
ともあれ、一先ず収益と支出の状況は良好だ。人を呼び込む事にも成功しているし、この辺で社会に還元する方向でも色々考えたいところだな。学校や図書館といったものは仮想街に設けられているので、現実世界で必要なものが良い。この辺は皆と話し合って決めていくとしよう。